【46】熊はなぜ町中に現れ人間を襲うようになったのか?/10-30

 10月26日に埼玉県秩父郡東秩父村の「和紙の里」で、日本熊森協会埼玉県支部主催の『熊森イン秩父』のイベントが行われました。これに室谷悠子会長と共に同会顧問の私も参加して来ました。同県下を始め東京など周辺地域から多数の市民の皆さんが集まって、熱心に同会長の講演を聞き、懇談会に参加されていました(写真)。同協会は、クマの生態動向は、「森林崩壊の予兆である」との警告を、創立いらい28年ほど一貫して訴えてきています。実は、この日の催しに先立って、前日25日午後に飯能市、当日午前中に小川町の2地域で、いま進んでいるメガソーラー建設の現場周辺を見て来ました。そうしたリアルな現地の実態を踏まえて、なぜクマがいま奥山から降りてきて里山から町中にまで出て人間を襲うようになっているのかについて考えてみます。

 ⚫︎長い年月で徐々に追い詰められた〝クマたちの逆襲〟

   このところ連日にわたって、クマによる人身事故が報じられています。28日には秋田県の鈴木健太知事が、クマ対策のために自衛隊の派遣を求める要望書を小泉進次郎防衛大臣に手渡すといった事態にまで発展しました。国家、国民を守る役目を担う防衛省、自衛隊がついにクマから人間の生命を守るために出動する可能性が高まっていることに、クマと人間の関係について深い悲しみと哀れを抱かざるをえません。

 本来は奥山にひっそりと暮らしてきたクマにとって、森林は生息の質を決定づける住環境です。それが第二次世界大戦後の経済需要から木材の速成供給の道としてスギ、ヒノキなど針葉樹の大量造林に繋がりました。それに比例してブナやナラなど広葉樹林の消滅へと傾斜していったのです。豊かな陽光を想起させる天然広葉樹林から、陽が差し込まず下草さえ貧弱な人工針葉樹林へ━━林業を取り巻くこの政策転換が、大地の保水力を弱める一方、クマの住環境を決定的に破壊したのです。その結果は、川の氾濫を容易にし、クマの里山への出没を促しました。また、クマの食生活に欠かせぬどんぐりの不作が一段と拍車をかけたといえます。何も好きでクマは山を降りたのではなくやむを得ず、なのです。

 ただでさえクマが住みづらくなった奥山に決定的な影響を与えたのがメガソーラーや風力発電などの再生可能エネルギーへの需要です。あの福島原発を襲った東日本大震災以降、急速に高まった代替エネルギーへの期待。これに群がった関連開発企業群は瞬く間に全国各地に広がり、森林を襲う開発にせいをだしたのです。これらの動きがクマの住環境に決定的な打撃をあげたことにこそ我々人間が思いを致す必要があります。今目の前に展開している事態は、この30年ほどの間に追い詰められた「クマたちの逆襲」なのかもしれません。

 ⚫︎奥山の生態系を壊し尽くす新エネルギーの乱開発

  ウクライナやガザを始め世界各地で人間同士が殺し殺される場面が日常的に映像として流される日々に、日本ではクマに怯え慄く姿が報道されています。この事態を見て多くの人々は「クマは恐ろしい動物だ。可哀想だけどクマは駆除しないといけない」と思っています。しかし、熊森協会のある幹部は「本来クマはベジタリアンだったのに、放置されたままの、人間が殺した鹿や猪などの肉や、様々な異種の食べ物を漁っているうちに食習慣が変わったのかもしれない。気候変動の影響で冬眠のタイミングも狂うなど異常な状況が起きて来ている」と嘆くのです。

 メガソーラーの林立する飯能の山奥にある市有地(写真)を見に行った際に、緑滴る森林に最も相応しくない風景に心曇る思いがしました。各地で市民による反対運動が起こっていますが、その反対の理由に、森林の乱伐は景観を損なうというものは上がっていても、クマとの因果関係に気づかせるメデイアの主張は殆ど目に留まりません。同時に、クマに殺された人間を悼む記事やニュースの中に、なぜクマが最近街中に出てくるようになったのかの背景に、メガソーラーや風力発電建設に伴って棲む地を追われたクマたちの身の上を慮る考察は殆ど見当たらないのです。

 クマを恐れ、被害を嘆き、自衛隊の出動にまで踏み切ろうとすることは、所詮対処療法であり、その場しのぎにしか思えません。モグラ叩きならぬ〝クマ叩き(殺し)〟が日常的になっても事態の根本的解決には繋がらないのです。県境を越えた各地のクマたちがまるでお互いにメールで連絡を取り合って人間を襲撃しているかのように見える現状は示唆的です。〝俺たちの住まいを元に戻せ〟と言っているかのように思われてなりません。この現状を打破するには、国民全体がことの本質を見抜き、中途半端な「人間中心主義」ではなく、「生きとし生けるもの主義」に立脚する必要があると強く思わざるを得ないのです。(2025-10-30)

 

 

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