⚫︎自公連立26年の区切りを振り返る
自公連立が26年をもって区切りとなったあと、一週間のてんやわんやの騒ぎを経て、20日に自民党と維新が閣外協力の形で連立を組むことになった。ここでは、自民党との連立を解消した公明党の今後のあり方を、日本政治全体の枠組みの変化の中で総論的に考えてみたい。
自公連立の始まりは小渕首相主導の自自公政権だった。以来自由党が離脱したり、保守党が加わったりしたのちに、自公両党による政権は自民党の小泉(第二次内閣)、安倍、福田、麻生と4人の総裁のもとに続いた。その後3年間の民主党政権の後に第二次の安部政権が誕生したのは丁度私が現役を退いた頃だった。同政権は9年続いたのだが、私は引退後の閑居を契機に、現役時代の後半の自公政権下における内外の政治に関する論評を一般社団法人「安保政策研究会」の会報「安保研リポート」に書き続けた。それを2022年5月にまとめて『77年の興亡━━価値観の違いを追って』と題して出版した。更にその後、一年かけて朝日新聞Web版『論座』と毎日新聞Web版『政治プレミアム』にそれぞれ6回づつ計12回に分けて寄稿したものを、翌2023年5月に『新たなる77年の興亡』と銘打って、出版した。
この2冊が世に出たときには、既に引退後10年余が経っていた。この論考は、日本が明治維新後77年で敗戦のやむなきに至り、戦後も77年間で「第二の敗戦」とでもいうべき苦境に陥っていることを公明党の視座から論じたものだった。中身を集約すると、自公連立政権は、もう息詰まっており、「連立政権のジレンマを解消するために国民的大論争を起こそう」(続編の副題)という狙いを持たせたものであった。もっと連立を続けたいなら、国家的課題をめぐる議論をもっと詰めるべしと主張したのである。
⚫︎国家ビジョンを協議する場を持てと提案
それから3年というもの、私は飽きもせず様々な機会に自公連立を終わらせるべく手を変え品を代えて訴えた。ある時は、自公両党がこの国をどういう方向に持っていくかを明らかにせぬ限り、真の意味で広範囲の国民や党支持者の賛同を得ることは難しいとした。またある時は、自公連立は、当初は自民党の公明党化を狙っていたのに、結局は公明党の自民党化をもたらしただけに終わったのではないかと述べた。更に先の参院選における参政党の躍進については、自民党の保守色を色褪せさせたのは公明党に起因するとまで言い切った。そして、自公両党は共に長期的展望に立った日本の国家ビジョンを作る協議の場を持たぬ限り、ジレンマを解消することは不可能だと論じた。
26年にもわたる連立の間、両党はこうした協議の場作りをしないまま、「選挙協力」はそれなりの成果をあげてきた。言い換えれば、国家の基本を見据えた難題の解消への努力は棚上げして、当面の足元固めの作業に躍起となってきたわけだ。長期の関係維持には、双方の見えざる努力が必要であった。例えば9年に及んだ第二期安倍政権は功罪相半ばする歴史を持つが、同首相のたくまざる自制により公明党の協力を培った側面があったとされる。高市早苗総裁は安倍氏の後継を自認するなら、安倍的気配りの丁寧さに集約される手法を踏襲すべきだったのに、公明党の神経を逆撫でするだけの雑な対応だった。
⚫︎国民大衆のために「中道改革政治」の強化を
さて、連立が崩壊してからのこれから、公明党はどう動くべきか。同党首脳は離脱を表明して以来、自民党を主軸にした政権与党に対抗する野党勢力の中に、確たる中道改革路線の固まりを作ると述べている。与党から野党へと立場が180度変わっても、公明党が基本的に目指す政治が変わるわけではない。対外的には「国際平和」を志向し、国内的には国民生活の安定に向けて「福祉と教育」の充実に力を注ぐことは同じである。自公政権で培った統治能力の向上を背景に、国民本位の政策実現を野党の立場から取り組むことが第一に望まれる。公明党の政権離脱、維新の与党入りで政権の右傾化が懸念されているが、そうならぬようにむしろ中道改革の流れを外から強めて自民党政治の変革を進めていきたい。
自維与党連立と立公国野党共闘がかつてのような不毛のイデオロギー対決になってはならない。ほぼ30年間の日本の政治が先祖帰りのように逆流するのではなく、レベルアップしたそれぞれの力量をもとに、一皮も二皮も脱皮して飛躍することが望まれる。当面はテーマごとに、立憲民主党や国民民主党との折衝を軸に主要野党間の合意形成を計りつつ、連立与党との調整を積み重ねるということになろう。
日本の政治は「保守と革新」の対立から「保守対リベラル」の時代を経て、今後の与野党の枠組みは、むしろ「保守対中道」に変容していくものと見られる。公明党が誕生して60年。中道を志向する政党は唯一公明党だけだったが、今や主要な野党は中道の呼称を拒まない傾向にある。自民党の中にさえ中道志向の動きは芽生えてきている。その意味では「中道右派対中道左派」の様相もあるといえよう。
公明党周辺では近い将来、再び自民党との連立に回帰することを期待する向きがあることは否定できない。しかし、民主主義の基本が政権交代にある限り、自民党中心の政権勢力にとって代わる新たな中道改革政権を作る方向に邁進することが本来の道筋だろう。与野党に分かれた主要政党がお互い歪み合うことなく、信頼関係をベースに国民本位の政治実現に向けて政策合意に汗を流すことこそ望まれる。(2025-10-20)