日米地位協定で無為を続けるだけの外務省や国会ー「沖縄の今」を考える➁

「被害者としての沖縄」という課題に焦点を合わせるときに、誰しも思うのはこれまで幾たびも繰り返されてきた、米兵の乱暴狼藉であり、理不尽な日米地位協定の規定と、その運用のずさんさであろう。いたいけな少女が乱暴された上に殺されたという事件は枚挙に暇がない。その都度はらわたが煮えかえる思いがしてきた。その悔しくも辛い感情を抱かぬ日本人はいないはずなのだが、沖縄県以外の各県の人々は健忘症に罹ってるとしか言いようがないのも事実だ。私は現役の頃に、訪米の際に米国防省で、沖縄の米軍基地では米海兵隊幹部に、そして衆議院本会議場での発言の際に、言い続けてきたことがある。それは、「日本がホストネーション・サポートをしているのに対して、アメリカはゲストネーション・マナーがなさすぎる」という一点である。米軍に基地を貸与する側、受入国・日本のホストネーション・サポートとは「思いやり予算」に代表される対米便宜供与の数々である。一方、接受国のアメリカはそれに対してあまりにも礼儀知らずではないか、というのが私の考え出した”とっておきの言い回し”だ。米国に久間章生元防衛相らと訪問した際に国防省の幹部に直接伝えたし、沖縄では海兵隊幹部のR・D・エルドリッジ氏にも言ったが、ポカンとしていたり、筋違いの言い訳をしていただけ。国会でも私の発言に注目するひとや、メディアはなかった▶これについては後日談がある。エルドリッジ氏と実に10年近くぶりについ先日再会したのである。ところは神戸。私が友人と共催する「異業種交流会」の場に彼が夫人を伴って参加されたのだ。彼はその後、大学で教えたり、テレビにコメンテーターとして登場したりと、一段と著名度を挙げている。特に最近では「3・11」における米軍の獅子奮迅の支援ぶりを著した『トモダチ作戦ー気仙沼大島と米軍海兵隊の奇跡の”絆”』の著者として。彼との再会で私は満を持して、あの時の”伝わらなかった思いの悔しさ”を訴えた。しかし、だ。結局は彼は理解を示そうとしなかった(これは建前で、本心は別と、睨んでいるのだが)。沖縄における米兵の特殊な乱暴行為がいかに沖縄人を傷つけ、日本人をスポイルしているか。これに共感を抱き、恥ずかしい思いを持てないアメリカ人はいないはずで、マナーを持てという私の思いがなぜわからないのだろう。これでは、どんなに「3・11のトモダチ作戦」を強調されたところで、胸に響かない。エルドリッジ氏が優秀極まりなく、また聡明で美しい日本人の奥様を持っておられるだけにまことに惜しい思いがした▶さて、衆議院議員の頃の闘いの一つとして、日米地位協定改定について幾たびか迫ったものだが、これを否定する外務省の壁は実に硬いものであった。いつでも結論は「運用の改善で」の一点張り。米国当局が言う前に同じ日本人の抵抗に会うのは度し難い。この点に関して最近読んだ『新・日米安保論』は実に明快そのものだ。これは柳澤協二、伊勢崎賢治、加藤朗の3氏による鼎談だが、伊勢崎氏が外務省の恣意的姿勢を克明に描いていて驚嘆に値する。日米地位協定とNATO軍地位協定との根本的違いを明らかにしなかったり、一次資料をわざとしか思えないやり方でミスリードしたりする姿勢は極めて問題である。ドイツは、補足協定という形で実質的に地位協定を変更することに成功しており、日本以外の米軍受入国はそれぞれ工夫してなんらかの改定を実現している。地位協定改定は米軍を全面的に追い出すことに繋がらないのに、結局は地道な改定作業に汗を流させようとせずに、一足飛びに米軍出ていけとする沖縄の現状。この本で伊勢崎氏や柳澤氏らが日本の反基地闘争の在り方に疑問を投げかけていることも興味深い▼このように日米地位協定について、約20年もの間、外務省に一矢を報いることもできなかった私はただただ恥ずかしい限りだ。沖縄の現状を思うにつけ、運用改善などという寝言のような戯言を十年一日のごとく口にするだけの外務省に一泡吹かせたかった。今更何を言っても「後の祭り」だが、是非優秀な後輩たちにこの思いを託したい。思えば、我々の先祖は外交といえば、明治維新いらい不平等条約の改定に全てをかけてきたはずである。『明治維新という過ち』や『官賊と幕臣たち』など作家・原田伊織氏の著作に影響を受けて「反薩長史観」『反司馬遼太郎史観」に与しがちな私でさえ、明治期の外務官僚の不平等条約改定に向けての労苦は高く評価する。今の外務省や国会議員たちは対米従属に慣れ親しみ、沖縄に対する不平等性、歪みを糺すことをしないというのはまことに大きな問題としか言いようがない。いや、そういう現状を放置して、本土の人間たちが差別視したままであり続けることは、やがて全く「新たな決断」へと、沖縄を誘いかねない予感がする。(2017・7・1)

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