【96】今のアメリカを読み解く2冊の本を併せ読む/6-15

 アメリカはどこかおかしい。漠然とした疑問が2冊のアメリカ発の本を併せ読んで解けた。一つは、政治制度の腐敗化と取り巻く人間の堕落。もう一つはエリートたちの国家意識の希薄化。2つは一つ。僕の「読後感」を紹介したい。

⚫︎外国の独裁、腐敗政権を顧客に宣伝を請け負い儲けまくる

 1冊目はケイシー・ミシェル『ロビイストに蝕まれるアメリカ』(小金輝彦訳)。著者は、長くアメリカ政治の「泥棒化」を追うジャーナリスト。ロビイストとは、政府や議員ら政策決定者に対して意見や要望を伝えることを職業とする人のことで、米国では建国以来大いなる影響力を行使してきた。この本では、外国代理人登録法(FARA)という法律があるのに、登録制が無視され、世界各国の独裁政権や腐敗政権を顧客にして、カネを儲けることを主眼にやりたい放題の状態が続いていることを徹底的に告発している。

 トランプの大統領初当選以後、その選挙活動にロシアが関わっていた、つまりロシアの応援を得て当選したというニュースは耳にしてきた。しかし、よもやそれはなかろうという生真面目な思いが祟ってほぼ無視してきた。だが、この本の第15章「お前は終わりだ」から、次章「共和制が危険にさらされている」までの記述を読むに至って驚愕する他ない。加えてトランプのみでなく、バイデン以前の多くの大統領たちも無縁ではないと知った。「外国の独裁、腐敗政権の代理人」と化したロビイストたちの、カネ、かね、金の攻勢の前にアメリカ政治の制度も人間も正常さを失ってきたと見ざるを得ないのである。

⚫︎シリコンバレーで広がる企業家とエンジニアたちの意識の落差

 2冊目は、アレクサンダー・C・カープ&ニコラス・W・ザミスカ、村井章子訳『テクノロジカル・リパブリック━━国家、軍事力、テクノロジーの未来』である。著者たちは、アメリカの防衛、情報機関の基盤をAIで構築する今をときめく企業家。これを読むに至ったのは前号で紹介したように思想家の先崎氏のTV番組での勧めによる。300頁を超す(ちなみに前掲書は400頁超え)本だが、めちゃ読み易い。読み終えて「アメリカの今」がすっきりと分かった気になる。同時に題名は「シリコンバレーの落日」にでもすれば良かったのに、と思った。このネーミングには著者たちの狙いと反することを僕が期待していることを意味する。

 この本の主たる意図は第1章「さまようシリコンバレー」に尽きている。僕風に要約すると、GAFAMと略称されるような米国のテック産業は国境を無意味なものにさえするがごとき躍進を遂げたが、今になってその推進役を担ってきたエンジニアたちは、国家への忠誠心を忘れてしまい、市場における消費のみに関心を寄せるように心変わりしてしまった。彼らを呼び覚まさせ、国家、軍事力への貢献あってこその科学技術力だということを再認識させないと、中国やロシアなど敵対国に負けてしまいかねないという危機意識の発露が窺えるのだ。それを打ち消し得てこそシリコンバレーに陽はまた昇ると言っている。こういう実態は初めて知った。

 著者たちは第二次大戦以後大きな戦争はなかったという認識を披瀝する。確かに冷戦からポスト冷戦、新冷戦などと呼ばれるこの80年間の国際政治は「大国間の戦争」を回避してきたと言えるかもしれない。だが、「平和な時代」だったといえるか。朝鮮戦争からベトナム、イラク、ウクライナ、イラン戦争に至るまで地域の名の下に括られる〝悲劇の連続〟〝不幸の連鎖〟だったのだ。「核の時代の終わり」から〝AIの時代の始まり〟へと、呼び名が変わっただけなのだ。

⚫︎〝カネの亡者〟で壊れる権力と〝平和の代償〟で揺らぐアメリカ

 1冊目を読むことでアメリカという国の中枢がカネによって自壊作用を起こしていることを知り、2冊目を読むことによって、かの国を成り立たせてきた科学技術の最前線を構成する人間の意識が〝かりそめの平和〟のもとで、希薄化しつつあることを知った。つまり、円に例えると、中心部と外縁部の双方が同時進行で腐り、弱ってきていることが分かったのである。

 前者の著者は外国の誘惑の手を招き入れるロビイストによってアメリカが壊れていく現状を描き出し、後者では、このままいくと敵対国家群との軍事力競争に負けてしまうと警鐘を乱打しているといえよう。こういった事態を前にして日本はどうするか。よその国のことゆえ我関せずでいいのか。1冊目を読めと勧めてくれた元衆議院議員の先輩は、こんな国と同盟関係をいつまでも続けていくことでいいのかと問いかけてきた。2冊目の推薦者は、日本の自立への決断を暗示させる言葉で前著を締め括っている。

 「黒船来航」で否応なく「近代化」へと目覚めさせられた日本は、「敗戦占領」の80年でどうなったのか。「2つの77年」を超えて三たび目の大きな岐路に日本は立っているのだが、高市首相はその大事この上ない転機に首相の座についた巡り合わせをどう自覚しているのか。心許なきこともまたこの上ないように見える。(2026-6-15)

 

 

 

 

 

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