「老人ホーム入居」という厳かな選択

先日、新聞の「人生相談」にふと目が止まりました。普段から特にこうしたものを読む習慣はないのですが、偶々好感を持っている作家の高橋源一郎さんが回答者だったことが大きかったかもしれません。相談内容は、夫が亡くなったら、家族も友人も殆ど周りにいず、どのように過ごせばいいのか不安だという59歳の女性のものでした。源ちゃんの答えは、その女性と似て非なる自らの「不安」を赤裸々に語ったうえで、それを不安と思わない自分は、考える余裕がないからか、それとも鈍感なのかと述べつつ、他人の相談に答えている場合ではないのかも、と結んでいました。これを読んで、他人事ながら大いに身につまされてしまったのです■実は、私の60年来の友人がつい三ヶ月あまり前に糟糠の妻を亡くし、ひとりになってしまいました。たったひとりの息子とその家族は遠く離れた地にいて、殆ど交流(日常的に役に立たないということ)はありません。彼は最愛の妻への数年にわたる看病と最後の看取りを献身的に尽くしました。これからの人生をどう生きるかー彼は髪の毛がすっかり白くなってしまうほど徹底的に考え抜いたようです。その結果、全てのものを断捨離して、老人ホームに入る決断をしました。過去を引きずらず新たな人間関係のなかで生きると決めたようです。なかなか出来るものではありません。尤も、老人ホームといっても、今流行りの高級なものです。入居に一定のまとまったお金を払って権利を取得し、厚生年金支給額ほどのものを月々払えば、全て賄ってくれるのです。若き日より今に至るまで多くの時間を共有してきた親友の選択に、大いに考えさせられているしだいです■十日ほど前に、入居一週間あまりの彼のホームに行ってきました。先入観は多少ありましたが、いやはや驚きました。開けてビックリ玉手箱ならぬ、行ってビックリホテル並み、でした。筋力強化のためのスポーツジム風のものから、温泉並みのお風呂、ゆったりとした食堂、ビジター用の宿泊室(私が行っても泊れる仕組み)もあります。ただ個人の住居部分はいわゆるビジネスホテルのシングル仕様でした。といったハード面はともあれ、圧倒的な凄さはコンシェルジュの存在をはじめ、職員の丁寧さと優しさ極まる対応、つまりソフト面の充実ぶりでした。職員数も多いようで、至れり尽くせりのサービスをして貰えると友も満足しています■実はこの施設は、大阪府下にある「スーパーコート」のひとつです。関西エリアに50もあるとのこと。すでに定評のある「スーパーホテル」ー5つ星のおもてなしを一泊5120円で実現するとの触れ込みで有名ーが手がけているものでした。ホテル業界からの新規分野開拓です。山本梁介会長の著した『スーパーホテルの「仕組み経営」』によると、顧客満足も生産性もどちらも高めようという仕組みづくりは、半端ではありません。お客の快眠と健康促進についての科学的な研究を進めるために、大阪府立大の健康科学研究室と提携して「ぐっすり研究所」という機関まで設立したというのですから。快眠のための枕の研究をする一方、快眠の度合いを数値で実証しているというのです。眠れなければ宿泊料金は返金すると云うのですから、とことん徹底しています■このようなスーパーホテル(1996年に新規参入いらい、現在は全国で126店舗、海外にも3店舗)は実績十分ですが、スーパーコートの方はまだまだこれからかもしれません。と言いますのも、この分野は今まさに本格的な競争が始まったばかりだからです。他と比べたわけではないので、なんとも言えないですが、やはり〝上見りゃキリない、下見りゃキリない“というところかもしれません。我が友の決断は私からすると、どうしても〝早すぎた選択〟と言わざるをえず、独り身の面白さを満喫すべく、もっと娑婆世界でやることあるだろう、と思ってしまうのですが‥‥。冒頭の源ちゃんの人生相談の回答と同様に、独りぼっちになった時の選択は、いざとなるとなかなか難しいもののようです。(2018-7-20)

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