二つのNHKスペシャル番組を見て、心騒ぐ。一つは、『広がる〝中国化〟 一帯一路の光と影』(11-21)。もう一つは『EVシフトの衝撃〜岐路に立つ自動車大国』(11-14)。一見両者は無関係に見えるが、根底では繋がっている。つまりは、今世界はとてつもない時代の転換期にあり、その主役争いが展開されているということだ。前者の番組では、カンボジアを中国が経済支援の名の下に手中に収めていく過程がリアルに描かれていた。後者では、ガソリン車から電気自動車、水素使用のものへと変わることによる産業構造の大転換への各国の対応が描かれていた。共通するのは、これからの時代の主役は中国になる公算が強いという点である◆「一帯一路」構想は、かねてその存在が注目されていたが、いよいよ全貌が見えてきた感が強い。中国は経済発展に自信を深めてきており、これまでに関係があった国々に、順次手を伸ばしてきている。カンボジアはその典型だといえる。その昔、シアヌーク殿下が親密な関係を持ち、その後、「ポルポトの悪夢」の時代を経て、フンセン政権が今続いている。かつて日本も復興にそれなりに関わったのだが、今やこの国は中国に全面的に頼ろうとする姿が映像から読み取れた。改めて思い知らされたのは、中国のこの戦略の巧みさである。国家経営に財政的困難を極めている側にとって、喉から手が出るほど欲しい援助の数々。受け入れるなという方が無理かもしれない◆一方、「EV(電気自動車)」を巡るものは、世界の産業構造を根底から揺り動かすテーマである。テレビ放映でも、2030年、あるいは40年を目指して、これまでのガソリン車からの転換に取り組む内外の自動車産業の姿があった。この問題は、自動車にまつわる関連企業、労働者が膨大な数に及ぶだけに、そう簡単にはことは運ばない。一気に転換を図ることは大きなリスクを伴うことになる。14億もの人口を持つ中国は、技術分野での競争に勝利を収めるかどうかではなく、巨大な市場を持つという立場の優位さを意識せざるを得ない◆こう見てくると、共通するのは、「日本の疎外」という点である。かつて、日本は、アジアの盟主たろうとして失敗した。被害者と加害者の立ち位置とは別に、ほぼ同時に戦後復興に取り組んだのが日中両国だった。戦敗国と戦勝国という根本的な立ち位置は違っていたものの、荒廃から立ち上がることでは一緒だった。それが、欧米先進諸国の無為をよそに、中国は遅れた国々の救済に立ち上がるまでに経済成長をし、産業の根本的構造転換にも主役の一角を占めるまでに変身した。日本は逆に、ガソリン車からEV車への転換競争に立ち遅れ、一方、後進国救済競争でも〝疲れ〟が目立つ。この事実を前に、「77年の興亡」の決着期となる、明年以降の日本の立ち居振る舞いが決定的に重要だと思われる。(2021-11-29)