●「反撃能力」の保持を明記
これまでとどこが違うのか。「防衛に徹する姿勢」を逸脱しようとしているとの批判もある。しかし、この文書を読む限り、それは余計な心配に過ぎない。まず、第一文書の「安全保障戦略」の基本原則には「平和国家として専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」とある。従来と同様に、「専守防衛」「非核三原則の堅持」が掲げられている。わが国の領土、領海、領空の領域を徹して守り、他国の領域で戦闘行為はしないし、核についても、「持たず、作らず、持ち込ませず」の3原則の堅持をすることに変化はない。
では、どこが違うのか。まず、冒頭に「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と述べた上で、具体的に3つの隣国の動向への受け止め方を明記している。中国については、「対外的な姿勢や軍事動向は、わが国と国際社会の深刻な懸念事項だ。法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の総合的な国力と同盟国や同志国との連携で対応すべきだ」としている。
北朝鮮については、弾道ミサイルの繰り返し発射や核戦力の質的量的向上という「軍事動向はわが国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている」と、厳しく警鐘を鳴らす。また、ロシアの軍事動向は「中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念だ」と表明している。ここで、3カ国を名指して、それぞれの軍事動向を「挑戦」「脅威」「懸念」と、相手国ごとに言葉を使い分けられていることが注目される。
その上で、どう日本が対応するのかの明記が、従来との最も大きな相違点である。一言でいえば、「過去に政策判断として、保有してこなかった『反撃能力』を持つと決断した」のである。「反撃能力」とは何か。「相手からミサイル攻撃がなされた場合、ミサイル防衛により飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からのさらなる武力攻撃を防ぐため、わが国から有効な反撃を加える能力」であって、「わが国に対する武力攻撃が発生した場合、武力行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域で反撃を加えることを可能とする」と位置付けている。これに加えて、「憲法および国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではない」「武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されない」と、幾重にも条件をつけているのである。
かつて、公明党は日本を攻撃しようとする国に思い止まらせるために、「ハリネズミ国家」に例えたことがある。その表現が適切かどうかは別にして、触ると痛い目に合うぞとのイメージはわかりやすい。(12-26 以下つづく)