熊が出たぁ!越後の里は大騒ぎー「熊森協会」の懸命な闘い

「越後の山には熊が棲む。冬ごもりの前や雪解けののちには、餌を求めて里に現れることもしばしばであった。中には獰猛な人食い熊もいるという」ー江戸と越後を舞台にした無類に面白い時代小説『大名倒産』を読んでいて出くわした一節です。思わず唸ってしまいました。今私が直面している課題を連想させたからです。一般財団法人『日本熊森協会』の室谷悠子会長から、「新潟県南魚沼市の里に三頭の親子熊が出てきて、騒ぎになっている。地元では保護と殺処分の二説があります。何とか助けてやりたいので、応援を」との連絡を貰ったのは昨年の暮れのこと。いらい、私なりに地元の公明党議員団と連携したり、環境省への働きかけなど、あれこれとサポートの手を打ってきました。現在のところ、まだ自治体や関係者との間で調整が続けられているようです。熊は本来はおとなしく優しい野生動物なのですが、人間の側の過剰な防御反応が時に変身させることもあり、冒頭の浅田次郎さんの小説の一節のような表現を生み出してしまうのでしょう。熊にとってはいい迷惑なのですが▼さて、新潟県南魚沼市で昨年暮れに起こった事件とは?全国的に報道されたためご存知の向きもあるかもしれませんが、12月8日朝のこと。同二日町にある萌気園二日町診療所で、親子熊三頭が発見されたのが事の発端です。恐らく山の木ノ実(どんぐり)の不作で、お腹をすかした親子は、餌を求めて人里まで降りてきたに違いありません。たどり着いた先が診療所だったとは、ホッとする思いですが、慣れぬひとたちにとっては驚きです。さてどうするかで地元では意見が分かれました。偶々、熊森協会の企業会員である(株)マルソー(三条市の運送業者)の渡邊雅之社長がとりあえず引き取ることを申し出てくれました。南魚沼市とは百キロほど離れているのですが、熊森協会との連携をとった上で、越冬期間の保護管理をしてくれることになったのです▼「熊が暴れ出したらどうするつもりか」ー北海道を始め全国各地で熊と人間のトラブルが起こっているため、様々な反応があります。もし、少しでも人間に危害が及ぶような事態が起これば、申し開きが出来ないとばかりに、どうしても自治体の責任者は対応に神経質になりがちです。南魚沼市でも当初は保護することに懸念する動きもあったようです。しかし、熊森協会本部の積極果敢な動きもあって、なんとか殺処分はしない方向が選択されたようです。実際に現地に飛んで熊を見たうえで、周辺関係者の意向を聞き説得に当たった水見君は「通常なら母熊は50-60キロあってもおかしくないのに、30キロほどしかなく、子熊共々栄養不足の状態が顕著です。マルソーさんのお陰でこの冬を越すことが出来て、元気になったら、春には奥山に放してやりたい」と言っています▼先日、「熊森協会」の本部(西宮市)で、姉妹団体の「奥山保全トラスト」の理事会があり、私も出席しました。こちらの方は、公益法人化されて今年でちょうど5年になります。その前身時代から着実に取得されてきたトラスト地も今では全国で18箇所、約2290ヘクタールにも及びます。日本全国のトラスト地のうちこれは14%ほどを占め(全国で三番目)ます。荒廃が懸念される日本の森林。熊が里山に出没するのはひとえに、奥山が食糧不足で住み辛いからです。つまりは、熊の出没が森の荒廃の予兆となっているわけです。その因果関係を無視して、熊は人間にとって危険だから、人里に出てきたら殺処分するのが適当とばかりに安易な動きをしてしまうのは、人間の身勝手です。これは結局森の荒廃を許してしまうことにもつながります。広葉樹林の豊かな森林と大型野生動物のシンボルとしての熊の生息を可能とする奥山保全。これこそ次代に残すべき人間の貴重な遺産ではないでしょうか。(2020-2-20=一部修正)

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