森喜朗東京オリンピック・パラリンピック組織委員会長(元首相)の、いわゆる『女性蔑視』発言を巡って、日本はおろか世界中で顰蹙をかっています。結論は、お辞めになることに尽きると思います。ただ、ここでは少し角度を変えて、自民党論から日本の政治について思うことに発展させてみます。
●安倍晋三前首相の森、小泉論議から
森さんと私の幾つかの出会い、思い出については既に「回顧録」に書いています。一言で言えば、〝軽口居士〟です。私も注意せねば、と自ら戒めてはいます。一点、今まで書いてこなかったことを披露します。かつて、安倍晋三前首相が赤羽一嘉代議士(現国交相)の応援に神戸市にやってきて応援演説をしてくれた時のことです。前首相は、自分が支えた二人の元首相(森喜朗と小泉純一郎両氏)を比較し、こんなエピソードを伝えてくれて会場は沸きました。
まず小泉さんについて。あの人は、人からものを贈られるのを嫌う。送ってきた人には、受取人払いで送りかえすのです。知ってる人はあの人にはものを送らないことにしています、と。一方、森さんは、懇談している際に「君のそのネクタイいいねえ。自分で選んで買ったの。それとも誰かにもらったの?」と訊いてこられるので、えーっと、誰だったかなぁと思案していました。すると、「それは、僕があげたもんじゃあないか。覚えておかないとダメだよ」と。以来、私は人から頂いたものは忘れぬようにしているのですが、と言われたと記憶しています。ただし、この最後の安倍発言は定かではありません。
●自民党の派閥抗争の淵源
実は安倍晋三、小泉純一郎、森喜朗の3人はいずれも自民党清和会に属します。かつての福田赳夫元首相率いる派閥の流れを組むグループです。3人に福田康夫元首相を加えた4人は皆同じ派閥出身ということになります。といっても、福田康夫さんは他の3人とは肌合いの違うところがありますが、ここでは深入りしません。森さんは就任当初は、3年ぐらい経ったら今の立場の後継には、安倍さんをと思っていた、と述べていたようです。かくまで長く首相をやるとは思っていなかったということでしょう。
ともあれ、21世紀を迎える直前に首相だった小渕恵三さんが最後のいわゆる経世会(田中角栄、竹下登の流れを汲む派閥)出身で、以後は、森、小泉、安倍、福田、第二次安倍内閣と、宏池会(池田勇人、大平正芳元首相ら)の流れに属す麻生太郎元首相を除き(勿論、民主党政権も)、ずっと清和会が自民党では主流なのです。
長々と自民党の派閥について述べてしまいました。私のような昭和40年代に新聞記者をしていて、平成の時になって暫く経った頃(西暦では90年代初め)に政治家になったものからすると、経世会の盛衰が見えてきます。政治改革の嵐が吹き荒れていた頃、自民党の人たちから、経世会の鬼子としての小沢一郎さんの怖さを聞かされることが少なくなかったのです。わかりやすく言えば、当時、角福戦争(経世会と清和会の抗争)の尾を引き摺って、虐げられてきた清和会の人たちを中心にした経世会への怨念のようなものが渦巻いていたのです。あれから30年ほどが経って、もはや表面上にはそんなことは見えません。しかし、底流には蠢いているような気がします。(この項続く 2021-2-8)