伊藤博文(初代)、陸奥宗光(4代)、林董(ただす=10代)ーこの3人は、いずれも兵庫県知事の経験者(ただし、選挙を経ずに任命された官選知事)。後に首相、外相として活躍した。官選知事といえば、沖縄戦時の島田叡(あきら)が忘れ難い。誰もが敬遠した地に覚悟のうえで赴いた。彼の地を最後の最後まで守り抜き、県民と共に散った。誇るべき兵庫県人である。同じ呼称ではあれ、今昔の比較に意味はないが、ついついやってしまう誘惑に駆られる▲兵庫県知事選が告示されて10日が経った。一歩リードと伝えられる若い方の候補者の街頭演説を聞きに行った。西明石駅前。懸命の頑張りの一方で失言が懸念される、新型コロナ担当・経済再生大臣のお膝元。この一年半というもの、殆ど地元に顔を見せられず、応援とはいえ蔓延後初の街頭お目見えとなった。この候補者の担ぎ出しに一役買ったとされる。二人に共通するのは、兵庫県で生まれ、東大に学び、共に高級官僚となったこと。総理と知事と、目指した先だけが違った▲この県知事候補の名は、生まれ育った頃の兵庫県知事の名にあやかって付けられたという。珍しい。「昨年6月に知事選出馬を誓い、一人ででも闘うと決意した」とこの日も発言。兵庫県を射程に意識したのは一年前でも、「知事」を目指したのは総務省入省時点だとの風評が専ら。力量は未知数ではあるものの、志の確かさが光り、運の強さが輝く▲前副知事で、もうひとりの有力候補もまた同じ東大出の総務省出身。ほぼ20年の歳の開きがある。こちらは現知事を支えること10年余。兵庫県政を隅々まで知り尽くした練達の士。誰しもが認める圧倒的な人柄の良さ。約20年後輩の思わぬ挑戦に、演説の声を荒げ、闘志を剥き出しにする。官僚人生最後の修羅場に真価が問われる▲旧自治省出身で副知事から知事への流れは過去4代続く。長きがゆえ、古さゆえの長短所がどう影響するか。維新支配下の大阪府の財政課長からの転身をどう見るか。両者いずれ劣らぬ、いわゆるエリート。冒頭に挙げた官選知事に負けぬ、命がけで県民を守る姿勢を期待したい。投票日まであと一週間、今の私は〝赤勝て、白勝て〟の心境である。(2021-7-12 一部修正)