令和3年も押し詰まった12月18日に私の著作が出来上がった。この5年ほどの間に『安保研リポート』に公表した20本ばかりの評論をベースに、「緒論」をはじめ、タイムラグを補うための〝まとめ〟を付け加えたものである。ここでは、この本をなぜ出すに至ったかについて触れてみたい。当初は、外交、安全保障に関わる論考だけをまとめて、裏舞台を含めてその真実を残そうと思ったのがきっかけである。当事者が書かないと、歴史の闇に葬り去られてしまうのは無念だとの思いがあった。有り余る引退後の時間の中で、一般社団法人「安保政策研究会」のリポート誌への寄稿の機会を利用させて貰った◆ただ、いざ本にしようとすると、分量が足りない。やむなく、内政分野も入れることにした。リポート誌への投稿段階から、公明党の路線を巡ってあれこれ注文をつけて書いていたのが幸いした。ところが、今度は出版してくれるところがない。ある出版社を安保研の理事長から紹介して貰った。そこの出版社の社長は全部読んだ上で、「興味深いテーマについて論及されており、面白い。充分これは出版に値する」と言ってくれた。ただ、「憲法観」だけは気に入らないと仰る。その人は護憲論者。私は憲法9条を含め加憲論に立つ。書き直せとぃわれても応じるわけにいかない◆そんな折に、この5年ほど付き合っている地域産業活性化支援プロジェクトマネージャーの勝瀬典雄氏(関学大大学院講師)より、自分の関わっている出雲市の印刷会社から出版をしてみては、と持ちかけられた。私の本の出版をきっかに、後続を期待して同市の地域おこしにも役立てたいというのが、この人の目論みだった。これは新しい試み好きの私の志向ともマッチする。二人の意気に呼応した印刷会社社長も社運をかけて、出版業に乗り出す決意を固めてくれた。公明党の元衆議院議員が書いた評論集など、一般受けするとは思えない。本のタイトルをどうするかで思い悩んだ。中身を正直に反映させれば、「中道主義・公明党の政治選択」といったところだが、それでは読者層が限られてしまう。私の論考を読んだ勝瀬氏からは、今の国民各層が広く抱く政治への不満を抉り、そのよってきたる根源を明かす内容だ、とのおだてに近い論評を貰った。公明党色を抑え、読書欲を掻き立てるタイトルにすべしとの〝御宣託〟をもいただいた。根は真面目な私としては不本意だが、乗ることにした◆この本には、三つの特徴がある。一つは、明治維新から二つの77年というサイクルを通じて日本近代の流れを概括しようというものだ。キーワードを価値観においた。二つ目は、中道主義を掲げて登場した公明党という存在が、具体的な政治選択の場面でどう立居振舞ってきたかをつぶさに挙げている。結党から60年近く経とうとしているこの党の有り様に、歯に衣きせず切り込んでみた。三つ目は、この年に77歳の喜寿を迎える私の自伝的色彩である。若き日より、池田先生の思想に深く傾倒し、また公明新聞記者として培った視点をいかんなく発揮したと自負している。この国の政治を真っ当なものにしたいという思いは一貫して変わっていない。私の仕事における巨大な先輩・市川雄一元公明党書記長が口ぐせのように言っていた言葉を今改めて思い起こす。「政治家がものを書いていいのは引退後に書く回顧録だけ」ー政治家はプレイヤーに徹せよとの戒めだった。しかし、ついついウオッチャーの性分が頭をもたげ、結局は中途半端な〝もの書き政治家〟に私は終わった。今この本を出版して長年の呪縛から漸く解き放たれた気分である。(2021-12-30)