選挙後7月19日に岸田文雄、山口那津男の両党首は、既に結んでいる政権合意に基づいて、結束して課題解決に当たろうとの確認をしたとの報道に接しました。公明新聞には、「核廃絶へ、国際会議をリード」と、ありました。8月に国連で核拡散防止条約(NPT)再検討会議があり、そこに岸田首相は出席します。それに対して、エールを送ったわけで、選挙後の政権にとって、いい滑り出しが出来ました。ですが、まず早急に求められるのは、政策レベルのことは当然として、国家としての骨太のビジョンを、政権与党が一緒になってまとめ上げることではないでしょうか。
そんなこと、今更といわれるかも知れません。しかし、先ほど述べましたように、今日本は大きな岐路に立っています。気候変動による〝予測される地球の危機〟にどう立ち向かうか。まさに、その時に未曾有の疫病・新型コロナウイルス禍に襲われ、財政難は天井知らず、社会保障のありようが根底から問われています。しかも、ロシアのウクライナ侵攻という国際政治のこれまで続いた枠組みを揺るがす事態で、一国の安全保障も従来的対応では済まなくなってきているのです。
社会保障、安全保障、エネルギー保障、少なくともこれら国家の根幹をなす3分野では、与野党で共通するビジョンが確立されていないとなりません。しかし、正直なところ、この分野でさえ自公両党間の腹構えが一致しているようには見えないのです。
まずは社会保障から見ましょう。世界で最も早いスピードで少子高齢化が進む「人口減少社会・日本」にあって、安心して暮らせるビジョンが提示されているのでしょうか。年金、医療、介護といった社会保障分野の費用が増える一方で、格差や貧困がどんどんと顕在化しています。いわゆる「アベノミクス」が、一時しのぎ的には効果があったと見る向きもあるものの、将来世代に負担を課す財政の負担の基本に何らの変化も起きていません。
岸田首相は「新しい資本主義」を掲げ、事態変革に意欲を見せているものの、その発想たるや〝分配は経済成長〟で、との従来路線のままなのです。気鋭の経済学者・斎藤幸平氏が『人新世の「資本論」』(2020)で、「脱成長」を掲げ、古い世代の「成長一本やり」に疑問を投げかけ挑発しても、国会や論壇の動きは鈍いままです。首相の対応は、斎藤氏の問題提起を「新しい社会主義」の提唱と曲解したゆえか、と錯覚さえしてしまいそうです。
社会保障分野の課題解決では、消費税をどうするかが常にネックになり、財政の根源的なありようについての議論はなおざりになってきました。ベーシック・インカムやベーシック・サービスの導入などを含む根源的な財政論議を経たうえでの、日本の未来社会へのビジョン策定が強く望まれます。(8-6 つづく)
※これは、さる8-1に毎日新聞Web有料サイト『政治プレミア』に掲載されました私の『「連立政権は当たり前」か』の寄稿を転載したものです。