【95】政策展開の巧みさと相反する振る舞いと━2023明石市長選を前に(上)/3-10

 淡路島が指呼の間に横たわる明石港。直ぐ背後には「魚の棚(うおんたな)」と呼ばれる商店街が賑わう。潮の香漂う港町は、御食国(みけつくに)の玄関先でもある。そんな明石を本拠地にする船会社に私が関わるようになったのは、議員を引退してしばらく経ったころだった。銀行員だった亡父が同地の支店に勤めた後、晩年に小さな洋装店をこの地で営んだご縁もあった。私が生まれ故郷の姫路から西明石に移転してきたのは、コロナ禍が本格化する直前2019年晩秋のこと。一人娘が孫たちと共に住む地に吸い寄せられたことも否定できない◆その年の春に行われた市長選。我が家での会話が忘れ難い。各種選挙において、私の勧める候補者に異論を唱えることがなかった娘夫婦が珍しく反発したのである。「子育て真っ最中の私たちにとって、泉房穂市長を除く選択肢はあり得ません」というものだった。同市長はかつて衆院選に敗者復活から比例区で当選したことがある。公明党の貴重な議席・兵庫2区への挑戦者だったこともあり、その「横顔」には注目した。漁師を父親に、障がい者の弟さんを持ち、東大卒という生い立ちはもとより、ひとたびはNHKで仕事をしたり、衆議院議員秘書の経験や弁護士資格など、多彩な経歴に驚いたものである◆兵庫選出の同僚議員として机を並べたのは一期だけ。その言動はあまり記憶にない。次に出会ったのは彼が2011年の市長選に出馬、当選を果たした頃だったが、当時はその立ち居振る舞いが物議を醸すことはなかった。私が議員を引退(2013年)したのち、明石港でのある式典に出席した際のこと。久闊を叙する言葉をかけたあと、私は「明石も駅周辺は活気があるけど、ちょっと離れると、シャッター街が目立つねぇ」と、正直な物言いをした。瞬時、目が光り、口もとが動きかけた。が、何事も無くその場は終わった◆以来10年足らず。同市長の変身ぶりには良しにつけ悪きにつけ、大いに戸惑う。悪しきケースは後述することにし、まずは良い方から触れてみたい。彼の著書『子どものまちのつくり方──明石市の挑戦』(2019年)には刮目させられた。その本には、著名な経済学者との対談が含まれていた。子どもを中心に据えた町づくりに取り組む同市長を高く評価されていたことが印象深い。私的には子育て政策もさることながら、充実した図書館運営に強い関心を持つ。引退と同時に蔵書を大幅に整理縮小した者にとって、駅前にある市立図書館は、実に利用しやすい。市職員や市議会議員に感情の赴くまま暴言を吐く態度と、市民本位の政策を次々と打ち出す政治姿勢と。ひとりの人間にまったく異質の人格が同居しているかに見えることには困惑するばかりだ。(2023-3-10   つづく)

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