瀬戸内海の島々をめぐる旅を内外の旅行客に提供しようという壮大なプロジェクトに私がかかわってほぼ2年が経とうとしています。ようやく25日に実質的な船出をすることができました。一般社団法人「瀬戸内海 島めぐり協会」の第一回の理事会が淡路市内のホテルで開かれたのです。思えば衆議院議員を辞してこの年末で3年。その大半の日々をこの協会作りにかけてきました▼まだまだ道は遠いと言うか、航路遥かなのですが、それでも前途に灯が見えてきました。このプロジェクトはまずは淡路島へ海外からの外国人客を引き込もうという狙いがあります。実はかつて関西国際空港から淡路島への定期航路はあったのですが、採算が取れず中断されたままになっています。明石大橋が完成したことで陸路優先の流れができてしまい、海からのアクセスを利用する手だてが後方に追いやられてきたのです。それをなんとか変えたいという志を持った人々で、この集まりは成り立っています▼会長の中西進先生は、この日の会合での挨拶で、ご自分が香川県の生まれであることから、日本の原風景といってもいい瀬戸内海に感慨深い思いを抱いていると、感情込めて語っておられたのが印象的でした。ツアーという言葉が轆轤(ろくろ)を意味し、また旅という言葉も回るという意味合いを持つことを明らかにされ、島めぐりこそ旅の原点であるという趣旨を述べられたのも大いに心を打つものがありました。中西先生とはつい先日京都の右京区立図書館で開かれた月例の「映画鑑賞会」でご一緒しました。島めぐりの打合せで訪れた際に、「時間があるなら、映画『ニューヨーク八番街の奇跡』を見ていかないか」とのお誘いを頂いたのです。終了後に中西先生ご自身が解説をされることになっているというのです。50人ぐらいの市民の皆さんと一緒に鑑賞したあとの即興での映画評論は実に鮮やかで、心底から感銘を受けました▼総合雑誌『潮』の新年号では、巻頭のずいひつ『波音』に中西先生の新連載「こころを聴く」が始まりました。第一回目の「原点」では、ご自身が社会人として初めて務めた都立の夜間高校の教師時代の経験を語っておられます。わずか一年で頓挫してしまった教師として生活での切ない思いは読む者の胸を打たずにはおきません。しかもこの地が「東京都の大田区、森ケ崎という海辺での思い出である」と締めくくってあったのには、驚きました。結論部分の5行が次ページに跨って掲載されている(読み始めの最初は気が付かない)のも”編集の妙”と言えるような気がしてならなかったのは私だけではないと思います。これから一年、この随筆を読みつつ、また京都での映画評論を聴くのを楽しみにしながら、島めぐりの仕事を先生と二人三脚で進めていきたいと密かに心弾ませています。(2015・12・26)