『チェーン・ディザスターズ』──「波状的に襲いきたる大災害」とでも訳せばいいのか。小説家・高嶋哲夫さんの近く出る予定の新刊本である。「南海トラフ巨大地震」がもし起こったらどうなるか。それを生々しいタッチで描く。壮大で精緻な想像力を駆使した、恐ろしいまでの近未来小説(202×年)である。この人は、デビューから30年ほどの間に次々と大災害の発生を予告し、我々市民に警告する小説を書き上げ、多くの読者を震えさせてきた。この度の本はこれまでの集大成といえ、例え方は稚拙だが、あたかも正月とお盆、夏祭りと秋祭りとが一緒にきたような騒ぎを描く。正確な対応を急がねば、日本はまさにこの本に描かれているように、奈落の底に陥るに違いない◆GW最後の6日のこと。彼の神戸市垂水区の高台にある事務所に、ファンであり、読書仲間でもある男女5人が集まった。この本をめぐる宣伝戦略を口実に。さて、本の概略を紹介する。この小説は、いきなり東海地震と東南海地震が同時に起こり、時の環境大臣・早乙女未来が総理官邸からヘリで横浜、小田原上空を飛ぶ場面から幕を開ける。以後、南海トラフ大地震・大災害へと矢継ぎ早に繋がる。悲劇の舞台は、「半割れ」の発生で、四国・高知へと移り飛び南海地震へと続く。さらに東京直下型地震が容赦なく発生。被災地域は大きく広がり、太平洋側は驚天動地の大騒ぎに。そこへ大型台風が直撃。豪雨で、荒川の氾濫を招く。さらに富士山までが大噴火を起こす。噴煙やら砂岩粉が東京を襲い、不可避的に「首都移転」が緊急課題になっていく。この間、次々と閣僚が大災害の犠牲になり、死や重傷を負う混乱に。そんな中、当選回数も年齢も未だ若い女性環境大臣が活躍。防災大臣に抜擢され、そして‥‥という風に展開していく。その背景には、民間IT企業のCEO・利根崎高志による災害援助ソフト「エイド」の縦横無尽の活躍があった◆こう書いてきて、高嶋さんの災害ものの作品が全てここに顔を出していることに気づく。『M8』『TSUNAMI』『東京大洪水』『首都崩壊』『富士山噴火』『首都移転』といった作品群がほぼ全部この小説に出てくるのだ。彼の未来予測と想像力の非凡さは、コロナ禍を連想させた『首都汚染』をあげるだけで十分。それだけでたまげた私など、こうした災害のチェーンぶりを見せつけられると、ただただ唖然とするしかない。高嶋さんはこの懇談たけなわの場で、大きな災害や事件が起こった際に、それを一般市民に報道する立場の新聞記者たちの姿勢をどう思うかとの質問を私に投げかけてきた。科学的知見も疎かな上に、歴史から学ぼうとする姿勢にも乏しいというのだ◆彼はコロナ禍にあっての報道の有り様に大いなる疑問を持った。日々眼前に現れた数字は科学の目から見て正しいのか?立場により、統計によって見方は変わっていないか?忖度は含まれていないのか?と。日頃の鬱憤が堰を切るように繰り出された。事実をできる限り正確に、客観的に伝えるという記者の本分が活かされていないことに疑念を持ったに違いない。忖度も偏向もない客観的事実こそ今求められていると強調した。私は黙って聞くしかなかった。これ以上の「奇」はないぐらいの小説を書いた作家の心底からの怒りと苛立ち。作られた「事実」を疑う姿が印象深い。「事実は小説より奇なり」との警句が耳元で響く。(2024-5-11)