NHK総合テレビが180日間にわたって政治家たちに密着取材し「なぜ政治とカネの問題が繰り返されるのか。問題の根源に何があるか」をインタビューした映像がさる14日に放映されました。前半は、岸田首相、茂木敏充幹事長、二階俊博元幹事長らが登場。また、平成の政治改革論議の際に大きな役割を果たした佐々木毅元東大総長も。たてまえと本音が入り混じっての奇妙な言説が飛び交い、様々な意味で考えさせられる番組でした。
●自民党内の責任の擦り合い
まず、岸田首相は、政治とカネの問題がなぜ繰り返されるのかとの問いに対して、型通りのお詫びの言葉を口にしたあと、「議員や秘書の中に『何かおかしい』との違和感や問題点を感じた人も少なからずいたが、コンプライアンス意識、法律を守ろうという意識が欠如していた」からだと、〝他人ごと風的言い訳〟をしました。安倍派の元座長だった塩谷立氏は、地元での挨拶で、自らの潔白を主張する一方、収支報告にきちっと記載をすればいいのに、しないのがおかしいと述べました。自分は立場上の責任を取らされ、党全体の責任者である首相や党幹部が責任を取らないのはおかしいと、〝泣き言風のグチ〟を淡々と述べていました。
これに対して、茂木敏充幹事長は、党の責任者として身内の責めを問うことは苦渋の決断だったとしおらしく述べるとともに、派閥解消はこれで終わりではなく、不断の改革努力が求められると、曖昧模糊とした責任回避の発言をしました。つまり、視聴者は程のいい「責任の擦り合い」を見せつけられただけでした。
●言い分け、開き直りで、変わらぬ習性
面白かったのは、今回の一連の出来事の当事者の2人が本音を明確に語った場面です。一つは安倍派の菅家一郎衆議院議員の言動です。彼は、地元でのお詫び行脚に歩く中で、「お騒がせして申し訳ありません。一からまた出直しします」との〝定番の釈明セリフ〟を口にし、赴いた先の商店でお土産を大量に買っていました。「こうやってお話ししながら、買ってあげる。コミュニケーションが大事なんです」と。車中で、「人件費、事務所費、印刷代、通信代、燃料費などをどう捻出するか。事務所運営に追われているのが現状です」と率直に語っていました。最前線の政治家のありのままの習性と本音が語られたのがとても印象的でした。
一方、派閥の領袖でもあり、次の総選挙では引退する二階俊博氏が歯に絹きせず語っていたのは迫力がありました。記者から平成の政治改革のときに派閥は解散されたが、その後復活しました、と水を向けられると,「それは当然です。うちには派閥ないんですなんて、そんな純粋な水みたいなのが集まってね。何かできるかって、そんなの何の力にもパワーにもならないよ。人が寄ったら派閥があるんだよ。その派閥というのをどう活用していくか。そこが大事だわね」。「派閥解消」は口先だけで、やがて復活すると言ってるわけです。
カネがかかる最大の要因は、選挙だとして、こうも語っていました。「政治にカネがかかるってことは、我々も若いころ言われたよ。『カネはあるか」と。『今度選挙に出るそうだけど、どういう政策に力点を置いていこうとしてんのか』って、そんなこと聞く人誰もいないんだよ。みんな『カネがあるか』って、こう来るよな。腹立ったよね。そういう世界にさらされるわけだよ。いま『パーティー券何枚にしましょうか』と、パーティ券の2枚や3枚で政治になるかよ。生徒会の選挙でもならんよ」と。
自民党政治の原風景が見事なまでに描き出されています。このあと、政治も新しい時代の進展の中で変わらなきゃあいかん、との趣旨の言い回しが付言されていましたが、付け足しのように聞こえました。
●「永遠の課題にはその都度やるしかない」と政治学者
こうした政治家の動きについて、30年前のリクルート事件に端を発した「平成の政治改革」問題で活躍した佐々木毅元東大総長の発言が印象的でした。長い歳月の経過を物語るように、杖をついての白髪姿で登場した佐々木さんは開口一番、「一体、この30年間は何だったろうな。政治家たちが問題を真剣に議論し交渉し、改善をするというような機会がなかったままに過ぎ去ってしまった」と述べられました。痛烈でした。私も議員駆け出しの頃から今まで佐々木さんの言動を注視してきましたが、この度のテレビの画面での佇まいは、まるで罪を一身に背負う主犯のようで、哀れさを抱くばかりでした。
「政治家たちの本音ベースは『政治とカネの問題があまり透明化され過ぎないように』という気持ちがないわけではない。これは永遠の課題で、モグラたたきゲームみたいなもんで、その都度、その都度やるしかない」と、腹の底から絞り出すように言われたのがあたかも遺言のように聞こえました。(2024-7-20 以下続く)