【172】「与野党合意」より「与党修正」に方針変更━━NHKスペシャル『政治とカネの攻防』から(下)/7-27

 「政治とカネ」をめぐる今回の各党間の攻防は、30年前に比べると議論の成り行きはお粗末そのものと言わざるをえませんでした。「政治改革」と呼ぶには値せぬ、矮小化された結論に終わりました。「改革」は継続するとの言い振りも聞こえてきますが、当座をやり過ごせば後は野となれ山となれの空気が漂っていると見るのは酷でしょうか。以下、後半のテレビ放映を要約しつつ、「攻防の顛末」を整理してみます。

●「カネの集め方」と「再発防止」のすれ違い

  自民党の政治資金集めの収支報告の杜撰さに端を発し、同党の裏金作りの実態を追及する声の高まりの中で、今回の「政治資金規正法」改正の議論は展開しました。素直に国民的関心に耳を傾けると、「自民党は現行法のルールを破ってまで、どうしてこんなにも多額のカネを集める必要があるのか」に尽きました。一般的には、「カネの集め方」にまでさかのぼっての議論が期待されましたが、自民党はそれを避けて、今回のようなケースの「再発防止」に的を絞ろうとしたわけです。体よく問題をすり替えたともいえます。

 立憲民主党は①政治資金パーティーの禁止②企業・団体献金の禁止という政策を掲げていたのは周知の通りです。テレビ放映では、立憲民主党の支持者の「月5千円、年間6万円の寄付で政治家を育てる」との主張が印象的でした。それに対して自民党の支援者が「現状は資産家でないと政治家になりにくい。だから、資金集めのためのパーティーや企業団体献金も必要なんだ」と述べていました。

 今回の国会での議論の核心はこうした議論の食い違いをどう乗り越えて、与野党間の合意を形成するのかにありました。私などは、中道政党公明党の合意形成力の発揮に期待したのです。しかし、残念ながら野党とりわけ立憲民主党の歩み寄りを促すには至りませんでした。しかし、その代わりに自民党の持論を譲らせ、公明党の主張に近づけさせることに力点が置かれ、それは見事に成功したのです。つまり、与野党合意ではなく、自公与党間合意です。政治資金パーティーの対価支払い者に係る公開基準額が現行20万円超だったのを、一気に5万円超にまで引き下げることに公明党は成功したのです。

 テレビ放映では、この合意に自民党内の反発が強かったこと━━公明党の要求通り引き下げるのは否定的で、一定程度の匿名性を担保して20万かせいぜい10万円にする案こだわった━━を様々な角度から描いていましたが、最終的に岸田首相が山口氏の、「国政選挙に影響が出る、自党の主張と有権者の反発とどちらが大事か」との説得に負けたことが浮き彫りにされていました。

●立憲民主幹部の失敗と維新党首の当てはずれ

 一方、野党の側からは、大きく2つの失敗、思惑の違いが露わになってしまいました。一つは、立憲民主党の岡田克也幹事長らが国会論議の最中に、自らのパーティー開催が取り沙汰されたのです。これは「タイミングが悪かった」では済まされないお粗末さです。事前に取り下げていればいいものを、「税金と自己資金だけでは事務所費用を賄えないことをどうするか」などという、自分の党の方針と相反することを、未練たらしく言う場面が報じられていたのは何をかいわんやでした。

 もう一つは維新は衆議院サイドでは、政策活動費などをめぐって自民党との合意ができ賛成しました。だが、かねての主張だった旧文通費の処理の仕方について、岸田首相が裏切ったから信頼関係が壊されたとして、参議院では反対に回ったのです。〝騙した騙された〟とは、国民から見て分かりづらいこと夥しいです。政党のエゴと捉えかねられない醜態だったと言わざるをえませんでした。

 こういう事態に対して、岸田首相は、「自民党は自らが起こした問題について、信頼回復に向けて誰よりも汗をかかないといけない。引き続き政治の信頼回復に取り組む」。茂木幹事長は、「総理総裁としての決断がなされた。オカネのかからない政治に持っていく。そのための制度改革だが、過渡期においては透明性を確保しながら資金を集める手段が必要だ」と、問題の本質からずれた言いぶりに止まっていました。一方、立憲民主の泉代表は「みんなでルールを守ればいい、これまでの資金源をつなげていきたいという考えでは政治は何も変わらない」と、正論を述べるだけ。政治を変えるための妙案は出ないままでした。

●「悪魔を完全に祓ったとは言えず」

 では、これからどうなるのでしょうか。政治学者の佐々木毅氏は、有権者の姿勢も問われるとして、「政治家と有権者は本来、協力関係と同時に緊張関係も孕んでいる。(今回のことは)この関係を考えろということを教えている教材のようなものだ。現実というものを直視するスタミナを持つことが大事だと思う」「法改正だけでは悪魔を完全に祓ったとはいえず、今後の議論を忍耐強く見ていきたい」と述べていました。諦めずに現実を直視して、政治変革にいどみたいと、ご自身に言い聞かせているように聞こえました。

 闘いすんで日が暮れて、カネまみれの自民党が作り上げた荒涼たる風景の中で何が見えてきたでしょうか。抜本的な政治改革の糸口には程遠いものの、公明党の自民党変革への意欲だけが浮き彫りになったと言えると思います。本当のところは、野党の変革をも促したかったのですが、ないものねだりだったのは残念でした。(2024-7-27  この項終り)

 

 

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