海の日の7月15日。朝早く、私は明石市にある住まいを出て電車を乗り継ぎ1時間ほどで、神戸市東灘区にある阪神電車魚崎駅へ。そこから歩くこと30分。「海上自衛隊阪神基地」に到着しました。ここはあの29年前の阪神淡路大震災の折に、海路からの被災地救援拠点として大きな役割を果たしたところです。どうしていま私はこの場所に行ったのでしょうか?実は、私の所属する『シニア異業種交流会』から、イージス艦(護衛艦『摩耶』)が横須賀から神戸に来るので体験搭乗しに行かないか?」との誘いがこの春にあったのです。滅多にないことだから、との気楽な気持ちで参加を決めていました。この護衛艦が世に出て4年目。普段は横須賀基地。全国で8隻保有されるイージス艦はそれぞれ担当する月に、日本海に出向きます。北方の隣国から飛んでくる弾道ミサイルなどへの対応に従事(基本的に1ヶ月サイクル)するためです。今回のように我々一般市民(350人づつ朝と昼とに分かれて参加)に公開して見せてくれることは珍しく、大いに有難い機会でした。短い時間でしたが、私はできるだけ隊員の皆さんの生の声を聞くように心がけました◆時あたかも「自衛隊創立70周年」という記念すべき年。外にロシアの対ウクライナ戦争、中国の軍事力増強のもとでの「尖閣」海域侵犯、北朝鮮の度重なるミサイル発射という挑発などがある一方で、内では信じ難いような不祥事の現状に直面しているのです。まさに「内憂外患」です。不祥事については、防衛省全体で218人にも及ぶ多数の幹部や隊員の一斉処分に踏み切ったのですが、内実は、「特定秘密」の杜撰な管理から、パワーハラスメントに至るまで多岐にわたっています。とりわけ「問われる海自の倫理観」(毎日新聞7-13付け)と報道されているように、訓練実施をしていないのに、したように申請して不正に手当を受給したり、基地内で金を払わずにただ喰いする不正飲食など、いかにもさもしい実態が暴露されています◆その一方で、海自は川崎重工業との間で裏金を捻出しての利益授受の疑いが浮上、防衛監察本部による特別防衛観察の対象にさえなっているのです。かねて防衛分野という閉鎖的な産業との関係で陥りやすい不正として懸念される向きがありましたが、「やっぱりか」との負の感慨を持たざるを得ません。こっちは年に数億単位で、10年以上にわたって架空の取引が行われていたとみられるスケールの大きさに唖然とするのです。海上自衛隊というと、さる4月に哨戒ヘリコプターSH-60K機が伊豆諸島鳥島沖合で衝突し墜落、8人が死亡した悲惨な事故が起きたばかり。更にちょうど1年前の4月には陸上自衛隊のUH-60JAヘリコプターが沖縄県宮古島沖で墜落、10人が死亡しました。自衛隊機の訓練中の事故死が伝えられると、とても複雑な思いに駆られてしまいます◆こうした現状を背景に、私は、入隊1〜2年目の新人から、20年余りの士官まで男女合わせて5-6人の隊員と、あれこれと立話をしました。尤も、いかに今回の海自の不祥事に疑問を持っていても、流石に露骨に批判の矛先を向けるわけにもいきません。やんわりと空気を探りました。その結果、彼らの常日頃の心情やら仕事への意気込みを察知できたのは収穫でした。不祥事や事故のなか、自衛隊に応募する人たちが減少する空気が高まってくるのを懸念するのですが、少なくとも今日会った隊員たちからはいかなる〝マイナスの雰囲気〟も伺えませんでした。ある士官に、かつて私が幹部候補の隊員と意見交換をした際の質疑応答を例に出しました。彼から「政治家は一体いつになったら自衛隊を憲法上で認めてくれるのですか」と問われたことです。忘れられぬ問いかけです。いらい20年あまり、憲法9条に自衛隊を明記する必要性を感じる契機になっていると伝えました。イージス艦に乗務する隊員と会話して、改めてその任務の重大さに思いを凝らすと共に、彼らの普段からの努力に応える政治であり、感謝する市民でありたいと強く思ったものです。(2024-7-16)