お盆の只中、14日に岸田文雄首相が退陣を表明した。それを受けて自民党の総裁選挙に向けての動きが活発化している。個人的には岸田氏は続投を貫き通すのではないかと思っていただけに拍子抜けしたことは否めない。尤も普通に考えれば、とっくに日本のリーダーとしての賞味期限は切れていて、死に体であったのだから、ごく当たり前の判断だったに違いない。岸田退陣を報じた全国紙5紙をつぶさに読んだが、圧倒的に切れ味鋭い論評を提起していたのは毎日新聞4面オピニオンのページだった。「岸田政権とは何だったのか」との「論点」のもと、中島岳志(東京工大教授)と、上脇博之(神戸学院大教授)、鈴木哲夫(ジャーナリスト)の3氏の「さばき」から見てみたい◆バッサリ切っているのは中島氏。「首相になることだけが目的で、首相になってやりたいことのなかった政治家」「宏池会出身で30年ぶりの首相として期待されたが、中身は空っぽだった」「時々で主張を変えるヌエ的な存在だとわかった」と。3年間総理大臣の座にあってこういう評価を下されて、首相本人は返す言葉があるだろうか。「政治とカネ」の問題で「告発」者として名を馳せた上脇氏は、自分が身を引くことが自民党が変わることを示す第一歩だとの岸田発言を捉えて、「岸田氏が次の衆院選に立候補せずに議員辞職すれば第一歩だ」「不出馬は形を変えた『保身』と国民に見透かされる」と述べ、「延命最優先」のみで、任期中を通じて「第3の安倍政権」で「岸田カラーは全くなかった」とこき下ろす。鈴木氏は、政治を「官僚主導」に戻し、「国会軽視」を強めたことの二つが岸田氏の政治姿勢で、明らかな問題だという。改めて「官僚任せ」の無責任さが露呈した、と。首相の辞任発言直後の紙面にこれだけの論評を載せたのは「毎日」だけ。かねてこの3人に聞くと決めて、依頼していたに違いない。読み応えがあった◆私が国会議員を2012年暮れに辞めた後、首相を務めたのは、安倍晋三(第二次)、菅義偉、岸田文雄の3人。言うまでもなくいずれも自公政権であり、公明党が支えてきた。先に述べた様にめった斬りにされて、自民党出身の首相だからと、〝知らぬ顔の半兵衛〟は決められない。この期間、一貫してパートナーだった公明党の山口代表はどう考えているのか。14日午後の記者会見で、「首相の強い意志と重い決断を受け止める」とする一方、「岸田首相は、先送りできない課題を一つ一つ着実に前進させるという志で取り組んできた。それだけに出馬をしないという意向を伺った際は、正直言って驚いた」と率直な感想を漏らした。加えて「この段階で身を引く覚悟を示すことに残念な思いもあると述べた」という。それはそうだろう。例えば、防衛装備完成品の第三国輸出に関する方針について、「意思決定のプロセス化」や「明確な歯止め」をかけさせたことは公明党の主導によるし、「政治とカネ」の問題でも、自民党内の異論を押し切って公明党の主張を受け入れたのは首相の決断だったからだ。辞める決断をした相手に人間、政治家のモラルとして、「感謝とねぎらい」の言葉をかけるのも当然だ。「評論家」と違うのだから◆そのことは百もわかったうえで、山口代表に求めたいのは、連立政権のパートナーとしての「けじめ」であろう。公明党はこれまで20年を超えて「自公政権」を担ってきた。初めに連立ありきではなく、自民党の総裁が同党内の手続きを経て新たに決まるたびに、その当の相手と連立政権の目指す方向を議論して「合意」を得てきた。だからこそ、今回の辞任表明を受けて、山口代表は「岸田首相が任期を全うするまで自公政権合意に基づいて、公明党としても誠意を尽くして政権運営に努めていきたい」と述べている。任期を全うした後は、次の新たなリーダーとの間で、その意向を見定め、議論しなければならない。あたかも次のリーダーも公明党と組むのが当然のごとく考えるのは間違いだ。私がこれまでの自民党の総裁選挙を見ていて不審に思うのは、候補者の誰もが連立政権の相手の公明党について、注文をつけたり、異論を唱えるのを聞いたことがないことだ。大いなる議論が出て然るべきなのに。先に述べた防衛費関連の案件や「政治とカネ」をめぐる問題でも自民党の内外で百家争鳴だったのだから、総裁選挙を通じて大いなる議論が出されることが望ましい。それを経ずして、〝選挙互助会的な意味〟だけで、「連立ありき」を自明のことにするのは自公両党のためにならないことを指摘しておきたい。そして、公明党も山口代表でこれからも行くのかどうか、自民党との連立の是非を、経過を綿密に点検したうえで、党内で大きな論争が起きるように期待したい。そういう論争のない政党に国民の支持は集まらないと私は思う。(2024-8-16)