●「高村正彦」という卓越した人物から学ぶこと
『冷戦後の日本外交』━━この夏に私が読んだ本でダントツのお勧め本である。いや過去に読んだ政治家の本の中で、と言い換えるべきだろう。ありきたりのタイトルからは想像できないほど面白くためになる。「政治とカネ」をめぐるドタバタ騒ぎで、自民党に愛想尽かした人は、この本を読んでからでも見切るのは遅くない。と、思わせるほどの出来栄えだ。実はこの本、著者の書き下ろしではない。高村正彦元衆議院議員から、兼原信克元内閣官房副長官補(国家安全保障局次長)ら4人の外交、国際政治学の専門家が聞き出したオーラルヒストリーである。高村氏は弁護士から1980年に衆議院議員になり、外相、防衛相などを経て自民党副総裁となり、安倍晋三首相のもとで、「安全保障法制」を制度化した。公明党の北側一雄副代表と幾たびも議論を重ねた挙句に「集団的自衛権」を部分的だが容認に持ち込んだことで知られている。
政治家への「聞き語り」形式でのいいところは、自己宣伝になりがちなところを抑制する役割を聞き手が果たすことにあろう。安倍晋三元首相『回顧録』でのアプローチでは橋本五郎氏らがそれなりに切り込んでいた。ところがこの本では、兼原氏らが遠慮しているかに見える。政治家と新聞記者の組合せと、官僚や学者と政治家との関係の違いだろう。ただし高村氏の謙虚さも目立つ。ともあれ、高村氏が随所でジョークを飛ばしたり、時に皮肉を込めて交渉相手の人となりを揶揄したり、褒め上げたりと自由自在。実に面白い。
●論理的弁術の巧みさ
加えていかにも練達の法律家らしい論理的弁術の切れ味の良さは惚れ惚れするほど。時に詭弁とも思えなくもないが、自己正当化の論法はお見事というほかない。とりわけ感心したのは、イラク戦争時における大量破壊兵器の有無をめぐって、米英両政府が不良イラク人に騙されたと〝それぞれの不明〟を恥じる結論を出していることに対して、真っ向から否定していること。そういうイラク側の不始末の土俵に乗らず、湾岸戦争時の国連決議に拘る論理で一貫したことが誇らしげに語られている。「私がブッシュさんだったら、この戦争はやらなかったけれど、私が小泉さんでも支持せざるを得なかった」という巧みな言い回し。米国の同盟国の日本の外相として〝技あり〟〝合わせ技一本〟というところだろう。
安倍元首相と旧統一教会との関係の深さと古さは今更言うまでもないが、高村氏との関係(元勝共連合の顧問弁護士)も勝るとも劣らない。安倍元首相との回顧録インタビューは事件前だったこともあり、触れられないままに永遠の闇に消え去った。その点、高村氏から今の時点での彼なりの捉え方を聞きたいと思うが、テーマが違うとあって、この本では全く話題に出てこないのは残念である。
今回の総裁選挙でも、「政治とカネ」の問題と並んで、政治姿勢という観点で問われ続けられるのは「旧統一教会問題」であろう。この問題では、候補者として名乗りを上げている人でも極めていい加減な認識を持っている人がいることは無視できない。(2024-8-22 続く)