【187】陽はまた昇ると信じて━━「公明党の敗北」をどう見るか(上)/10-29

 2024年秋の第50回衆院総選挙で公明党は議席を公示前の32議席から24議席へと減らした。11小選挙区に挑戦し、勝てたのは4つ。比例区票は596万余。3年前の前回より大きく減らして、過去最低となった。この結果をどう見るか。結党60周年の節目を目前にして、私なりの捉え方を明らかにしてみたい。

●「公明党の自民党化」の必然的帰結

 まわりくどいことは後回しにして、結論を先に言います。今回の惨敗の結果は「公明党の自民党化」の必然的帰結です。「政治とカネ」をめぐる自民党の惨憺たる実態を前に、寄り添ってきた公明党が国民の猛反発を受けざるを得なかったのです。最も象徴的な出来事は、自民党で非公認になった、いわゆる「裏金」候補者を、公明党として推薦したことでした。党員、支持者にとってもこの衝撃は大きく、石井啓一代表が3条件を示したところで虚しく響くだけでした。九仞の功を一簣(いっき)に虧く(かく)とは、まさにこのことでした。「政治とカネ」をめぐる自民党の構造的欠陥を正すべく、折角闘ってきていながら自ら壊してしまうなんて。「情け深さ」にも程があるというものです。

 公明党はこの11月に結党60年を迎えます。その節目を直前にして、この事態。「捲土重来を期す」との言葉が聞こえてきますが、ことはそう簡単ではないと思われます。公明党の60年の歴史はほぼ30年で真半分に分けられますが、その「2つの30年」は一見まるで違う政党のようです。前半は野党で「打倒自民」に傾注、後半は与党で「自民支援」に奔走してきました。その60年間に一貫して流れているのは、「政治を大衆に取り戻すために闘う」ことでした。その前提には「大衆」と遊離した自民党という存在があるとの認識です。そのため前半は自民党を「外から破壊」しようとしました。だが叶わず、後半は一転、「内から改革」するべく方針転換をしたのです。勿論、その背景には苦境に陥った自民党からの「助けてくれ」との要請がありました。

 注意すべきは、後半30年が真半分の15年ずつに分けて捉えられることです。前半15年は小淵氏から麻生氏への6人の自民党政権の時代。「自公政権」の定着が目指されました。一方、後半の15年は民主党政権の3年から第二期安倍政権を経て今日に至る流れです。第一期政権での失敗に鑑みた安倍第二期政権が強権的な姿勢で「安定」を志向。ちょうど15年の間、伴走することになった山口公明党も、民主党政治の混乱と不安定から脱却するために、「安定あってこその改革」の旗印を掲げざるを得なかったのです。

 ●「自民党の公明党化」は道半ば

  山口氏が率いたこの15年の公明党は、懸命に国民大衆の「小さな声を聞き」、それを与党の政策選択に反映し、かたちにしてきました。民主党所属から自民党に転身したある議員が今回の選挙戦で「公明党推しの理由」というユーチューブを発信しました。そこでは、①児童虐待対応②低出生体重児問題③片目失明の人への保険適用など身近な問題に取り組む中で、公明党議員が力強く支援してくれたというものでした。「外交・防衛」といった〝大きい政治〟の場面では自民党の独壇場と見えるものの、庶民の生活に密着した、こまやかな政策提言から実行に至る過程は公明党の活躍を抜きには語られないとの指摘でした。民主党の栄枯盛衰を内から見てきた末に、自民党に移り「自公政治」の内実を知った率直な語り口に、真摯な政治家の一面を見たしだいです。

 本来、公明党は「自民党の公明党化」を目論んで政権を組んだはずです。有権者大衆の小さな声を聞かずに、大言壮語を吐きがちな多くの与野党政治家に対して、大衆と共に歩む公明党に見倣えと。この自公による「大小分業政治」が道半ばにして壊れてしまうのはとても残念なことです。毎回の衆院総選挙で、200議席を大きく超えてきた自民党と、過去に50議席を超えたのが一度だけで、支持率も一桁台半ばを中々越えられない公明党が政権を組んで30年足らず、いよいよこれからという矢先の挫折です。

 さてこれからどうするか。私は2年前に拙著『77年の興亡━━価値観の対立を追って』で、三たびの転換期にさしかかった日本の歴史を振り返って、次なるサイクルの方向性を展望する試みに挑みました。それは結論すると、弛緩し切った政治から緊張感漲る政治への変革を目指して、「国民的大論争を始めよう」というものでした。また、今回の選挙戦直前には、「与野党伯仲」政治で、相互に知恵を競い合う状況をもたらすことの大事さを訴えました。政権交代の是非を問うのはその後のことだ、と。長短期の政治の予測がほぼ見立て通りになって、嬉しいような寂しいような複雑な心境です。

 引き続き、自民党政治の内からの改革を続行するのか、どうか。結党60年。後半30年の終わりを迎えて、今こそ党内大論争を起こすべきことを提案したいと切に望みます。それあってこそ、沈んだ陽はまた昇るのです。(2024-10-29  つづく)

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