『公明』4月号の特集の冒頭に掲げられた批評家・作家・哲学者の東浩紀さんへのインタビュー「民主主義のカギは説得と納得━━『中道』とは人間に向き合い、訂正を許容する営み」がとても読ませます。「中道」政治とは何かを追い続ける同誌編集部の意気込みが伝わってきます。ここでは、私たちが銘記したいと思われる東発言を引用していきながら、その主張についての私個人の考えを披瀝してみたいと思います。
⚫︎選挙の勝ち負けだけが政治だとの思い込み
東発言)政治は選挙で終わりではない。選挙はあくまでも国民の代表を決める制度だ。それは確かに民主主義の要だが、政治というものは、本来、その代表同士が話し合って政策を決め、最後に政策を実行するまでを含む。日本に限らず諸外国を見ても、現代の政治はその点がとてもおかしくなっている。選挙の勝ち負けだけが政治だと思い込んでいる。政治家をめざす人物も、目の前の勝ち負けのためだけに戦略を立てている。(3頁)
赤松)そう指摘されて、私が思い起こすのは、最近の選挙戦で与党が「政権選択が問われている」と強調し過ぎることだ。昨年の衆院選ではいつもにも増して、野党各党を名指しして「こんな無責任な政党に政権を任せられますか」と叫んでいる場面が多かった。もちろんその側面は事実として正しいのだが、演説の基調がそこに集中してしまうのは聞き辛い。他党批判より、もっと個別の政策を訴えていくべし、と。これは私だけでなく、多くの人が感じたはず。先月の『公明』には「教育の党公明」に、こんな意見があった。
「昨年秋の衆院選の際に参加した公明党の演説会においては、公約の第一に「教育を柱に、世界一子育てがしやすい日本へ 公教育の再生 子育て支援の充実」「すべての子どもが輝く社会へ 教育環境の整備、教員の働き方改革や処遇改善などを推進」と掲げたビラをもらい、私は大いに喜び、期待した。しかし、選挙戦においては、教育についての具体的、積極的な提案は、残念ながらあまり聞かれず、大きな争点とはならなかった。だが、それは公明党に限った話ではない」(54頁 山崎洋介「ゆとりある教育を求め 全国の教育条件を調べる会会長)
ここでは「教育」に限った話のように聞こえるが、現実には昨今選挙が加熱すると政権選択の名の下に、具体的な政策論争がどの分野に関してもすっ飛んでしまい、選挙後も与野党対立ばかりが目立ってきている。
⚫︎政治における「訂正」と「修正」の違い
東発言) 私自身、政治とは「訂正の場」のことだと考えている。民主主義を健全化する手段としては「訂正可能性がカギになる。訂正の反対にあるのは、異論を排除する『論破』の思考であり、一つの意見に固執する個人の頑なさだ。(中略) 「中道」とはそのような訂正を許容する営みだ。(5頁)
赤松) ここで、「訂正」と聞くと、「修正」を思う向きが多かろう。前者は間違っているものを直すとの意があり、後者は曖昧な表現を正すとの意味合いがある。この2つの違いは大きい。従来の「中道」の捉え方は、政治的に左右の立場の間に立って、どちらでもない道を行くことを指すことが一般的だった。だが、このスタンスは「中道」というよりも「中間」というべきだろう。東さんは、「中道」とは、「頑なさ」が基にある「論破」を伴うものではなく、「柔軟さと潔さ」がベースにある「訂正」の大事さを主張しているように思われる。「訂正を許容する営み」とは、「間違いを率直に認めて新たな方向を目指す姿」と言い換えられよう。
東発言)ちまたには論破という言葉が溢れているが、民主主義にとって、それはとても良くない考え方だ。民主主義は、論破して勝ち負けを決めて終わるものではない。(中略) 民主主義に大事なことは、皆が意見を変える、つまり皆が互いに「訂正し合う」プロセスだ。それがなければ社会は動かない。(6頁)
赤松) 皆が互いに「訂正し合う」ことは、その場に居合わせるお互いの間に「尊敬の念」がないと難しい。相手を言い負かすことにだけ意を注ぐ人たちが集まって議論しても、真っ当な価値は生まれないに違いない。
⚫︎政治と文学の相関性
東発言)人間というのは決して合理さだけで動くものではないことを学ぶのが文学だ。この部分が欠けているから、高圧的な説得しかできなくなってしまう。(7頁)
赤松)この発言が出てくる前に、フランスの哲学者ジャンジャック・ルソーが政治思想をめぐる著述と同時に小説を書いていた事実の持つ意味を強調しているくだりが興味深い。「過ちを繰り返す弱い個人が、互いの対話を通じて自他の考えを柔軟に再解釈し、訂正を長く続けてゆく」姿が表現されているという。政治家としての私の師は、常に文学にまつわる教養の大事さを解き続けた人だった。そして様々な課題に粘り強く説得をしてみせる人だった。それを知っていながら本は読んでも文学とは疎遠で、説得が苦手な私は何も学んでいないというほかない。恥ずかしい限りだ。(2025-3-15)