【27】「おもてなし」と「見立て」に見る日本人の特性━━感性工学会のシンポから/7-31

 感性工学会・価値創造研究部会という聞き慣れない会のシンポジウムに参加してきました。ここでは難しい由来は棚上げして、まずは29日午後に大阪南港のATCビルで開かれた同会のイベントに、僕が友人と共に参加した内容の概略について紹介し、若干の感想を述べます。

⚫︎三部構成で日本の伝統的文化の海外紹介の道を探る

 現在開かれている関西国際万博の会場を文字通り横目にして到着したところが目的地でした。この学会の部会長を長く務めて来たのが勝瀬典雄さん(関西学院大学専門職大学院兼任講師)で、つい先ごろ相島淑美さん(神戸学院大教授)が受け継ぎました。ご両人とも僕のここ数年来の親しい友人です。ご両人の企画、運営の元に開かれたこの日の催しは、まことに豪華なもので、意義深くためになる内容でした。

 第一部・基調講演は「おもてなしと『見立て』」〜日本文化における価値共創〜(相島淑美氏)。第二部・事例発表は「日本庭園美術と伝統文化を海外に届ける」(竹田和彦 (株)タケダ造園代表)。第三部・パネルディスカッションはテーマが「日本の伝統文化を海外に届ける」で、勝瀬、相島、竹田の3氏のほかに、徳持拓也(華道家元池坊正教授)、森一彦(京都先端科学大学院国際学術研究院教授)、竹延幸雄( 株)竹延オーナー、山川拓也(流通科学大人間社会学部観光学科准教授)の合計7人が参加されたものでした。

 いずれも聞き応えのある中身で、開始から3時間余り(5分の休憩含む)は、あっという間に過ぎました。ここでは、1〜3部のエッセンスだけをかいつまんで紹介します。基調講演は、日本独自の表現方法であり、日本の文化や感性に深く根付いている「見立て」について、いかに「おもてなし」に関わっているかを見事に解き明かす糸口ともいえる講演でした。相島さんは、昨年に『おもてなし研究の新次元 日本型マーケティングの源流』なる著作を出版されたばかり。そこでは、「万葉人の宴から連歌会席、茶の湯、と時代を追って見立ての変遷をたどりながら、おもてなしの場の関係性構築において重要な役割を果たしていたこと」を明らかにしています。

⚫︎日本の伝統文化をインバウンド客にどう触れさせるか

 事例発表をした竹田造園社長は、出雲流造園の伝統を現代の暮らしに合わせて再解釈し、「楽庭」というコンパクトなスタイル(組み立て式庭園=写真)を作り出したことを紹介しました。つい先ほど、ヨーロッパ市場を調査してきたばかりとあって、極めてホットな実情をも披露してくれました。この「楽庭」は、場所を問わず、人が集う場所に自由に楽に設置が可能なものとして、インテリアとして空間を彩る和洋を超えた日本庭園を目指したといいます。

 果たしてこの意欲的な挑戦が現代世界に効力を発揮するかどうか。ウクライナ、ガザを始めとする戦火たなびく現状にあって、それどころじゃないと疑問視する向きがあろうかと思います。私的には、まず4000万人にも及ぶインバウンド層に向けて、この「楽庭」を始めとする日本文化にふれあう仕組み化が大事だと思いました。

 最後のディスカッションは、日本の伝統文化をどう未来に繋ぎ、世界と共有するかについて華道、学術、建築、観光の専門家がそれぞれの立場から意欲的な方向性を示唆する大事な議論が聞けました。とくに、僕の興味を惹いたのは、観光学の見地からの山川さんの報告でした。海外からやって来た外国人が訪日に期待したことが東西で違うという点です。日本食や自然美への興味は東西双方に共通していましたが、日本の歴史文化伝統への関心が高いのが西側(米、英、仏、独、豪)だったということです。(ちなみに東側は、中国、台湾、香港、韓国、タイ)

 この点について、山川さんと終了後に意見交換をしたのですが、日本の観光行政が国土交通省の元にある観光庁が所管していることへの懸念を表明されたことは虚を突かれた思いでした。文化庁あたりに任せる方がいいとの視点です。確かにこれから益々増大するに違いないインバウンドに対して、一つのあるべき道筋を示すものかもしれないと思ったしだいです。

 終了後に場所を移して、パネラーの皆さんと更なる熟議を重ねたのですが、実に知的興味を満たされる素晴らしいひとときだったとだけ、お伝えします。(2025-7-31)

 

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