【38】「大衆重視」に生き抜いてきた日々の重み━━『公明』10月号を読んで/9-19

 わずか80頁の小冊子だが、日本の政治、経済、社会、文化をめぐる大事な情報の解説が満載されている━━公明党の理論誌『公明』のことである。今発売中の10月号も実に面白くためになる。色んなことを感じるがここでは一点に絞る。公明党が先の参院選で負けた根本的理由についての専門家の見立てと、公明党の60年の「大衆重視」の取り組み姿勢そのものから、考えてみた。

⚫︎公明党はこの国をどうしようとしているのかの発信を

 僕は2022年5月に拙著『77年の興亡』で、明治維新以来の日本の敗戦とその後の、2つの77年のサイクルの中で語り得る価値観の変遷を概説した。そしてその後2023年7月までの約一年の間に、朝日新聞と毎日新聞のサイト版(『論座』と『政治プレミアム』)にそれぞれ寄稿した論稿6本、合計12本を、翌2023年8月に『新たなる77年の興亡』と銘打って出版した。サブタイトルを「連立政権のジレンマ解消へ国民的大論争を起こそう」とした。連立与党間で国家ビジョンをまとめるべく協議を持てと、訴えた。この論考集を力を込めて書いた一年がいま無性に懐かしい。

 実は2021年の衆院選、翌22年の参院選と連続しての選挙結果も低調で、共に3年後の両院選挙と同様の傾向を見せていた。その得票、議席減の厳しい流れを受けて、僕は公明党が考える国家構想を明確にした上で、自民党との間で連立政権の国家ビジョンを作る必要があると判断した。で、それを作るための協議の場を持てと提案したのだった。ところが、残念ながらその後の2年間、そうした場作りの気配もなく時間だけが過ぎ去った。今度の選挙結果を受けて、いま再びの総括の議論が展開され、様々な内外からの反省や要望の意見が渦巻いている。

 そのうちの一つが、『公明』10月号の小林良彰慶応大名誉教授による『公明党再生に生かす参院選の教訓━━ビジョンの見えない〝現状維持政党〟からの脱却』という論考である。同氏は日本選挙学会の理事長を経験した「選挙・投票行動分析」の専門家として著名な学者だ。その人が選挙結果分析として①無党派層のうち公明党に投票した割合が選挙区、比例区共に全政党の中で最も低い②自民党と並んで公明党は最も現状維持的な政党と認知されており、現状に不満を持つ有権者の受け皿とは見られていない③SNSなどインターネットを政治・選挙の情報源とする者の投票先としてこれまた全ての政党の中で最も低い━━との結果を指摘している。残念ながらこれが公明党を取り巻く冷酷な現実なのである。

 その上で、小林氏は公明党に求められているのは「これからの日本をどういう国にしていくかを中長期的視野に立って立案し、明確なビジョンを示す著書を作成して刊行することで、公明党が何をする政党なのか、何を変えてくれる政党なのかを有権者に明確に提示することである」と強調している。これは冒頭に述べた拙著での僕の提案とほぼ同じ結論である。僕は公明党が独自の国家ビジョンを明確にした上で、自民党との間で連立政権のビジョンを作り出す協議の場を持てと言った。だが、小林氏はまず公明党としてビジョンを本にして出版しろと言っている。もはや自公政権は風前の灯(枠組み拡大は必至)だから、僕のいう自公協議の場作りはもう遅いというほかない。小林氏のいうビジョン本の刊行を即実行して欲しいものだ。

⚫︎「大衆重視」━━野党時代は制度新設、与党時代は制度修正の違い

    「公明党再生」というテーマを考える上で、公明編集部による連載「政治家改革の視点」は毎月興味深く読んでいる。今月号での『〝大衆迎合〟に対する公明党政治の真価発揮を━━「現場第一主義」「合意形成の力」がカギを握る』という論稿も極めて重要である。「自己反省」華やかな季節だが、確かなる誇りも大事にしたいとの思いで命に刻んだ。

 この論稿を読む上で、僕が留意したいと思うのは公明党60年の歴史にあって、ざっくりと前半30年が野党時代、後半30年がほぼ連立への胎動期から自公連立政権時代だという〝二分化する認識〟を持つことである。

 ここで筆者のT氏は、公明党の「大衆とともに」(立党精神)と「大衆迎合」(ポピュリズム)の違いを井上義久党常任顧問の発言に言及した上で、「現場第一主義」と「合意形成の力」をさらに深化させ、国民の真のニーズに即した政策実現に邁進することを誓っている。野党時代の公明党は「教科書無償配布」や「児童手当」など制度新設ともいうべき大改革を実現させた。一方、連立与党時代になると、①幼児教育・保育の無償化、出産育児一時金の増額などの子育て支援②消費税引き上げ時の軽減税率の導入など、現存する制度の補修、修正を沢山してきた。「制度新設」から「修正改革」へと、2つの時代のこの変化は意味深長である。公明党は結党以来、「大衆重視」(大衆とともに)の政策実現に奔走してきたが、その所産に違いがあることを自覚したい。野党時代も与党時代も「派手か地味か」など捉えられ方の違いはあっても頑張り抜いてきたのだ。

 大衆よりもエリート重視に偏向しがちな自民党を時に応じて嗜めたり、誘ったりしてきたののが公明党なのである。ましてや与野党間の「合意形成」は言うはやすく行うは難い。多党化時代のこれからは益々困難をきたす。自公少数与党は誰が比較第一党の新たなリーダーになろうとも、国会運営は変質を迫られよう。公明党はそのときどんな立ち位置を選択するのか。「大衆重視」の真骨頂が問われるときは近い。(2025-9-19)

 

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