【88】身も心も凍る「原発専門家たちのSOS」ー平成23年(2011年)❸

●福島第一原発をめぐる専門家たちの「緊急建言」

今回の東日本大震災がもたらした大津波の影響で、絶体絶命のピンチに立たされた福島第一原発。それいらい、原発の危険性については、数多の学者、専門家から意見を聞きました。その中で、身も心も凍る思いがしたのは、3月31日に公表された、「福島原発事故についての緊急建言」という文書です。

「はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に深く陳謝します」という一文で始まる16人の学者たちによる約1000字程の文章。これを4月12日の公明党の「福島第一原子力発電所災害対策本部」の場で配布されて読んだときのショックは忘れ難いものがありました。

「度重なる水素爆発、使用済み燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被爆事故、極めて高い放射能を含む冷却水の大量漏洩、放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起こり、本格的な見通しが立たない状況にある」との厳しい認識を述べた上で、「既に国家的事件というべき事態に直面して」いるので、国を挙げた強力な体制を緊急に構築することを求めているのです。要するに、原子力の安全な平和利用に取り組んできた専門家たちが、今回の事故処理は、もはや私たちの手に負えません、と恥も外聞もかなぐり捨てて、「助けてぇ」とばかりに、SOSを発信したのです。

この時の原発事故を巡っては、様々な人が色々な見方、考え方を提起してきていますが、私としては、ノンフィクション作家の門田隆将氏が書いた『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』が最もインパクトが強いものと思われます。この本を原作として描かれた映画『Fukushima  50』はエンディングの不可解さを始め物足りなさが残るものではありましたが、菅直人首相役に扮した佐野史郎の演技の迫真性には妙に感心します。

また、神戸大学の石橋克彦名誉教授が4月半ばの国会での緊急院内集会で行った「福島原発震災の彼方にー原発主義の暗い時代を抜け出して」という講演は極めて興味深いものでした。原子力安全委員会を構成する学者など原子力の専門家たちの見解がいかにずさんで、いい加減なものかを完膚なきまでに解き明かされていたのです。最も感銘を受けたのは「現代日本における原子力は、敗戦前の帝国軍隊に似ている」との指摘でした。戦前の軍国主義が戦後は経済至上主義に変わった、と私も認識してきましたが、それを言い換えると原発主義だというわけです。確かにエネルギーを原発に依存させてきた戦後日本の過程は酷似しているといえます。

●病院船をめぐる公開シンポで早稲田大学へ

震災をめぐる様々の事後対応で、今なお実現の陽の目を見ていない懸案の一つに「病院船問題」があります。東日本大震災から3ヶ月ほどが経った6月半ばに、大型病院船建造推進超党派議員連盟が、自民党の衛藤征士郎代議士(元防衛庁長官)の呼びかけで立ち上がり、私は副会長になりました。既に阪神淡路の大震災発生の時にもその必要性が論じられたのですが、結局は沙汰止みになり、そうしているうちに今回の東日本大震災となったのです。実はこの問題、早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構(浅井茂隆機構長)が、神戸大学と合同で「最新鋭国際健康医療支援船プロジェクト」を作っており、機運醸成に尽力されてきました。

6月20日に早稲田大学大隈小講堂で開かれた公開シンポジウムには、議連所属の各党代表と共に、私も参加しましたが、高揚感が漲る会合でした。何しろ、タイトルが「明日見ゆ、日本!明日見ゆ、早稲田! ー最新鋭国際健康医療支援船プロジェクトー」というのですから。中心者の浅井茂隆氏は著名な医学者で、極めて魅力あふれる方です。私も、自民、民主の代表に続き挨拶に立ちました。

まず、早稲田大学と自分の個人的思い出を語り、病院船についての思い入れを語りました。阪神淡路大震災の直後に機運がひとたびは盛り上がりながら、災害時以外での使い方や、予算経費を巡って慎重論が勢いをまし、結局は見送られてきたのです。私はその経緯を述べ、今度こそ実現させないと大きな後悔が残ると強調しました。「第三の開国」と、日本文明の再興が重なり合うことの可能性を指摘しつつ、病院船を通じてのアジア地域における国際貢献がその機縁になるとの主張を披歴したのです。

この会で印象深かったのは、天児慧早稲田大学教授(現代中国論)からの「アジア非伝統的安全保障機構と国際人材育成の推進を!」という基調講演でした。この中で、同教授は、感染症、環境、大自然災害、エネルギー資源などの非安全保障分野にまず特化して「アジア連合」を作ることの重要性を強調されたのです。私はこれに対して、異なった時代を同じ地域で生きる、日本、中国、韓国、北朝鮮が連合体を形成するにはどれくらいの時間がかかるかと訊いてみました。同教授の見立ては、「20年」でした。

それはともかく、結局この病院船問題は、デッドロックに乗り上がってしまい、難破状態になっています。この時から8年が経ち、今や新型コロナウイルスという大感染症の蔓延を見ていますが、一向に状況は進まないのは残念という他ありません。浅野先生は議員連盟の非力さを嘆いておられましたが、船頭多くしてなんとやらの如く、数多の議連が辿ってきた流れと同様に「開店休業状態」なのは、困ったものです。

●復興に向けて際立つ公明党の取り組み

5月19日を皮切りに、東日本大震災の復興・復旧を目指す復興基本法案の審議が始まります。ここでの自民党、公明党など野党が、対応の遅すぎる民主党政府に強烈な批判を浴びせかけました。公明党は、復興基本法案の骨子案の考え方として①人間の復興を基本理念とする②地方公共団体は国が定めた復興理念・基本方針を踏まえて、復興計画を策定、実施する③内閣に施策を一元的に実施する復興庁を設置する④首相は復興庁を所管する担当相を任命する⑤復興財源を確保するために歳出の徹底した見直しと削減を図る⑥国会の議決を経て復興債を発行する⑦被災地域を復興特区に指定するーなどというものを盛り込みました。我田引水でなく、個性ある公明党らしい出色のものであると思ったものです。

政府の案については、復興庁の創設についてはあいまいで、附則のなかに、一年以内に検討するというだけ。また、復興特区の言及はなく、そもそも財源の規定すらない、などと問題だらけ。さらに、被災自治体ではなくて、国が復興理念や基本方針を決めるとしており、被災地の意向がなおざりにされかねないものだったのです。

さらに、5月末に開かれた党首討論の場で、山口代表が菅首相に対して、大地震から3ヶ月足らず。今なお避難所を転々としている人たちの思いが分かっているのか!震災担当専門の大臣もいまだにおかず、全てが遅すぎる!いったいあなたはやる気があるのか!と舌鋒鋭く追及しました。その中で、同代表が、現地で法律相談に取り組んでいる冬柴鐵三党常任顧問(前衆議院議員)のことに触れ、その実態などを紹介しました。実は私も直前に冬柴さんから同趣旨の内容を聞いていましただけに、なおさら深く感じ入ったのです。(2020-8-24公開 つづく)

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