ポスト「コロナ禍」考、読み比べージャック・アタリの場合❶

コロナ禍の後にどんな世界が私たちの前に待ち受けているか。様々な論者の競演で喧しい。ここでは目にするままに取り上げ、思うつくままに感想を書いてみたい。1回目は、フランスの経済学者、ジャック・アタリさんから。あちこちの新聞やテレビで取り上げられているが、ここでは、産経新聞5月10日付けの『コロナ 知は語る』をまずはベースに。

★利他的な『生命を守る産業』への方向

ここでの彼の主張は、「過去1世紀で最悪の事態になるかもしれない」とした上で、「人々の間で『社会を別の形に変えねばならない』という意識が芽生えて」きており、そのためには『生命を守る産業』に経済の方向を変える必要がある」としている。ここでいう『生命を守る産業』とは、「衛生や食糧、エネルギー、教育、医療研究、水資源、デジタルや安全保障、民主主義にかかわる生産部門のこと」だとする。なんだか多すぎて、焦点が定まらぬ感なきにしもあらずだが、要するに、「誰かを守り、他者への共感を重んじる利他的な産業へとシフトせねばならない」という。

ここでは、「民主主義にかかわる生産部門」という条件が重要だ。デジタルや安全保障というと、今話題になっている大型データの使われ方は、他者への共感よりも、他者を抑圧し、管理する方向を向いているし、安全保障についても生命を守るというより、自己を守り、他者を傷つけるものに偏りがちだ。すなわち、アタリ氏の掲げる『生命を守る産業』といっても、産業それ自体は中立であっても、用いる人間の哲学、理念、思想次第で、全く逆の結果を生み出すことに注意が必要である。要するに共産主義・中国などは念頭にない。

このところの世界ーつまりコロナ禍以前での動向は、平和構築に向かっての協調、融和よりも、自国優先志向が強かった。その結果、分断の横行がほしいままとなり、経済格差の拡大である。一番端的に現れているのがアメリカ社会である。オバマ民主党政権の目指したものへの反対姿勢を貫き、移民社会の現状に真っ向から反旗を掲げるトランプ共和党政権は、アメリカ社会から「合意形成」を遠ざける一方だとされる。トランプ政権のコロナ禍対応を見ていると、その方向に一段と加速度をつけて進むかに見えている。

アメリカファーストの自国優先、つまりは自己中心主義から、他者との共存、利他主義への転換が求められているということだろう。「情けは人のためならず」という最もポピュラーな格言が今ほど重要視されねばならぬ時はないのではないか。アタリ氏はここでの発言の最後を「他者を守るために動く社会こそ、我々が目指すべき方向」であり、「生命を守る分野で、自立できる産業力を築かねばならない。道のりは長い。その途中、経済競争を乗り越えねばならないだろう。それでも考え方を新たにして、希望を持って進んでいこう」と結んでいる。具体的に、「生命を守る分野での自立できる産業力」に向けての大競争が始まることになるとの予感がするが、日本はどう動くか、大事な局面である。ついこれまで、AI分野を中心に日本は圧倒的に米欧中に立ち遅れているだけに、気分を入れ替えて、新規参入の息吹で挑みたい。

★池田思想によるSGI提言の価値

実は、これこそ、私たち日蓮仏法の目指す方向であり、池田大作先生が「21世紀は生命の世紀である」との旗印のもと、毎年のSGI提言で国連にあらゆる提言をされてきたものと一致する方向だ。改めて池田思想の正しさに強い共感を覚えるものである。

文明にもたらす疫病の影響という観点からすると、14世紀のペストの流行によって、キリスト教カトリック教会が権威を失った。アタリ氏は「宗教的権威は救いを求める人たちの生命を救えなかったばかりか」、「死の意味すら示すこともできなかった」し、「教会の権威は衰え、聖職者に代わって警察が力を持つようになった」という。そして、18世紀末には、死の恐怖から人々を守る存在として医師が警察にとって代わった」とする。つまり、疫病が「近代国家を生んだ」のであり、「迷信や宗教的権威に対し、科学の精神が優位に立つようになった」という。

ここまでの分析は正確だと思う。ただ、今起きているコロナ禍による欧米社会で「医療崩壊」すら招く惨状は、「科学万能」にも警鐘を鳴らしているかに見える。キリスト教の権威崩壊から、科学万能主義の挫折を経て、今回のコロナ禍以後の世界の精神、理念、思想はどこへ行くか。アタリ氏のいう「利他主義で『生命を守る産業』が確実に勝者となるであろう」との方向付けは正しいと思われるが、完全な表現ではない。私に言わせると、利他主義の寄ってきたる思想的根源こそ仏教にあり、なかんずくその最高峰である法華経、その実践の主体である創価学会SGIの力強さが証明される時だと思う。つまり、利他主義のくだりをより正確に言えば、日蓮仏法のもたらす利他主義と置き換えることが望ましいと思われる。

このことは何も我田引水ではない。イスラエルのユヴァル・ノア・ハラリ氏が著名な著作『ホモサピエンス全史』の結論で、これからの人類にとって、「特に興味深いのが仏教だ」と結論付け、「己が心を自身で操れる方途を説く」ものであることをその理由に挙げている。もちろん、仏教の先、その中身には触れていないが、キリスト教に代わりうる思想としての位置付けを評価したい。次回はこのハラリ氏の主張を追ってみる。(2020-5-15)

 

 

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