公明党の中から議論が聞こえてこないー「米中人権論争」余波【下】/4-25

●「親中一辺倒」ではない山口氏の対中観

田原総一朗氏との対談では国内政治について、「今はコロナの問題など協力し合わねばならないテーマがありますので、日中の両政府が、あらゆる対話の機会を設けて、それぞれの課題解決に力を尽くすべきです。対立する両国の世論を政治家が煽ってはならない、そう考えています。むしろ両国の首脳が往来できる環境を整えていく努力が大切です」と、習近平国家主席の訪日を阻止すべく世論を煽る一部の政治勢力を意識しつつ、冷静な対応を求めている。

以上でわかるように、山口氏の対中スタンスは、決して「親中一辺倒」ではない。同代表にとって、外交安全保障分野における至上命題は、公明党の結党以来の理念である「地球民族主義」の実現にあると思われる。世界中の各国が偏狭なナショナリズムに陥ることなく、世界平和に向けて協調していくことが最も大事で、それに向けての障害を一つづつ取り除いていくことに腐心しているのだろう。中国を「人権侵害」の国だと指弾し、いたづらに刺激することは、「百害あって一利なし」と見ているに違いない。

●中国の対外姿勢に賛否両論は当然

今回の一件で、わたしが危惧するのは、公明党内での議論が外に聞こえてこないことについてである。代表が見解を述べて、「はい終わり」ではいけない。中国の対外姿勢について、いろんな意見があって当然である。山口代表は、もはや経済的側面で、中国の存在は世界の中で頭抜けており、単純に「嫌中の感情」だけで、人権を巡る中国の態度はけしからんという態度は避けるべきだとの意向であろう。発言に批判の声があることを私が伝えると、同代表からは、「今や日中の経済密着度は欧米の比ではなく、仮に政治的摩擦が深刻の度を増すと、中国からいいように経済的締め付けや、反発を受けかねない。経営者や市民、労働者がまるで、人質に取られているようなものだ」といった主旨の認識が返ってきた。

これについては、公明党内にも賛否両論があろう。かつての公明党なら、特に外交安全保障分野では百家争鳴さながらに、激論を戦わせたものである。PKO(国連平和維持活動)論議でも、イラク戦争への自衛隊派遣においても。また、対中関係についても、例えば、日本の政治家が彼の地に行って、日本政府批判をするのはマナー違反だとして、私は自公両党のトップの親中姿勢を嗜める発言を衆議院委員会の場でしたことがある。さらにまた、政務調査会の会議の場で、ある党幹部の原発容認姿勢を咎めるべく、喧嘩腰で議論をしたこともある。

●メディアに軽く見られていないか

今の公明党内にも当然ながら種々の意見、主張があるはず。中国の「一帯一路」戦略には「インド太平洋構想」で対抗すべきであるとか、対中封じ込め路線に加担せよとの主張もあろう。また、対中慎重路線に与して、山口代表を孤立無援にしてはならぬとの声もあるかもしれない。加えて、習近平という今の指導者が永遠に続くわけでなく、対立する勢力の存在を考えれば、「対中融和」はかけがえのない〝未来への投資〟になるとの声もあっておかしくない。しかし、それらが一向に聞こえてこないのは、いったいどうしてなのだろうか。

恐らくは、メディアが取材対象に公明党を積極的に選ばないからだと見られる。20年余の連立与党生活のなせる業だろうか。独自の個性的な発言がなりを潜めてしまっているかのように思われる。冒頭に述べた参議院決算委員会での素通り質疑も気にかかる。所詮そういう政党だとの認識がメディアに定着しているとしたら、これははいささか怖いことである。(2021-4-24)

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