急転直下で元通りーさる3月10日に首相官邸で開かれた自公党首会談で、山口那津男代表は岸田文雄首相と、両党の結束を更に強化する方針で一致した。これを受けた翌日の幹事長、選挙対策委員長会談で、今夏の参議院選に向けた両党の協力を強化していくことで合意した。具体的には、公明党の5選挙区(埼玉、神奈川、愛知、兵庫、福岡)の予定候補に対して、自民党が推薦するべく、党として正式に決定したいと、茂木幹事長が強調。さらに、公明党が予定候補を擁立していない38選挙区では、両党の地方組織間で、協議をスタートし、合意できた選挙区から順次、自民党の予定候補に公明党が推薦を出すことで合意したというのである。これらを踏まえて13日の自民党大会に出席した山口那津男代表は、コロナ禍やウクライナ情勢といった未曾有の困難に対して自公両党が結束して対応することの必要性を強調。岸田首相も、公明党と共に、参院選に勝利し政治の安定を担うことの大事さを訴えることで、応じた◆この一連の報道に接触するまでは、自公間で不協和音が取り沙汰されてきた。自民党の側からの推薦の対応の遅れに対して、公明党側が業を煮やして、今回は相互推薦はないとの見方が急速に浮上してきていた。私は幾つかの新聞や雑誌での記者からの質問に応えて、党が違うのだから、相互推薦などない方がむしろ自然で、真っ向勝負で勝ちたいと、兵庫選挙区の勝利に向けての決意を語ってきていたものだ。しかし、ここにきて一転、これまで通りのスタイル、構図になるという。これに対して、「やっぱりそういうことか」「当初から疑わしく思っていた」「駆け引きの行き着いた末のことか」などといった憶測を挟むことは避けたい。自公両党にとって双方が選挙に勝つことが大事であり、野党をいたずらに利することはするべきではない。その上で、「相互推薦」の意味するところがなにかを改めて明らかにしてみたい。一般的にみて誤解があるように思われるからだ◆「相互推薦」というと、各選挙区ごとに自公両党が相互に推薦、応援し合うかに思われるが実はそうではない。兵庫県を例に挙げると、ここでの相互推薦とは、まず選挙区選挙で自民党が公明党の伊藤たかえ候補を推薦して、応援をしてくれることを意味する。公明党は自民党の末松信介候補を推薦はしても、応援することはない。公明党の自民党への応援は公明党が候補を出していない38選挙区での自民党候補支援に尽きる。過去2回の選挙で兵庫県自民党の陣営が不満を漏らし、公明党に脅威を感じたのは、この一点であった。つまり、よその県で公明党からいくら応援を貰っても、兵庫県では自民党票が公明党に流れるだけでは不公平だというものである。しかし、兵庫県公明党からすれば、自民党票を具体的に分け与えてくれなければ、単独ではとても野党候補には勝てないという目算であった◆そんなことから、これまでは〝暗闇の中の手探り〟のように、自公両党の保守中道層の票田を奪い合い、競ってきた。しかし、それでは、本当に応援してくれているのかどうか分からず、お互いの疑心暗鬼が募る一方だ。衆議院選挙の場合は、兵庫県下で公明党の小選挙区は2議席。その小選挙区内の自民党票を貰う代わりに、残り10の小選挙区で自民党候補を公明党が応援し、かつ比例区票も貰うという建前である。参議院の場合は兵庫一県が選挙区のために、バーターがうまくいかず、相互推薦は言葉としては存在しても、実質的な中身は「片務支援」で、兵庫県自民党の票の「一部分配」を意味する。このため、県下の団体をどう自公間で分配するか。自民党の末松後援会のどの部分を公明党に分け与えてくれるかーこういった協議が重要になってくる。それをしなければ、ただ単に、自公2人の候補をお互い推薦します、といっても絵に描いた餅の奪い合いに終わるだけなのである。こうした厳密な協議が果たして出来るかどうか。できなければ、相互推薦は名ばかりで〝ガチンコ勝負〟ならぬ、〝泥仕合勝負〟になってしまいかねない。(2022-3-19)