【73】「奥山保全トラスト」の仲間と、紅葉の白山ツアーに/11-7

錦秋の白山は輝いていた。急な山の斜面を幾たびか転び落ちそうになりつつも、豊かな広葉樹林のふところ深く登っていった──昨6日朝、前泊した金沢から特急しらさぎで20分、小松駅に降り立った私の気分は静かに高揚していた。公益財団法人『奥山保全トラスト』のツアー20人ほどの仲間たちと一緒に白山連峰のふもと白峰に向かう。天候は予測を裏切り温暖そのもの。コロナ禍ゆえの久しぶりの試みに、高校の30年ほど後輩の弁護士の玉田欣也君を誘った。文化の地・金沢をこよなく愛す同君との北陸・石川紀行も2日目となる。〝歴史と文化〟の探訪から一転、大自然の恵みを味わおうという、短くも贅沢な旅に私は酔いしれた◆全国に19カ所のトラスト地(2346ha)を持つ、この法人の理事を務める私だが、現場に足を向けることは残念ながらあまりない。地元兵庫以外には浜松市の天竜区佐久間に続きこれが2回目。『77年の興亡』が現実化し、我が国も世界も混迷の極致に彷徨う今晩秋。だが、白山の1日には心慰む場面がそこかしこにあった。お昼前に約22haに及ぶトラスト地に向かい、紅と黄色が織りなす緑の絨毯のような林の中を分け入った。地質学や植物学に明るく詳しい3人の同法人所属の青年職員の案内のもと登りゆく。参加した人々の歓声があちこちで。〝広葉樹文化〟を愛してやまない美しい心の持ち主たちの〝森の交遊〟である。市ノ瀬ビジターセンターの前の広場で思い思いのお弁当を食べた後、午後からは釈迦新道入口より、天然自然林のなかに分け入った◆2008年に、トラスト地を購入し得た経緯には驚く。山林の持ち主は、「山を荒らす動物はいらない、山には植物だけでいい」との考え方の人であった。その彼と根気よく対話を重ね信頼関係を築いた上で、「人と動植物の共生共存こそあるべき姿」との主張を繰り返し、取得に至った。三井明美支部長(当時)の手記には心揺さぶられる。当初頑強にトラスト化に反対した地主さんの考え方は、今なおポピュラーなものかもしれない。「生きとし生けるもの皆平等の生命」だとの思想は、頭では分かっても現実には難しい。〝人間優先による動植物支配〟の考えは残念ながら〝普通の常識の座〟を譲らないのである◆自然環境破壊は、様々な様相を呈しつつ日本の各地を日々脅かす。東北の森林が〝新エネルギー確保〟の旗印のもと、次々と侵食されているが、東海地域でも新たな危機が迫る。今進めようとされる「浜松陸上風力発電事業」(仮称)には、我が公益財団法人が所有するトラスト地が含まれていると聞く。にも関わらず、開発着手に及ぼうとしているという。これが事実なら前代未聞の暴挙という他ない。早急に事実関係を明らかにして、節度ある開発にたち戻らせる必要がある。暮なずむ小松駅に帰った私たちは、豊かな紅葉に癒やされた一日から、新たな課題に取り組む日常へと立ち向かうべく、特急サンダーバードの人となった。(2022-11-7)

 

 

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