【90】こころ撃つ生命揺さぶる「危機の勇気」/2-7

 映像は時に人間の生命を揺さぶる影響を与えてくれます。近頃観たものでは、NHK 『映像の世紀 バタフライエフェクト』──「危機の中の勇気」(1-16放映)が最高でした。まず、冒頭のシーン。2001-1-26。韓国人留学生イ・スヒョンさん(当時20歳)がJR新大久保駅でホームから落ちた人を救おうとして、亡くなった場面から。この事件を契機に映画『あなたを忘れない』が作られ、最愛の息子を失った母親は『息子よ!韓日に架ける命の橋』を出版します。それから丁度6年後の2007-1-26。スヒヨンさんの7回忌の当日に、今度はJR上野駅でまたもや落下事故が起こりました◆3人の人たちが救いに飛び降りたのですが、映像ではその時の当事者の1人山本勲さんのインタビューが。「映画も観ました。本も読みました。感動しました」と彼は語り、「行け!という一歩踏み出す勇気を本能的に貰いました。スヒョンさんが力を貸してくれたのです」と続けていました。残念ながら落ちた人は亡くなりますが、その人の妻が別れの時が持てたことを感謝する手紙を山本さんに送っていました。その当時、事業に行き詰まっていた彼はこの手紙に勇気づけられたといいます。映像はこれを導入分にして、サンフランシスコ大地震、関東大震災など震災時における人々の明暗や第二次大戦時のロンドン空襲やドイツでの人々の明るい様子や助け合いの姿を映し出していました。心和ませられる内容でした。とりわけ、サンフランシスコで見た救助の場面を目に焼き付けた当時8歳の少女が、老いて後に核廃絶のために立ち上がる行動を起こす場面は感動を呼ばずにはおきませんでした◆日本の駅でのプラットフォームからの転落事故は枚挙にいとまがありません。ようやく少しづつ防護柵が設置されるようになり出しましたが、危険なホームは相変わらずです。有為な韓国人留学生の生命を奪った事故はまことに胸潰れる思いがする悲劇でした。しかし、スヒョンさんの勇気ある行動に感激した人々の義援金を基に、アジアからの留学生への奨学金制度が作られました。スヒョンさんの母親シン・ユンチャンさんが発起人になって、これまで1100人にも及ぶ留学生を助けてきたといいます。これにはまた深い感動を覚えました◆咄嗟の危機の時に勇気が出るかどうか。私は若き日に、日蓮仏法の信仰の力を語る際に、人間は「縁」(客体)によって「主体」の行動が引き起こされることを「十界論」を通して繰り返し述べたものです。つまり、それは、人間の生命の基底部を「菩薩界」に置くことが大事だということです。いざという時に、人を救う生命の境涯が引き出されやすくなるということを強調しました。その日常的訓練こそ、仏界を図顕化した御本尊を朝夕拝することに他ならない、と。幸か不幸か、人の命に関わる場面に直面したことはありませんが、恵まれない人に寄り添い、助けられる自分でありたいと心がけてきました。(2023-2-7)

 

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