【200】文明の融合もたらした大動脈に感嘆━━「大シルクロード展」を観に行って/1-24

 「私は少年時代からシルクロードへの憧憬を抱き続けてきた一人です」━━「世界遺産 大シルクロード展」の会場入り口にそっと掲げられた東京富士美術館の創立者(創価学会SGI会長・池田大作先生)のメッセージが眼に飛び込んできました。春がやってきたのかと勘違いするほどあったかい1月23日の朝、私は妻と共に京都文化博物館に向かったのです。西明石の住まいから1時間30分余。そこは、「専制と分断」で喘ぐ世界の現状を全く感じさせない素晴らしき別天地でした。平日の朝とあって、会場には大勢の年配の女性たちが詰めかけていました。御多分に洩れずゆっくりと展示物を観るというには程遠く、観覧者の背中越しに辛うじて覗き見るのがやっと。会場の4階から3階へと3つのパートに分かれて公開された、様々な文物(中国国内27ヶ所の博物館からの約200点)を観て歩くのは難行苦行だったのです。ただし、場内で写真撮影がオッケーだったことはホットしました。スマホ片手に、俳優の石坂浩二さんの音声ガイドを聴きながら、なんとかザッと全行程を
クリア出来ました◆この催しは、日中平和友好条約が締結(1978年)されて45周年となったことを記念して、2023年9月16日の東京富士美術館での開催を皮切りに、全国6ヵ所で巡回されてきました。今年2月2日が最終日となります。私は3年越しの展示閉幕ギリギリに足を運んだわけです。実は私の友人でシルクロード研究者がいます。創価大名誉教授の小山満さん(80歳)です。若き日に東京・中野で共に広宣流布の活動に取り組んだ仲です。彼には『シルクロードと法華経』という著作があります。事前に「見どころは?」などと呑気なメールをしたところ、「一級文物、日本国宝の意味、法華経提婆品竜女成仏が見える写本です。あと、『図録』に拙稿を寄せました」とありました。嬉しくも有難い反応でした。冒頭に紹介した創立者池田先生のメッセージは、「シルクロードは物質交易の要路であるとともに、仏教伝来のルートでありました。東西文明の交流の舞台であり、ダイナミックな融合に寄与し、新しい文化を生み出してやまない大動脈でもありました」と続きます。人生の師匠の「舞台」、「融合」、「大動脈」といったシルクロード理解のキーワードと、若き日の同志の助言をもとに会場の人波をかき分けたしだいです◆44点の一級文物を観た印象は、何と言っても、「杯の光沢」の美しさでした。新疆ウイグル自治区イリ州の古墳から出たもの(写真左上 5-7世紀)や、8世紀の唐時代のもので、山西博物館貯蔵の杯が放つ黄金色の輝きは、今なおまぶたに鮮明に残っています。また、唐時代の菩薩坐像の姿からは、私が奈良の仏寺で観てきた数多くの仏像のふくよかな顔との類似性を感じたものです。そして、後漢1-3世紀のものと見られる車馬儀仗隊像の精巧な出来具合にも感嘆しました。また、一頭の馬の首を抱えた男と手綱を持つ男の絵(陜西省出土)には、「献馬図」(写真左)とのタイトルがつけられていました。2人の顔つきからして中近東地域より献上されたものと想像されました。また、5-6世紀のものとされる法華経の経巻は敦煌研究院所蔵とされていました。その精巧無比な漢字の列挙には改めて感じ入ったものです。こうした文物を見ながら、1500年以上も前に彼の地の人々がどのような努力と工夫とで、かくも魅惑的な美術工芸品を生み出し、こうも正確に思想、文化の伝播、維持に努めたのかに思いを巡らせました。さらには、これらが大地から出土され中国全域の博物館に搬入された年度が概ね20世紀後半であることに、深い感慨を抱かざるを得ません。政治経済的な観点のみで「中国の興亡」を追うことの無意味さを思ったものです◆常日頃私たちが眼にし耳に聞く情報の多くは猥雑で悲惨なものに満ち溢れており、雄大な文明の恩恵や生活の質向上に寄与する文化の知恵とは縁遠いものでいっぱいです。そういった忌むべき情報とは隔絶した今回の展覧会は、生命洗われる思いがしました。「シルクロード」という名のもとに東西文明が融合し、交流していった歴史の背後には「平和」を希求する人類の夢と希望があったはずです。現に、人間の命のメカニズムを解き明かした仏教もこの道を通って日本に伝来し、私たちの生活の根幹を培っています。その観点からこの壮大な企画をリアルなものとして展開してくれた東京富士美術館に感謝すると共に、その理想の実現へ尽力せねば、と強く自覚したしだいです。(2025-1-24)

Leave a Comment

Filed under 未分類

Comments are closed.