【201】「地方創生と列島改造」に立ちはだかる「大災害の時代」/1-31

 石破首相が誕生して4か月余。様々な発信があり、またそれへの批判もなされてきています。ここでは、同首相がさる24日の施政方針演説で明らかにした「国づくりの基本軸」について、私の考え方を述べてみたいと思います。

 ●「楽しい日本」の出処と具体化

 同首相は、目指すべき国の有り様について、「楽しい日本」を掲げました。かつての日本が、明治維新の集権国家体制において「強い日本」を目指し、戦後にあっては、戦後復興や高度経済成長の下で「豊かな日本」を目指したが、「これからは」、というわけです。実はこの言い回しは、元通産官僚で経企庁長官になった、作家の堺屋太一氏が発案元です。勿論、演説でもその淵源を明らかにしています。堺屋さんがいかに豊富な知識と鋭い知恵の人であったかは改めていうまでもありません。国の目標として、同氏が「楽しい日本」を持ち出したことは慧眼だったと認めます。ただ、一国の首相が国づくりの基本について、自前の言葉を紡がないで、先達の発想とネイミングまでそっくり頂くというのはちょっぴり残念な気がします。

 実は、国の目標をどう考えるかについては、かねがね私も考え、それなりに公表もしてきました。ある後輩が首相演説の直後に、ラインで「『富国強兵』から『富国強経』を経て『富国強芸』を目指すと言っていた赤松さんの『国家目標』の提起に似ていると」伝えてきたのです。拙著『77年の興亡』に至る考察の中で、思い至った考えに基づくフレーズですが、これからの日本は「芸術立国」で行くべしと思った故の「強芸」です。尤も、こじつけ気味なのは否めず、人に説明する場合に、しばしば「教育」「文化」と並列して述べることが多く、〝座りが良くない〟のも認めます。

 首相の決断にケチをつけるのは潔しとしないので、これ以上は申しません。ですが、堺屋さんが「大阪維新の会」の創立に関わった人だけに、裏の意図を感じるというのは少々勘ぐりすぎでしょうか。

●勉強し過ぎゆえの不具合

 石破首相は昨年11月末の所信表明演説の際に、石橋湛山元首相の言を引いて、野党に協力を呼びかけました。「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合わせるべきことについては相互に協力を惜しまず」云々と。先に出版した著書には「気骨のリベラリスト、石橋湛山に学ぶべきことは多い」「湛山政権が続いていれば全く違う日本が出現したかもしれない」とまで、入れ込んでいるぐらいです。

 先に引用した演説が行われた1957年2月4日は奇しくも石破首相の誕生日といいます。「石橋氏」と「石破氏」は発音すると、酷似するのですが、あまり似過ぎて「短命政権」まで似ないようにと、余計な心配までしてしまいます。ともあれ、石破首相は「あらゆる事態を想定しておくことが政治家には求められ、そのためには寸暇を惜しんで本を読む、識者にお話を伺うなど、勉強をし続けることが絶対に必要である」(『異論正論』)とまで、言い切っています。

 様々な書物を読んで得た蓄積が迸り出るのは良いのですが、あまり行き過ぎると嫌味になったり、あれこれ不具合をもたらさないようにして欲しいとは思います。

●「大災害の時代」の「列島改造」の陥穽

 湛山元首相に続いて、石破首相が持ち出したのは角榮元首相の「日本列島改造」構想です。施政方針演説では、「『楽しい日本』を実現するための政策の核心は、『地方創生2・0』です。これを、『令和の日本列島改造』として強力に進めます」と訴えました。この実現の柱として、①若者や女性にも選ばれる地方②産官学の地方移転と創生②新時代のインフラ整備③地方イノベーション創生構想④新時代のインフラ整備⑤広域リージョン連携などをあげて、具体化の方途を示しています。

 同じ日本海側に位置する自治体出身の首相として、自らの鑑みとし、模範とするのはよくわかります。庶民宰相として就任直後に圧倒的な人気を博した尊敬する政治の師匠にあやかろうとする気持ちも痛いほど理解できます。ぜひとも看板倒れに終わらぬように緻密で大胆な実行力を期待したいものです。ただ、田中角榮氏の時代は高度経済成長の総仕上げの頃と重なっているのに比し、令和の現在は、平成からこの30年の地震、豪雨など「大災害の時代」といわれています。その上、つい先日発生し、今なお未解決の八潮市の道路陥没が突きつけているように、あらゆるインフラが老朽化し悲鳴をあげていることをも銘記する必要があります。

●難局を乗り切るに相応しい気質

  いよいよ今日から国会では予算委員会が始まります。内外に山積する難題、課題にどう対応するかが問われています。以上述べてきたように、石破首相は過去の自民党の歴史上、最も理想家肌の石橋湛山氏と極めてリアリスト的な田中角榮氏を尊敬してきています。ある意味で両極端と言ってもいい師匠筋に依拠しているのです。さらに。立憲民主の野田佳彦代表と維新の前原誠司共同代表とはかねて昵懇の間柄と見られています。現時点でいかなる保守政治家よりもリベラル的発想に理解があるはずです。

 かねて防衛オタクであり、キャンディーズの大ファンであることを公言していた石破首相。まさに硬軟両翼に通暁した政治家と言ってもいいでしょう。しかも、パートナーである公明党の拠って立つ基盤である日蓮仏法をキリスト者として最もよく理解しているはずと私は睨んでいます。日本国の舵取りを担う人物として、これ以上のタマはいないと期待もします。

少数与党政権という難局をどう乗り切るか。これまで長年培ってきた智力、胆力を存分に発揮していかれんことを望むばかりです。(2025-1-31)

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