【212】相反する評価を併せ読む面白さ━━『公明』5月号をこう読んだ(上)4-17

⚫︎与野党間の幅広い合意形成の要役・公明党

 公明党の理論誌『公明』って、つくづく面白い読み物だ。毎号感心しているが、今月5月号も良くできている。自分の政党の「売り」を幹事長(西田実仁参議院議員)にインタビューして巻頭に掲載した上で、それを評価する学者(諸富徹・京都大学公共政策大学院教授)の主張と、逆に評価しない学者(浜崎洋介・京都大学特定准教授)の言い分を並べているのだから。私のように、今の日本の政党の中で、公明党は「ベストではない」けど、「よりマシ」政党だと思ってる人間からすると、考える糸口を貰ってとても嬉しい気がする。

 西田幹事長はインタビューで、①「年収の壁」②「教育無償化」③「高額療養費制度」④「政治とカネ」など一連の課題について、公明党が「与野党間の幅広い合意形成の要役」だったことを明らかにしている。細かな交渉の中身は本誌に委ねるが、①については、「所得税の課税最低限を160万円に引き上げることを盛り込んだのは」、「限りある財源の中、追加の赤字国債を発行せずに、現段階での財政規律とのバランスで示せるギリギリの線」だったと主張している。②は、「26年度から私立加算の所得制限を撤廃し、上限額を私立の全国平均に相当する年45万7000円へ引き上げた」のだが、その過程で「教育の質と多様性を担保する必要性を強調した」ことが重要だとしているのだ。(③と④は省略)

⚫︎公明党への評価の声と評価しない声のぶつかり合い

 このうち①について賛成の立場から諸富徹さんが『福祉国家を支える税を嫌う国民が多いのはなぜか』とのインタビュー記事で、「『年収の壁』は、公明党案は非常に考え抜かれた良い内容だ。単純に178万円まで引き上げる国民民主党案と比べ二つの点で評価できる」としている。つまり、一つは、所得水準に応じて控除の引き上げ幅を変えた点。つまり、国民民主党案は高所得層ほど減税額が大きくなるというのだ。もう一つは、減税規模を1兆2千億円程度に抑えた点。要するに、国民民主党の案では、7兆〜8兆円もかかってしまうというのである。一方、②については、国際的に見て、教育における国家の負担が低くて遅れている日本だから、「(私は)高校授業料の無償化は肯定的に見ている」と評価する。

 一方、浜崎さんは、『社会の柔軟性、思考力を支えるのは信頼感と文化』というタイトルの記事で、①の自公案は方向性が見えにくい内容だと手厳しい。一方、国民民主党の「現在の最低賃金を基準にした所得税の課税最低限『178万円』への引き上げの方が全体の理屈は通るし分かりやすい」と。それに比べて自公案は、「178万円」と、「123万円」とのあいだを取って「160万円」に落ち着かせたようにしか見えない、というのである。しかも、「社会保障制度改革や経済政策を実行するには、その手前にある政権与党の価値観や国家観が見えていなければならないのだが、それが見えない」と。また、②についても、「逆に『市場』に任せるべき私立高校の運営に、『国家』が出張ってきた悪い例」だとして、結果的に「公私の格差」は開くばかりだと、「正論」を突きつけている。

⚫︎経済学者の優しい励ましと思想家の厳しい檄

 二人の違いをどう見るか。諸富さんは、財政的にも政党間力学的にも、厳しい環境の中で公明党が目一杯頑張って合意形成に努力したと、短期的観点から優しく励ます意味で評価してくれていると私は読みたい。一方、浜崎さんは、国家の根本的有り様に立ち返って、長期的視点から厳しく檄を飛ばしていると思われる。ざっくりいうと、前者は経済学者の見方、後者は思想家の視点だといえそうだ。(以下続く2025-4-17)

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