【40】「沈黙のパートナー」でいいのか━━自民党総裁選に思うこと/9-30

 「三角大福中」って知ってる?━━自民党総裁選挙の間に幾つかの懇談の機会にお会いした方々に訊いてみた。年配の人は知っているが、比較的若い層の人は知らなかった。まして「麻垣康三」となると、もっと〝知名度〟は低い。前者は、佐藤栄作首相の後継の座を争った1970年代の自民党の領袖たち5人の苗字の頭文字(「角」だけは名前)をとったもので、後者は2005年に小泉純一郎首相の後を競ったリーダーたち4人の苗字と名前の一部をとったものだ。谷垣禎一氏を除いて8人は、全て後に首相になっている。今回の5人の名前の一部を取るとどうなるか。試しにやってみたが、過去の2例のように語呂合わせなり、どこかにいそうな名前は思いつかない。せいぜい「小小高茂林(しょうしょうたかもてばやし)」ぐらいかと、口ずさんでみたが、どの場でも受けなかった。それだけ自他共に認める実力者とは言い難い人たちだからと言えようか◆ただし、いわゆる学歴からすると皆さん立派だ。5人中4人の男性は全員、日本の大学を出たあと、米国の著名な大学で学んで(高市早苗氏は神戸大学を出たあと米議会で仕事をした経験あり)いる。かつて、宮澤喜一首相のあとの自民党を軸とした連立政権時代の首相たち10人(細川護熙氏から麻生太郎氏まで)がすべて日本の私大卒ばかりだったことに比べると、隔世の感がすると言えようか。昨年の総裁選で辛勝してこの1年ほど首相の座にあった石破茂氏とはあれこれと僕も縁があったが、今度の5人とはさして関係は深くない。茂木氏とは衆議院初当選が一緒の同期の桜だったが、一度予算委員会で隣り合わせになり喋った程度の関係だけ。それ以外の方は、小泉氏とは純一郎元首相との縁(最後の内閣で副大臣を務めた)、高市氏とは夫君の山本拓元衆議院議員との縁(大前研一、市川雄一氏らと一緒にマレーシア、シンガポール、豪州旅をした)があるぐらい。林、小林両氏とは殆ど無縁できた。それではならじと、この機会にそれなりに観察した◆尤も20年の議員生活を通して、遠くからながら、将来は必ず総理になる器だと僕が思ってきたのが林芳正氏である。実は彼を最初に意識したのも本人ではなく、親父さんの林義郎元蔵相だった。その昔テレビでジョギングしながらイヤホンを離さず英語を勉強していた姿が放映されていた。芳正氏の只ならぬ英語力を思うにつけ親子の関係に思いを馳せる。彼とは滅多に会う機会はなかった。だが、防衛相に就いた時に、同省きっての俊才・高見澤将林(元国家安全保障局次長)氏が、「これまでお支えした大臣は数多いが、林芳正大臣は最も英邁な人」と賛辞を送っていたことが忘れられない。当方は「防衛なら石破」と思い込んでいただけに意外な感じが強くしたものだ。その林氏は、防衛相の他に農水相、文科相、外相など6つの閣僚を務め「政界の119番」の異名を持つ。閣務に緊急登板の機会が多かったのだ。岸田文雄、石破茂両首相の官房長官として「両者の後継」を強く意識しているかに見える。特に石破首相については「話す相手の地域性などを常に考え、独特の言い回しをしたり、例え話を引用したりするなど言葉を重んじる方だ。類いまれなる言葉の才能があり、非常に参考になった」と強調し、「私が総裁になった暁には、国民に届くような言葉を常に意識したい」と新聞インタビューで答えている◆総裁選まで5日を切った。この間のメディアの報道を見たり聞いたりしている限り、これまで僕がたびたび指摘した懸念は殆ど解消されていない。つまり、総裁候補の自公連立政権に対する考え方の公開についてである。総裁に選ばれたら、今の野党のどこと組むかについては言い辛いかもしれないが、公明党については、長きにわたる関係なのだから、突っ込んだ注文や自省の念の披瀝があっていい。特に、茂木氏は幹事長当時に兎角の問題を抱えていた感が思い起こされるし、高市氏や小林氏は保守政治家として公明党との距離感が懸念されてきている。だが、またしても肝心の点については口をつぐんだままである。公明党は珍しく斉藤代表が「公明党の理念に合う人でなければ連立しない」と言わずもがなのカウンターパンチを繰り出した。おっと、いいぞと呟いた人は多かろう。だが、その後はまた〝音無しの構え〟だ。せめて、党内機関をフル活用して、それぞれの候補の個別の政策、哲学、ビジョン、構想などを探っていることを、たとえ〝フリだけ〟でも見せて欲しい。公明党は「誰がなっても、黙っててもついて来る」と見られている限り、先が思いやられる。かつて、ある先輩党幹部が「公明党は『沈黙の艦隊』か」と、かわぐちかいじ氏の原作をつまみ取りして皮肉ったことがある。政治家のコメント力の巧みさに感心せざるを得なかった。公明党の60年を見続けてきて、今ほど政党として世に注目される存在であって欲しいと願う時はない。(2025-9-30)

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2025年9月30日 · 6:28 AM

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