皮相的な「30年一回り」論
実は、この「30年一回り」論は、芹川氏だけが唱えているものではない。同じ日経新聞社の企画刊行で注目される『平成三部作』(『平成の政治』『平成の経済』『平成の経営』)における、御厨貴東大名誉教授との編著『平成の政治』において、芹川氏が「同論」を披瀝したことに対して、御厨氏も何の異も唱えず、その通りだと同調しているのだ。この本では流石に、公明党について無視せず、5頁ほどにわたって触れられている。例えば、御厨氏は、国交相を公明党の指定席にしたことで、透明性がましたこと、安全保障論議での公明党議員の本気度と熱心さを評価している。一方、安保法制問題以降、「公明党議員と支持者との間で隔たりが生じている」こと、「社会性を巡って議員と創価学会中枢との間の関係に矛盾が発生している」ことなどを挙げて、今後の課題としていることは注目されよう。
この本におけるコロンビア大名誉教授のジェラルド・カーチス氏も加わっての鼎談で、印象深いのは三者における「自公の一体化」との認識である。「公明党なくして自民党もない」(カーチス氏)、「渾然一体化」(芹川氏)、「もう離れられない」(御厨氏)などといった具合である。こういう見方をされるのは論者の自由だが、政治学者や、ジャーナリストなら、皮相的側面だけで見て欲しくない。保守と中道の一体化が今の日本の政治に何をもたらし、これからどう変化することが予測されるかといった辺りに踏み込んで欲しいものである。
問われる中道主義の真価
本来の民主政治の在り方は、与野党による政権交代にあると確信する。それがあってこそ、政治の活性化も起こり、民主主義の機能も健全に働くからだ。それゆえ、自公連立がこれからもずっと続くことを期待することは矛盾を引き起こす。やがては自公に代わって政権担当能力を持つ野党の台頭が望ましいと私は思う。かつて、私は「早くおいたて民主党」と事あるごとに、語ったものである。政権交代がないと、どんな権力も腐敗すると思ったからだ。しかし、同党の体たらくは語るに落ちるもので、今となっては我が身の不明を恥じるだけだ。
では、どうするか。公明党こそ自民党に代わる政権党たろうと、かつての先輩たちは目標に置いたものだが、今となっては「遠い砲声」という他ない。しかし、諦めてはならない。中道主義の旗を掲げて55年。今に至る20年の自民党との連立で、埋没してしまうような存在であっては断じてならないと思う。先の公明新聞紙上に掲載された論考での最後のくだりに私は心から賛同する。すなわち、「公明党が今後とも引き続き与党の一員として国民の負託に応えていくためには、党の議員力、行動力、政策力、判断力‥‥といった党の政治的力量アップが求められ、何より中道への支持拡大が欠かせない」と抑制を利かせた主張をしたうえで、「中道の理念、中道の政治路線の原則を踏まえつつ、日本の政党政治全体の立場に立って行動し、政治判断し、国内政治の向上・発展を期するものである」と結んでいるところだ。①政治の左右への揺れや偏頗を防ぎ、政治の安定に寄与する、②賛成と反対だけの不毛な対立を避け、国民的な合意形成に貢献する、③新しい課題に対しては、創造的な解決策を提案するーこの中道の政治路線の原則が、いや増して発揮されるときはいまをおいてないということをどこまでも強調したい。(この項終わり=2019-11-5)