【93】ロシア通の識者たちはこの現実をどうみてきたのか(中)/2-21

 ロシア文学者の亀山郁夫氏は、「芸術というものは国民性を反映しているとはいえ、一人の人間、個人が作り出したもの」で、「あくまで美的な表現として」のものであり、「個人と全体は分けて考えねばいけない」と強調している(NHK名古屋 2022-3-17放映)。確かに、文学、音楽などに長じた人を輩出する国が同時に戦争国家でもあることは、米国始めいかなる国も五十歩百歩だろう。国家悪をどうにもできない人間の性とでも言うべきなのかもしれない◆この辺りは、ロシアから国際政治を見てきた政治学者の弁が興味深い。慶應大の廣瀬陽子教授は「研究成果に基づけば、ロシアがウクライナに侵攻するはずはなかった」とした上で、「自分の長年の研究は何だったのか。そして人間は戦争を防げないのかという絶望的な気持ちに苛まれた」という。戦争防止に役に立たなかった学問は、これからも同様だろうと、正直に本心を吐露(慶大公式サイト「おかしら日記」2022-4-5)しているのは痛ましいほど。これは、『シベリア抑留──米ソ関係の中での変容』という著書を持ち、かの国の暗部を知り尽くした小林昭菜・多摩大准教授も同様だ。「戦後史を扱ってきた者として、この戦争を止める何の役にも立っていないという反省から」、『ロシアから見たウクライナ問題』という論稿を発表した。その誠実さ溢れる筆致に感心する◆尤も、「戦争防止」に学者の役割は一般的には期待されていず、むしろ戦争発生後の予測を大衆は求めがちである。しかしこれも心もとない。例えば、筑波大の中村逸郎名誉教授が去年6月に、プーチンは月末までに99%退任すると大チョンボな予測をしたのは別格として、名だたる専門家も〝誤診的予見〟が散見される。下斗米伸夫法政大学名誉教授は、去年6月の講演で、「停戦が成立するか、戦争を続けるのか。夏までに一つの結論が出る」(茨城新聞2022年6月17日付け)としたが、希望的観測に終わった。また、青山学院大の袴田茂樹名誉教授も、「金融制裁が強化されれば、ロシアの対外貿易は極めて困難になる」(電気新聞2022年3月11日付け)としたが、ロシア経済はしぶとく持っている◆NATO傘下の欧米各国は、直接的関与は避けているがゆえに第三次世界大戦は防げているといえるが、震源地の泥沼化は続く。このままでは明年のロシアの大統領選挙まで、戦争は続くだろうとの根拠なき見立てが専らだ。(つづく 2023-2-24修正)

 

 

 

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