岸田首相の今回の訪米における所作振る舞いには、国内での国会におけるそれとの差の大きさに驚きました。まずは、米国議会における演説の場面で、まったく原稿に目を落とさずに英語でスピーチしていたことです。これは正直呆れました。原稿を棒読みするだけの、日本の国会での様子とは別人のようだったからです。次に、レセプションでの冒頭の挨拶で、大勢の著名なゲストが招かれていたことを、夫人の言葉として「誰が主賓なのか分からないわね」と紹介したのち、「大統領の臨席に案内されて(自分が主賓と分かって)ホッとした」とやって、場内の爆笑を誘っていたことです。ユーモア溢れた出だしでした。自民党の派閥による政治資金パーティの裏金作りをめぐる国会での追及などどこ吹く風も、宜なるかなの〝強心臓ぶり〟は見上げたものだと思ったものです◆安倍晋三元首相の9年前と同様の「国賓待遇」を受けて、高揚する気分を背景にした議会演説など一連の岸田首相の発信は、全文を読むにつけ逆に疑念が高まります。というのは、「米国はひとりではありません。日本は米国と共にあります」」といった表現に見られるように、パートナーとしての日本を自負していることへの裏付けの欠如です。「日米同盟の絆」については、「安保法制」や「国家安全保障戦略の改定」から、つい先ほどの「防衛装備の移転(防衛兵器の輸出)」など、近年のいくつかの法改正や仕組みの変更など、かつてとは様変わりの様相を示しています。しかし、これらの実態は薄氷を踏んだ末に得たもので、決して幅広い国民合意を得た結果のような強固なものではないのです。国内パートナーの公明党との間ですら、完全な合意に基づくものではありません。「玉虫色決着」です。早晩実態が露わになると、馬脚を表しかねない代物だと思われます。それは、「大局観に立った国家的自己決定能力を見失った感がある」と故・五百旗頭真さん(元防衛大学校長)に評された占領期の状況から殆ど脱却したとは見えない現実が続いている(米軍基地の実態)からです◆また、米国・バイデン民主党政権もその国内基盤の脆弱さは特段に厳しさを増していると言わざるを得ません。トランプ前大統領が仮にこの秋の選挙に勝利を得るようなことが起これば、安全保障分野に限っても、立ちどころに局面の転換が必至になります。それは、ウクライナやガザをめぐる戦争の対応だけでなく、日欧韓など同盟国との関係を根本的に揺るがしかねない事態が待ち受けていると見られるからです。「既存の枠にはまらないトランプ氏が復権すれば、ハシゴを外されるリスクもある」(毎日新聞4-12付け)との見立てが横溢しつつある状況下での両首脳の語らいは、大雨予報前夜の桜の下での宴会のように、明日知れぬ儚さと隣り合わせのものだったと言うほかないのです◆さて帰国後の岸田首相を待ち受ける日本国内の課題のうち最も注目されるのは、政治資金規正法の改正をめぐる議論の成り行きです。首相は訪米前に、「議員本人に対する罰則の強化」「政治資金収支報告書のデジタル化と監査強化」などの検討を作業チームに指示したと伝えられているものの、未だに党としての具体案はまとまっていません。明日からの週における公明党との協議の場で、どうするつもりなのでしょうか。この煮え切らぬ自民党の態度の背景には、裏金事件の実態解明と規正法の改正とを同時並行で進めようとする野党の狙いをかわしたいとする思惑が潜んでいるように思われます。11日の衆院、12日の参院と相次いで設置された政治改革特別委員会の場での議論が空回りする可能性が大きいことが懸念されます。そうならぬよう、自民党の尻を叩き、国民大衆に対して明確に説明ができるように、まずは与党内合意を得る対応が公明党に求められます。キャスティングボードを握る公明党の出番です。(2024-4-14)