熊による人身事故が多発している状況の中で、環境省はこのほど熊を「指定管理鳥獣」にしました。これによって、熊を捕獲する自治体のために国による財政的支援が講じられるなどの様々な施策が予測されます。これについては、生物環境学研究家の宮澤正義氏(日本熊森協会顧問)が「クマをシンボルに日本の水源の森を保全・再生しようという熊森協会の27年にわたる大変な努力を無駄にしてしまいかねない暴挙だ」とした上で、「野生動物たちが生きるために人間の生活圏に出ていかざるを得なくなった彼らを駆除することに、環境省は予算をつけて推進する。環境省の人たちは、生態系とは何か、日本も批准した生物多様性条約とは何かがわかっているのか。この国に環境庁が作られた理由、庁から省への格上げの狙いさえわかっていないのではないか。無念です」との痛烈な批判をされています◆毎年5月のGW前に開かれる「くまもり全国大会」も今年は27回目。「クマ保全未曾有の危機、だからこそ集まろう!」とのキャッチコピーのもとに尼崎市のホテルで開催され、私も参加してきました。これには北海道から九州まで全国各地から多数の会員が集まりました。オープニングでは、CMソングの女王と言われる特別ゲストのミネハハさんが「いのちの森」や「ありがとう地球」を熱唱してくれました。この人は今回の出演を契機に、今後、地球を守る歌を唄う歌手へと大いなる方向転換をすると表明されていますが、生命を揺さぶる大声量に私は心底から感動しました。休憩時に会場でCDを2枚も買ったことでいかに私が感激したかがお分かりいただけるかと思います。また、北海道、秋田、青森、山口などの支部長らは生き生きとした活動報告を展開。聞くものはワクワクさせられました。中でも手製の熊防御杖を持参した我満嘉明地区長の臨場感溢れるお話は、熊との共生を実感させてくれる貴重なものでした◆大会では、現場からの報告の一方、室谷悠子会長の基調報告など本部を中心にした様々な動きが紹介されました。その中でクマをめぐる環境が厳しくなる今だからこそ、ピンチをチャンスに変える好機と捉えて、力を合わせて立ちあがろうと強調されたのが印象的でした。昆虫学者の主原健司顧問は、この日配布された『顧問からの手紙』に、前述の宮澤さんと共に、「クマの異常出没に気候温暖化が関係していることを述べる報道は皆無でした」と振り返ると共に、「温暖化により寒冷な気候帯に生息している種の多くは適応できずに衰退している」との生物全体が直面する課題について大きな懸念を表明。クマを有害動物だとして駆除し続けても根本的な解決には至らないとの警鐘を乱打していましたが、会場でもユーモアを交えて挨拶、新たなる感動を呼び起こしていました◆毎年度この大会の恒例になってしまった私の「終わりの言葉」──今年は以下の通りです。《2年前に始まった「ウクライナとロシアの戦争」が依然として続いている上に、昨年10月からのパレスチナでのイスラエルとの「報復の連鎖」が付け加わってしまいました。人類にとって一段と深刻な事態です。一方、日本では、人間同士ではなく、大型動物・熊との戦いが話題になったり、つい先程、伊豆南方沖で海上自衛隊が実戦中でなく、訓練中に墜落事故をまたも起こすなど、「一見平和といえる異様な事態」が現出しています。こんな日本だからこそ、真に平和を維持し、自然との共生を日々実践する、「熊森協会」の使命がある》──と強調しました◆全国大会終了後に、本部役員と顧問、支部長に加えて、初参加の石川県の会員の代表らを交えて、2時間にわたり今後の課題を話し合いました。私はその場で名誉会長、会長始め、リーダーがほぼ全て女性である熊森協会の独自性を評価。「男中心社会の悪弊」が噴出する日本の今である故、同協会こそ地平を切り開ける可能性を持った実践環境保護団体であると指摘する一方、その自覚を強調しました。これはかねて私の持論ではありますが、男性からは異論があろうかと思います。(そのあたりはまたの機会に論じたいと思います。)懇談のあと、かつて徳島県の旧木頭村の村長として、細川内ダムを阻止に導いた藤田恵顧問(神戸市在住)と帰路をご一緒しました。車中のやりとりを通じて、自然破壊を止める旗手「熊森協会」への熱い心意気を感じました。(2024-4-25)