映画『ハドソン川の奇跡』に偏見排し、素直に感動

映画『ハドソン川の奇跡』を観ました。クリント・イーストウッドが監督で、トム・ハンクスが主演。この監督の作品は二年前に『アメリカン・スナイパー』を観て、深い感動とアメリカという国の宿阿とでもいうべきものを痛感して以来でした。ハンクスのものは、『フォレストガンプ/一期一会』以来ですから、もう20年余り経っています。彼も今は60歳。40歳ぐらいの彼のイメージからして、年相応に渋さを出しているのには、誰やらのことは棚上げにして、大いに好感を持てました。この映画を観て色々と感じたことを述べてみたいと思います▼この映画は2009年にUSエアウエイズのエアバスA320機がニューヨーク空港を離陸してほどなく、鳥と衝突しエンジンに不都合をきたしたためやむなくハドソン川に不時着水したという、実際に起こった航空機事故を題材にしているものです。乗客、乗務員155人全員が無事だったという驚くべきニュースを私もそれなりに覚えています。実際の機長が書いた手記を元にしたものですが、イーストウッドはそれを時系列で描かずに、フラッシュバックによって、当事者の記憶を呼び覚ますという錯時的な構成をとっています。このために映像が心理描写に支配され、私のような凡庸な観客には分かり辛いと言わざるを得ません。凝った作り方で、玄人筋には受けるかもしれませんが、何度も同じ場面が登場したりで、回想場面の複雑さには正直いって興ざめしてしました。ここは素直に時系列順に追ってもらった方が迫力があったのだろうと思います▼川に着水せずとも空港に引き返せたはずとする、国家運輸安全委員会の追及により、英雄が容疑者になるかも知れないというテーマの描き方が今一弱いと感じたり、不平や文句ひとつでないあまりにも整然とした乗客の対応などに、いささか現実離れをした米映画らしさを感じてしまいました。これってへそ曲がりな私の偏見でしょうか。勿論、この辺りは事実にそって描かれたものでしょう。映画の筋立てとは別に、最後に実際の機長を囲む乗客らの後の集いが挿入されていました。ともあれ最終的には機長の冷静、沈着さに舌を巻き、私も素直に心から尊敬の念を抱いたことは正直に告白しておきます▼副操縦士とのコンビの絶妙さや乗務員、乗客のチームワークあったればこそという機長の最後の発言などにも心底から感動しました。また、この次は厳寒の時期ではなく7月に起こって欲しいという、副操縦士のユーモアにも深く感じ入りました。最近観た邦画ではあまりにも品のない描き方のものが少なくなく、うんざりしていましただけにこの映画の後味の良さには爽やかな気分に浸れました。それにしてもかつて観た感動的な邦画の数々に比べて貧困さばかりが目立つ昨今の状況はどういうものでしょうか。(2016・10・5)

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