【61】秩序崩壊、分断の世界をどうする━━元旦社説読み比べ(下)/1-6

 次に全国紙、地方紙の社説を読み比べたい。既に新年も一週間ほど経っているが、年の初めに日本の言論機関が何を考えているかをおさえておく価値はあろうかと思うので、遅ればせながら論じたい。新年早々にトランプ米大統領の差配で、ベネズエラの大統領が拘束されるとの史上稀に見る事件が起こった。米国の国際法を無視した「主権侵害」は否めず、その無法ぶりに世界中が驚いている。この事件から、4年前のロシアのウクライナ侵略が思い起こされ、近未来の中国の台湾軍事侵攻などが懸念されている。まずは国際秩序をめぐる課題を取り上げた三紙から追ってみる。

★世界秩序の崩壊をどう食い止めるか

 「読売」が例年のことだが、通常の倍ほどの分量で、「知力、体力、発信力を高めたい━━世界秩序の受益者から形成者に」との論考を掲載した。この論題から読み取れるように、混沌として見える国際社会の秩序を大国任せにするのではなく、日本が積極的に動いて、秩序を形成する側に立つことを迫っているのだ。ただ、戦後日本は長きにわたり、米国の伴走者として、追従姿勢が明確なだけに、方向転換は容易ではない。新年早速起きたベネズエラ事案にどう立ち向かうか。易々諾々と米の後追いするだけではならない。そのあたりの「読売」の知恵が欲しいところだが、一向にうかがえないのは残念だ。

 「日経」も、海図なき時代に「米中に翻弄されぬ多国間外交導け」という。対中関係において、「脅威への抑止力を高めながら、あらゆるパイプを駆使して対話も重ねるしたたかさを求めたい」としている。正論だが、これまでの戦後の長い歴史の中で、こういう注文が受け入れられたためしがない。ロシアに続き米国の大統領が傍若無人の振る舞いを展開する中で、どう日本が翻弄されずに動くか。心許ないという他ない中身だ。

 「産経」は、論説委員長による特別編で「『台湾有事の前年』にしないために」との主張を展開している。ここでは、高市首相の「台湾有事」をめぐる発言に、内閣支持率が「微動だにしなかった」として、国民の大勢が「左派の空想的平和主義、専制国家中国を喜ばせる危うい言説に影響されなくなったのは極めて喜ばしい」と大仰に賛辞を表明している。「あらゆる分野で対中関係の仕組みの大幅な見直しが求められる」というだが、どう見ても危険な反中国包囲網の音頭取りと言わざるをえず、見苦しい。

★民主主義の危機をめぐる対応

 「朝日」と「毎日」は、それぞれ「退潮する民主主義 『分断の罠』に陥らぬように」、「『ポスト真実』超えて 未来を描き社会を変える」といった見出しで社説を掲げ、日本の現在における民主主義の危機やSNSをめぐる諸々の社会現象にどう対応すればいいかとの課題を取り上げている。

 「朝日」は、結論として「意見や立場は異なっても互いを尊重し、対話を通じて妥協点と繋がりを見いだしていく」という。これでは抽象論というほかない。これに対して、「毎日」は、岩手県矢巾町が10年前に導入した「将来人」としての議論の場の例を挙げたり、フューチャーデザインを提唱する学者の声を引用しており、具体性がある。両紙のこの違いは大きい。

 ★喧嘩の防ぎ方や排外主義への具体的対応策

     他方、ブロック紙の「東京」の「怒を恕(じょ)に変える」は、ユニークな中身だった。米ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』からの一場面を引用して、喧嘩の場面を巧みに一呼吸おくことで回避した話を導入部にしている。さらに後半で、ある書道家親子が、諍いごとが起こりそうになったら「恕」と言うことにするとの取り決めをしたとの話も面白い。

 似て非なる2つの漢字をめぐって書道家同士が取り交わす約束事は微笑ましく、印象に残った。いつもの同紙の社説と違って鋭くないと批判する向きもあるようだが、私は全く逆に、ほっこりしてくるいい社説だと感じた。個人と国家間との争いは同列に論じられないが、原型として顧みる価値はある。

 一方、地方紙の雄・神戸新聞の社説は「排外主義にあらがう 地域の『小さな輪をつないで」は読み応えがあった。高市自維政権は「外国人を規制の対象としか見ないような政策に前のめりだ」との位置付けのもとに、規制一辺倒に偏りがちな国の取組みを批判すると共に、地方の対抗策を紹介している。

 冒頭に挙げられた豊岡市の芸術文化観光専門職大学における舞台「もう風も吹かない」は、国際協力機構「JICA」の具体的な活動をテーマにしたもので、自国第一主義がいかに世界における人助けと逆行しているかを考えさせられた。また、ネパールなどの外国人が急増している神戸市東灘区でのケースでの「顔の見える関係づくり」や、認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸の「世界とつながるカフェ」などは、小さな輪に過ぎないものとはいえ、貴重な一歩として注目される。(2026-1-6)

 

 

 

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