●委員会での答弁から
厚労副大臣として、通常国会において、厚生労働委員会などでの答弁を担当する一方、各種の会合で挨拶をしたり、その合間に多くの陳情を受ける機会があり、当然のことながら大変に忙しい日々を過ごしました。
例えば、今は愛知県知事をしている大村秀章氏が質問にたち、後期高齢者医療制度の考え方を述べよと、訊いてきたことに対して以下のように答えています。
【急速な高齢化のなか、大胆な制度改革が求められています。従来の老人保健制度は、保険者間の共同事業として構成されているために、一つは運営主体が不明確であること、もう一つは、高齢世代と現役世代の費用負担が不明確であるとの問題点が指摘されています。そうした中で、負担のあり方について、国民の納得と理解が得られるようにするため、高齢世代と現役世代の負担を明確化し、わかりやすい制度にする必要があるのです。
また、財政運営の責任主体を明確化するとともに、高齢者の保険料と支え手である現役世代の負担の明確化・公平化を図ることを狙いとして、後期高齢者医療制度の創設を考えました。さらに、後期高齢者の心身の特性等に相応しい医療が提供できるよう、新たな診療報酬体系を構築したいと考えています】
短い発言の中に、明確、不明確という言葉が4箇所も出て来ますが、そのわりにはわかりにくいかもしれません。本格的なやりとりは大臣との間でこのあと行われており、私は概括的な説明役でした。
●健保連総会での挨拶から
2月17日には健保連総会が開かれましたが、そこに来賓として出席して、政府が考える「医療制度改革大綱」に基づいて提出された「健保法改正案」のポイントを三つに絞って説明しています。
第一は、生活習慣病対策の充実や、平均在院日数の短縮といった中長期的な医療費適正化対策を計画的に進めようとしていることです。その一環として、平成24年度までに、療養病床の再編成を進めていきたいと考えています。さらには、現役世代並みの所得のある高齢者の患者負担の引き上げなど、短期的な医療費適正化対策をも同時に進めることにしています。
第二は、世代間や保険者間の負担の公平化、明確化を図るため、安定的な高齢者医療制度を創設することにしています。ここで、75歳以上を後期高齢者と定め、そのひとたちの加入する医療制度については、保険料、現役世代からの支援及び公費を財源として、都道府県単位の広域連合が運営することにしています。また、前期高齢者の医療費については、保険者間で財政調整を行うことにしています。
第三は、この制度を進めるにあたっては、都道府県単位を軸とした保険者間の再編、統合を進めていきます。健康保険組合については、再編・統合の受け皿として地域型健康保険組合の制度化を盛り込んでいます。
これら一連の改革及び今回の診療報酬改定によって、健保組合全体で見れば財政負担の軽減が見込まれています。それぞれの健保組合にとって、過大な負担とならないように、個別の健保組合の状況に応じて、高齢者に係る納付金を軽減するなどの措置を合わせて講じる構えです。
●死に至る準備をする年齢として
この制度改革をめぐっては、まずなによりも「後期高齢者医療制度」というネーミングがいけないという批判が巻き起こりました。75歳以上を後期高齢者、65歳以上を前期高齢者とするのは、年寄りを差別し、線引きするもので、死に追いやるつもりかという風な感情論だったと思われます。
実はこの名称をめぐってはもちろん厚労省の中でも事前に議論がありました。特に、私は、辻哲夫事務次官との間で以下のような会話をしたものです。「自分自身の死を我が身の問題として捉えるという当たり前のことが昨今、忘れられていませんか」「あたかも無制限に生き続けるかのような錯覚がありますね」「やはり、人は一定の年齢になったら、皆死への準備をする必要があるよね」「その年齢としては75歳が相応しいね」といった会話をし、互いに共通の認識がありました。正直、当然のように、「後期高齢者医療制度」との名称はそのものズバリで問題なしとしていたのです。
ですが、法案審議が始まって、色んなところで、説明をしたりするにつけて、率直な反発を受けるに及んで、変更を余儀なくされていきました。問題は本質的なことではなく、むしろ名称にみる厚労省の高齢者への感性を疑うというようなことが強くあったようです。そんなことから、では「長寿医療制度」ではどうか、ということになり、別名併記となったように記憶しますが、ほとんど今では使われていないように思われます。
●介護保険制度をめぐって
今でこそ介護保険制度は定着していますが、スタートして5年余だった私の副大臣時代は未だよちよち歩きの状態でした。日本シニアリビング新聞という業界紙にインタビュー記事が掲載(4-20付け)されましたので、紹介します。
ー厚生行政の柱の一つが介護ですが、どのように見ていますか?
赤松)介護保険の総費用は、2004年度に3兆6000億円だったのが、06年度予算では7兆1000億円になっています。65歳以上の人は約2500万人。このうち、75歳以上は、約1100万人です。認知症の方は約170万人。介護サービスを利用している人は、00年に97万人だったのが、05年には251万人(在宅)にもなっています。改めてこういう数字を見ると、「この6年間で家族任せだった問題が社会全体の問題になったんだなあ」という印象を受けます。
ー介護保険制度は4月から大きく変わりました。
赤松)予防重視型システムへの転換です。これは重要だと思います。私は60歳になりましたが、週末に約10キロ走っています。最初は無理かなと思ったんですが、続けているうちに楽ではないけど走れるようになりました。介護予防も同じではないでしょうか。長寿はますます進みます。「平均寿命100歳時代になる」という人もいます。介護とは、「健康で長生きする」ためのものです。
ー具合が悪くなってからではなく、具合が悪くならないようにする、ということですか。
赤松)そうです。
ー「介護保険にはまだまだ問題がある」という指摘があります。第一号被保険者の保険料が高過ぎるという声はよく聞きます。
赤松)4月から全国平均で4090円です。確かにこのまま増え続けたら、大変なことになるかもしれません。
14年前のこのやりとりを今、後期高齢者寸前の私が読みますと、複雑な心境になります。つい先日住んでいる地域の市当局から、介護保険料の向こう一年の予定額が届きました。ずっしりと重い金額です。家族三人全員が70歳以上の高齢世帯ですが、今のところ払う一方の立場です。恩恵に浴しているものは95歳の義母を含めてゼロというのは、やはり喜ぶべきことなのでしょう。(2020-6-25公開 つづく)