●ベトナムでの貴重な体験
鳥インフルエンザの問題で、ベトナムのダナンで国際会議が行われることになり、5月3日から四泊五日の予定で出張することになりました。10ヶ月の副大臣時代に四度も海外出張を経験することになったのですが、その皮切りがこのベトナムへの旅です。中島正治健康局長を始めとするメンバーと一緒でしたが、3日はハノイに入り、服部則夫・駐ベトナム大使と懇談することにしました。同大使は2002年から赴任。この年で既に4年経ておられ(最終的に5年半駐在)、日越関係の深い部分をあれこれと教えていただいたしだいです。
ハノイでは翌日、ホーチミン廟を見学したり、同国労働副大臣と会見した後、市内を見学。夜にダナンに移動して、翌日の会議の準備を皆で打ち合わせました。5日は終日ダナンでの会議に臨みました。翌6日は旧サイゴン(現在のホーチミン)に移動するなど、短い期間に同国の三大都市を全て見たことになります。駆け足の旅でしたが、随所で活力溢れる人々の動き、街並みの強かさに感じ入りました。鳥インフルエンザの対応を議論する会議の場でも、進行役から裏方を仕切りつつ、同国担当者は熱心な取り組み姿勢を示していたと記憶しています。今回のコロナへの対応も台湾などと並んでアジア、世界でも出色の見事な振る舞いをベトナムは見せたと認識しますが、むべなるかなとの思いです。
アメリカとの戦争に一歩も引かず、超大国を苦しめ抜き、ついには追い出すことに成功したり、巨大な隣人中国との間断なき中越紛争にも決して負けない強国ぶりを発揮してきたベトナム。まさに世界で最も強い国と言っても過言ではないかもしれません。空港に送ってくれた大使館勤務の現地人青年とあれこれ言葉を交わしましたが、極めて謙虚なうえ、自民族に対する深い誇りの念を感じることが出来、爽やかな印象を持つことができました。
この時のチームで一行の公式通訳を担当してくれたのが田中祥子さん。この人は著名な英語通訳者で、初めて会った瞬間からとても打ち解け、一気に親しくなって、この旅に貴重な彩りを添えてくれました。ロシア語通訳者で作家の米原万理さんと親友ということでした。かねて彼女の著作を殆ど総なめにしていた私は、大いに興味を持ち、「ぜひ一度お会いしたいですねぇ」「会わせますから」ということになったのです。楽しみにしていました。ところが、米原さんは私たちの帰国直後に大病を患われ、6月25日にあっという間に不帰の人になられてしまったのです。本当に残念なことでした。
●エイズキャンペーンでの新宿西口駅前でのできごと
私の副大臣時代の様々のできごとの中で、閑話休題的なエピソードで最たるものは、小泉首相を囲んでの初の副大臣懇談会があった時のこと。官邸の地下でお酒を飲みながらの場だったのですが、この席でまことに楽しいやりとりが私と小泉首相との間であったのです。その話には伏線、前提がありました。順序としては、それから触れないと、意味が分からないので、まずそれからお伝えします。
それはGW中のこと。キャンディーズのスーちゃんこと、田中好子さんと一緒に、エイズキャンペーンを街頭でするので、副大臣も一緒にお願いしますとの依頼を受けました。新宿駅西口の駅頭に1時間あまり立って、ビラや、コンドームを道ゆく人に配るというものでした。私は恥ずかしながら、スーちゃんが、かねてこの反エイズのイメージキャラクターとして有名だったことは知りませんでした。むしろ、このタレントが西播磨名産の揖保乃糸のイメージキャラクターであることは、東京駅などで見かけるポスターで知っていました。
そんなことから、当日、初めて会って、名刺交換した際に、「田中さん。私は、姫路、西播磨を選挙区としています。私と貴女は赤い糸ならぬ白い糸で結ばれていますよね」との軽口を叩いたのです。つまり、選挙区が揖保乃糸の名産地であることから、二人は〝白い糸〟で結ばれている、との洒落れです。彼女は一瞬怪訝な顔をしましたが、殆ど間髪入れず、ニッコリ。「いやあ、そうですねえ」と、嬉しそうに応えてくれました。
●副大臣懇談会での小泉首相とのやりとり
さて、ほぼ一ヶ月後の5月30日のこと。副大臣懇談会が行われました。その場に臨んだメンバーには官房長官だった安倍晋三をはじめ、総務副大臣・菅義偉(現官房長官)、法務副大臣・河野太郎(現防衛大臣)、外務副大臣・塩崎恭久(後の官房長官)ら錚々たる面子が顔を揃えていました。開口一番。小泉首相から「今日は、日頃のそれぞれの仕事で報告すべきことをしてくれるか」とありました。皆真面目に、きちっと話し始めました。私は本来天邪鬼的気質が強くありますので、こういう場面ではつい、悪戯心で面白い話をしたくなるのです。
私の番が回ってきました。いきなり、私は「総理。この間、エイズキャンペーンで、私はスーちゃんと一緒に新宿の西口でコンドームを配りましたよ」と言ったのです。すると、総理は、「ん?スーちゃんって誰だ」と聞き返してきました。それには私が答える前に、周りから、あれこれ口を挟む声があがり、キャンディーズという女性3人の歌手グループの一人だと説明してくれました。総理はすると、「なんで赤松がエイズキャンペーンでそのスーちゃんとやらと一緒にコンドームを配るのだ」ときました。そこで、私が「二人は赤い糸ならぬ白い糸・揖保乃糸で結ばれていまして。これって、直ぐに切れますけど」とやったのです。
首相は、今度は「揖保乃糸ってなんだ?」訊いてきます。驚きです。この有名な素麺の銘柄を総理はご存知なかったのです。私は即座に、「河本さん。総理に説明をして差し上げて」と、ふりました。河本三郎文科副大臣は龍野という揖保乃糸の本場出身だからです。そんなこんなのやりとりが繰り返されて一呼吸経ったとき、一転、小泉さんの逆襲が始まりました。「よし、分かった。じゃあこっちから聞くが、コンドームって何語だ?」ときたのです。皆口々に、英語に決まってるでしょ!ン?フランス語?いやスペイン語かな?って、ひとしきり飛び交いました。小泉さんは、ニヤリ笑いつつ「日本語だよ。今度産むっていうだろ」と。場内大笑いで、幕となりました。
他愛もない笑い話で、官邸の地下でこんな話が副大臣会議で出たというと、まずいと思いましたが、翌日のスポーツ紙にしっかり出ていました。誰かがリークしたのでしょう。尤も言い出しっぺの名前には触れられていず、ほっとしないでもなかったのですが、このことの責任はひとえに私にあります。(2020-6-27公開 つづく)