●NPO法人を立ち上げて電子書籍出版へ
「赤松さんも電子書籍を出すといい。紙の本のように手間はかからないし、出版に要するお金も殆どただ同然。うまく当たると巨万の富を得るのも夢じゃない」こんな言葉を投げてきた伊丹市に住む後輩がいました。2014年が明けた頃のことです。私が現役時代に、『忙中本あり』を出版した背景には、インターネットで日々発信していたことがありました。その後も、続編めいたものも書いていましたし、国会での動きを追うリポートも長く続けていました。それらを読んで面白いと思ってくれたようです。
実は、大手出版会社に勤めたあと、定年退職後の時間を持て余していた学生時代からの友人がいました。気の毒なことに彼は脳梗塞の後遺症で、少々半身が不自由になってしまったのです。その彼に電子書籍の出版を手伝って貰えないか、と相談しました。キンドルから出版する過程において、私が原稿を書き、それ以外の全ての作業を彼にやって貰おうという魂胆です。うまくいけば彼の仕事になるし、私も夢が叶うかもしれない、一石二鳥の名案に思えました。
そこで、彼の以前の仕事の上司だった出版社の元社長に代表になって貰い、私が副代表、彼が事務局長になって、NPO法人を立ち上げたのです。取り敢えず第一弾の出版ということで、ネット上にブログとして書き溜めていた私の「読書録」を出すことにしました。タイトルは『60の知恵習い』。〝60歳の手習い〟をもじったのです。数多ある読書録から60ほどを選び出し、幾つかのジャンルに分けてみたのです。我ながらよく出来ていると思うのですが、残念ながら殆ど売れていません。そのうち爆発的に、と皮算用していますが、どうなることやら。
●同年齢の学友たちとの対談を企画
次に私が考えたのは、小、中、高、大学の友人たちとの対話本です。そこそこ有名な人物がいることから着想しました。小学校の時の仲間からは、三野哲治。住友ゴムの社長(当時)です。温厚篤実なリーダー。最前線の「経済」やら「会社組織」を語り合うのに格好の相手です。中学校の友人からは、志村 勝之。元東京モード学園のトップ、退職後は臨床心理士をしています。一橋大で南博教授から社会心理学を伝授された本格的カウンセラー。心を巡る全てを語り合うのが狙いです。
高校の同期からは、紅一点。笑医塾塾長として健康のための笑いを振りまく女医・高柳和江。加えて神戸の猛烈医師・飯村六十四。「スポーツと健康」やら「アンチエイジング」に取り組む好漢です。鼎談にしました。大学仲間からは、慶大名誉教授の小此木 政夫。ご存知、朝鮮半島の専門家です。研究の狭間のとっておきのこぼれ話を聞き出しました。もう一人は、元日本航空の幹部だった梶明彦。天国から地獄を経験したともいえるJALで苦労した彼に、世界から日本を見る眼差しを学ぼうとの狙いです。
一人づつ呼び出して対談をすることにしました。一番苦労したのが、最も親しい関係にある志村。殆ど学者同然の博学。この分野に疎い私は毎回個人教師からレッスンを受けるようなものでした。姫路駅前のレストランや茶店を中心に5〜6回ほど対話を進め、私がまとめたものに彼が手を入れる作業を繰り返したのです。
●幻に終わった、紙の本『現代古希ン若衆』
この電子書籍による対談集は、1月から順次収録し、「とことん対談シリーズ」と銘打って5本を連発で発刊していきました。値段は一冊180円です。タイトルは、それぞれ凝りに凝りました。小此木とのものは『隣の芝生はなぜ青く見えないかー朝鮮半島研究50年の先達に謎解きを迫る』。梶とのものは、『君は日本をわかっていないー世界中を飛び回った男が全ての日本人に捧げる』。高柳、飯村との鼎談は、『笑いが命を洗いますー2人の名医が健康の秘伝を明かす』。志村との対談は『この世は全て心理戦ーカリスマ臨床心理士が勝つ極意を伝授』。三野とのものは、『運は天から招くものー大企業トップと人生、社会、政治を語る』としました。
実はこの一連の対談は、電子書籍にしたあと、紙の本にするつもりで、タイトルまで決めていたのです。『現代古希ン若衆』。「古今和歌集」や「新古今和歌集」を意識しました。ちょうど数えで70歳、古希を迎える私たちですが、その意気たるや、若衆と変わらぬとの思いを込めるつもりでした。それぞれ、多くの仲間、支援者、ファンを持つ連中だから、結構売れると、踏んでもいました。
ところが、思わぬところから横槍が入ったのです。その主はたった一人の女性。「赤松さんたちと鼎談すると、歳がばれるじゃない。私って、20歳代で通しているのよ(確かに、彼女は講演時にそう言っています。遠目には50代くらいには見えなくもないが、20代とは絶句)。古希だなんて、そんなの嫌だ。」こう言うのです。「ん?電子本で既にバレてるよ」「電子本ってみんな見ないでしょ」ーうーん。こりゃあだめだ、と思ったしだい。女性はホントどこまでも強い。(2021-3-7 文中敬称略)