「三極の中の一極」路線と『三国志』【4】❷平成2年(1990年)

冷戦終結と共に幕開けした「平成」

私が初めて選挙に挑戦した1989年、平成元年は、世界史的に見ても画期的な、まさに「革命」が起こった年でした。11月には東ドイツが西側への出国を自由化する国境の解放に踏み切り、ついにベルリンの壁が崩壊。年末には米ソ首脳が地中海のマルタ島で会談、冷戦の終結を宣言したのです。その半年前には中国で天安門事件が起こったり、ポーランドで共産圏初の自由な国会議員選挙が行われ、ワレサ率いる「連帯」が圧勝するなど、予兆とでもいうような出来事が発生していました。翌1990年は年明けから、ソ連が共産党一党独裁を放棄し、文字通り世界の激動が音を立てて始まったのです。10月には東西ドイツが統一し、ドイツ連邦共和国が誕生しました。

そんなある日、姫路市での街頭演説に応援に来てくれた渡部一郎党副委員長が涙をはらはらとこぼしながら、ベルリンの壁やソ連の崩壊に見る国際政治の革命的変化を感動的に語った姿は忘れがたく私の眼に焼き付いています。この大先輩は公明新聞の初代編集長であり、市川さんの前任者です。また、大雄弁家と云っていい人でした。大学一年の晩秋に初めて東京の台東体育館でこの大先輩の演説を聴いたのですが、感動に心底打ち震えたものです。私が直接聞いた政治家の演説で本当にうまいと言えるのは、贔屓目なく、この渡部先輩と同僚の太田昭宏元国交相の二人でしょうか。二人とも宗教の世界でも大をなした人で、人の心を掴む術は他の追従を許さないものを持っていると思います。直接私は聞いたことはありませんが、昔京都から選出された公明党のある議員の演説には弁当を持って聞きに行く人が大勢いたと言います。彼は往年の活動写真弁士だったとのことですが、一度聴いて見たかったものです。

中道政治の礎、示される

この年、公明党は二回にわたって党大会を開き、新しい時代に対応するための路線を確立するべく模索の作業を続けていきます。「米ソ対決の脅威」が変化を見せる中で、日本における自民党と社会党による「左右対決型政治」の行方を見定め、中道政治の存在感をどう高めるかということが最大の課題でした。ほぼ一年間の論議の末に、11月の29回党大会で、その後の方向、路線を決めるに至りました。

それは「中道主義の政治」を明らかにしたもので、理念と路線の双方からその実像を描いて見せています。まず、理念としての中道主義とは、〈生命・生活・生存〉を最大に尊重する人間主義だと定義づけしています。また、路線としての中道主義とは、日本の政治における座標軸を、ニュートラル(中立)な観点から果たすものだと位置づけしました。具体的には❶左右の揺れを防ぐ、偏ぱを正す❷左右対決による行き詰まり状況に対して、国民の合意形成に貢献する❸新しい政策進路を切り開くための創造的(クリエイティブ)な提言を行うーなど三つの役割を持つものだとしました。

国際政治における「米ソ対決」を、そのまま国内に投影したものとしての「自社対決」政治は、あらゆる場面で弊害をもたらしていました。そのため、左でも右でもない、もう一つの生き方を求める内外の欲求に応える必要があったのです。そこで打ち出された公明党の政治路線は、「三極(自民党、社会党、中道=公明党)の中の一極としての中道の主体性を発揮する」というものでした。この「三極の中の一極」路線は、市川雄一書記長が1989年9月に提唱したことが発端ですが、背景には、創価学会の中における文化としての「三国志論」があったことは否定できません。大きな二つの勢力の狭間にあって、一番小さな塊が事の次第を決して行くというロマンとでもいうべき思考法が存在していました。すなわち、三国志の中の諸葛孔明や劉備玄徳に率いられた蜀という最も小さな存在に、公明党をなぞらえて、自民、社会党の二大勢力をあたかも魏、呉の両強国に見立てて、その行く末に胸を焦がし大いに意欲を燃やしたのです。

先輩、仲間の活躍を横目に

市川さんのそばで記者として、秘書として薫陶の一端を受けた身として、表舞台に躍り出た大先輩の活躍を、当時私は遠い播州の地で感慨深く見ていたのです。選挙で一敗地にまみれた私としては、当選した仲間たち(今の山口那津男代表以下、井上義久、北側一雄、石田祝稔氏ら11人)の姿をただただ羨ましく見ているだけでもありました。そんな時に、市川さんから電話で、「今は地元の支援してくださる方々とあつい絆を築く時だよ、当選したら中々そういう時間はとれないのだから」と激励を受けました。この言葉を胸に、せっせとご挨拶回りを繰り返していったのです。

この年8月、イラク軍がクウェートに侵攻するという事態が発生。このことがその後の世界を震撼させる一大発端となっていきます。(続く)

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