●「中国脅威」をわざわざ持ち出さずとも
前回までに見た基本的な戦略に基づいて、具体的戦略の構え方が提示されているのが、第二文書「国家防衛戦略」である。骨格は、米国を始め同盟国との連携によって、周辺国からの力による現状変更の試みを阻止することだ。その戦略の鍵に「反撃能力」がなるとした上で、重視する能力の具体例を列挙していく。①地上発射型および艦艇発射型を含めたスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する②無人機による情報収集、警戒監視のみならず戦闘支援など幅広い任務に活用する③防衛省・自衛隊で能動的サイバー防御を含め政府全体の取り組みと連携する④島しょなどわが国に侵攻する部隊の接近、上陸を阻止するため、自衛隊の海上輸送力・航空輸送力を強化する⑤27年度までに、弾薬、誘導弾の必要数量の不足を解消する──などといった具合に。
さらに、第三分書「防衛力整備計画」では、具体的に装備を整備する手順について事細かに挙げている。そして、それを実現するために、「23年度から5年間の計画実施に必要な防衛力整備費用は43兆円程度とする」と、締め括っている。
以上の3文書策定に対して、与党内で批判が集中したと報じられたのが、43兆円もの費用をどう捻出するのかとの「財源論」についてである。防衛国債から始まり、法人税、たばこ税、震災税の転用などと、議論百出の末に、結論は先送りされたのは周知の通りである。迫り来る外敵の「挑戦・脅威・懸念」の〝恐怖3点セット〟を前に、お金の算段で揉めるとはいかにも「民主国家」らしい、などと皮肉はいわない。結局は、国民の財布に頼るしかないのだから、大いに議論をして、国民的大論争を展開すべきだと思う。
今回の問題の中で、一部メディアが日本が中国に対して弱腰なのは公明党が原因だとの誤謬を犯している。直接的なきっかけは、中国の昨今の動きを「脅威」とせずに「挑戦」との表現にゆるめさせたことが挙げられている。直接その場にいた身ではないゆえ、ことの真偽は闇の中だ。背景には山口那津男代表の対中姿勢があろう。同氏は常日頃から、いたずらに敵視せず、慎重で丁寧な外交を主張しているからだ。
ここ10年余の習近平・中国の「一帯一路」構想の展開や、南シナ海、尖閣列島付近での我がもの顔の動きが気にならぬ日本人はいない。そんな中国に手ごころを加えるとはとんでもないというわけである。その気持ちは分かるものの、「中国脅威」論をここで持ち出すのは得策とはいえない。大事なものはのちのちに取っておくというのはこの世の通り相場でないか。お隣さんとの付き合いに差異化があっても悪くないと私は思う。(12-28 この項終わり)