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【92】もうすぐ一年が経つ「ウクライナ戦争」とロシア(上)/2-19

 ウクライナ戦争からほぼ一年が経とうという時に、トルコとシリア両国を大地震が襲った。黒海を挟みクリミア半島から距離にして1000キロ余り。隣接する国と地域を襲う人災と天災。天の配剤というにはあまりに無惨なできごとに声もない。とりわけ、罪なき子どもたちが直面する問題に心騒ぐ。報道では、方や赤ん坊をはじめ救い出された子どもたちのすがた。もう片方では、囚われていたロシアから連れ戻すことが出来て喜ぶ母と娘の映像。ウクライナの戦場から連れ去られたままの子どもたちの運命が気になる。米イェール大の報告書にまつわる報道では、この1年で6000人もの子供たちがロシアの各地の48施設で、心凍る「再教育」の下にあるという◆俄には信じられない。当初聞いた時には、戦災孤児に対する善意の救済かと思った。しかし、そうではない。「楽しいサマーキャンプ」などと銘打って、厳しい生活環境に喘ぐ親の元から旅費や滞在費はいらないとの触れ込みで、誘い出す。その後は連絡が途絶えたまま。「親ロシア化」のための教育を施す。21世紀の民主主義国家に生きる者にとって、どうにも理解に苦しむ状況が生まれているのだ◆今から80年近く前のこと。敗戦後の戦場から連れ去られた日本人捕虜たちの悲惨な生活があった。毎日新聞オピニオン欄『現代をみる』での、「未完の戦争 シベリア抑留」(栗原俊雄  2月4日付け)は、広い意味での戦争は「終戦」で終わらなかったことを改めて明かす。旧満州(現中国東北部)などにいた日本人約60万人が、ソ連領内やモンゴルに連行され、6万人が命を失った。抑留体験者たちは、同地での苦難の連続に加えて、帰国後もソ連式共産主義の教育に染まったものとしての差別も受けた。いわゆる「シベリア特措法」が議員立法で成立し、幾ばくかの特別給付金が支払われて、形式的な戦後にピリオドがついたのは2010年。既に「シベリア抑留」が終わって、半世紀を超えていた。こうした歴史を思い起こせば、今に展開するウクライナの子どもたちの「ロシア抑留」も現実味を帯びてこよう◆それにつけても、豊かな文学、音楽やバレエなど肥沃な芸術的土壌を持つこの国とこれらの出来事をどう関係づければいいのか。そこに生まれ育った人々は一体どのような感性と理性で今の事態を見ているのか。とめどなく愚考が渦巻く。(2023-2-23修正 以下続く)

 

 

 

 

 

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【91】建国記念の日に考えた「戦後のかたち」/2-11

 

 日本の国の成り立ち、つまり建国の由来については曖昧模糊としている。『古事記』『日本書紀』といった奈良時代に作られた最古の歴史書によると、神の子孫としての天皇がその始まりで、神武天皇を持って初代とすることが書かれている。明治維新と共に、近代化の流れに入り、諸外国との交流が本格化するに伴い、国の基本としての国旗、国歌などが整えられていった。そんな中で、神武天皇が即位した紀元前660年1月1日を建国の日として、新暦の2月11日を「紀元節」として祝うことにした。だが、日本史の上で、実在したかどうか判明しない天皇も10数代いるとされるなど、今年は「紀元2683年」といわれてもいささか困惑する。私のように1945年(昭和20年)生まれには、遡ること5年前の1940年(昭和15年)に歌われた、🎵紀元は2600年、ああ一億の胸はなる〜、との歌詞が口をついてでてくる。恐らく親から聞いたか、1950年(昭和25年)ごろにラジオを通して聞いて覚えたに違いない◆以上に見たような、神代の昔の起源よりも、現代日本にふさわしいと私が思うのは、「2月11日」よりも、むしろ「4月28日」である。なぜか。1945年8月15日の天皇の「玉音放送」で戦闘停止となったあとも、ソ連の北方領土侵攻があり、最終的に戦いが終わったといえるのは9月2日。ミズーリ号上での降伏文書調印の場面があり、日本は1952年(昭和27年)まで米軍の占領下におかれる。そして、苦節7年。サンフランシスコ講和条約と、日米安全保障条約が4月28日に発効する。この日から晴れて日本は独立を果たすのである。いらい70年が経つ。文字通り日本の「独立記念日」なのだ。しかし、真の意味で、この70年が「独立」していたと言えるかどうか。今の日本は、〝国家のかたち〟をなしていないとの厳しい見方もある。それは〝戦後の姿〟が阻んできたのだ、と◆戦前の日本は、明治維新いらい77年の『天皇統治』の下にあった。それが敗戦の後、米軍の占領下を経て、独立した。だが、それは見かけであって、その実は、『米国支配』に他ならなかった。「菊の支配から、星条旗の支配へ」と言ったのは『国体論』の白井聡氏だが、戦後77年は米国に従属する日本であった。在沖縄基地に始まり、全国各地に点在する米軍の基地、「横田空域」のように日本の空であっても自由に使えない領空まで、その証拠を挙げるに事欠かない。普段は目立たずとも一朝事あればミエミエとなる。ヴェトナム戦争からイラク戦争を経てウクライナ戦争に至るまで、日米関係と「戦争史」を紐解けば、「自主独立」とは名ばかりの〝不自由従属〟の姿が浮かぶ◆米国の軍事支配だけが戦後のかたちではない。教育における「戦後民主主義」、暮らしにおける「経済至上主義」など社会の隅々まで米国の影響は決定的に色濃い。明治の文明開花に、福澤諭吉の叫んだ『独立自尊』の空気は澱みきっている。何をするにも米国の顔色を窺い、首根っこを抑えられた日本人の姿は情けないばかりだ。戦後の日本という国のかたちを決めたのは「平和憲法」だが、それを変えることにばかり熱をあげ、失敗してきた戦後政治を今こそ見直す必要がないか。むしろ、あるべき「国のかたち」を阻んできた「戦後のかたち」というべきものを見直すことから始めることが大事だと思う。(2023-2-11)

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【90】こころ撃つ生命揺さぶる「危機の勇気」/2-7

 映像は時に人間の生命を揺さぶる影響を与えてくれます。近頃観たものでは、NHK 『映像の世紀 バタフライエフェクト』──「危機の中の勇気」(1-16放映)が最高でした。まず、冒頭のシーン。2001-1-26。韓国人留学生イ・スヒョンさん(当時20歳)がJR新大久保駅でホームから落ちた人を救おうとして、亡くなった場面から。この事件を契機に映画『あなたを忘れない』が作られ、最愛の息子を失った母親は『息子よ!韓日に架ける命の橋』を出版します。それから丁度6年後の2007-1-26。スヒヨンさんの7回忌の当日に、今度はJR上野駅でまたもや落下事故が起こりました◆3人の人たちが救いに飛び降りたのですが、映像ではその時の当事者の1人山本勲さんのインタビューが。「映画も観ました。本も読みました。感動しました」と彼は語り、「行け!という一歩踏み出す勇気を本能的に貰いました。スヒョンさんが力を貸してくれたのです」と続けていました。残念ながら落ちた人は亡くなりますが、その人の妻が別れの時が持てたことを感謝する手紙を山本さんに送っていました。その当時、事業に行き詰まっていた彼はこの手紙に勇気づけられたといいます。映像はこれを導入分にして、サンフランシスコ大地震、関東大震災など震災時における人々の明暗や第二次大戦時のロンドン空襲やドイツでの人々の明るい様子や助け合いの姿を映し出していました。心和ませられる内容でした。とりわけ、サンフランシスコで見た救助の場面を目に焼き付けた当時8歳の少女が、老いて後に核廃絶のために立ち上がる行動を起こす場面は感動を呼ばずにはおきませんでした◆日本の駅でのプラットフォームからの転落事故は枚挙にいとまがありません。ようやく少しづつ防護柵が設置されるようになり出しましたが、危険なホームは相変わらずです。有為な韓国人留学生の生命を奪った事故はまことに胸潰れる思いがする悲劇でした。しかし、スヒョンさんの勇気ある行動に感激した人々の義援金を基に、アジアからの留学生への奨学金制度が作られました。スヒョンさんの母親シン・ユンチャンさんが発起人になって、これまで1100人にも及ぶ留学生を助けてきたといいます。これにはまた深い感動を覚えました◆咄嗟の危機の時に勇気が出るかどうか。私は若き日に、日蓮仏法の信仰の力を語る際に、人間は「縁」(客体)によって「主体」の行動が引き起こされることを「十界論」を通して繰り返し述べたものです。つまり、それは、人間の生命の基底部を「菩薩界」に置くことが大事だということです。いざという時に、人を救う生命の境涯が引き出されやすくなるということを強調しました。その日常的訓練こそ、仏界を図顕化した御本尊を朝夕拝することに他ならない、と。幸か不幸か、人の命に関わる場面に直面したことはありませんが、恵まれない人に寄り添い、助けられる自分でありたいと心がけてきました。(2023-2-7)

 

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【89】戦争を終わらせるための「対話」を──佐藤優氏の講演から(下)/1-31

 戦争はいっときも早く終わらせねばならない。でないと、罪なき民の犠牲が果てしなく続く。停戦こそウクライナ戦争で今一番必要なことだ。日本は調停役を担うことが出来る立ち位置にいるのに、NATOに深入りしすぎている。ロシア、ウクライナのどっちが悪くて、どっちが良いという「価値観」に根ざす見方をとってはいけない。どっちも悪い。ウクライナへの武器供与はやればやるほど泥沼化する──これが、講演でのウクライナ戦争への佐藤優氏の大掴みな見方です。一般的にメディアが報じているものとは異質です◆加えて日本の国益をいかに守るかとの観点から、メディアでは読売新聞、政党では公明党が注目されるとの発言がありました。要約すると、「読売」は、いかなる状況になっても戦争に巻き込まれてはならないとの立場。渡邉恒雄主筆の影響である。公明党は殺傷兵器を海外に輸出しない武器禁輸原則を貫く姿勢。背後に、支持母体の創価学会の平和主義がある──この2つが崩れると日本は危ういとの見立てを強調していたのが印象的でした◆私は、これまで『ゴルバチョフからプーチンへ 世界の「失われた30年」』(毎日新聞Webサイト『政治プレミアム』 2022-12-29〜31)で、プーチンの怨念の根源に迫りつつ、NATOの追い込んだ責任も問いました。また、『中道主義のジレンマ』(朝日新聞Webサイト『論座』2023-1-21)では、日本は、ロシアや中国を「脅威」と決めつけず「NATO対中露対決の脅威」と大枠でとらえるべき。公明党は、難しい立ち位置ながら「中道主義」の役割を果たせと、強調しました◆戦争が始まった当時に比べ、停戦への動きに言及する向きが世論から後退している風に見えます。戦争が続く状況下に、まず燃え盛る火の手を消すことが第一でしょう。それには「価値観」に基づく善悪論でなく、「リアル」に徹して事態を終息させねばなりません。佐藤氏は当事者同士がとことん「対話」をすれば、道は開けるはずだと強調していました。まさに正論です。この結論と併せ、もう一つこの講演で忘れられないことがあります。国家の策動によって、氏が獄に繋がれた時の検察の誘導尋問のあの手この手についてです。ど迫力がありました。「私は検察よりも神様が怖かった」から、「自分の信念に忠実に従った」との発言をした際の彼の凄みのあるあの大きな眼。今も私の目に焼き付いています。(2023-1-31)

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【88】佐藤優氏の講演を聴いて我が胸に去来すること(上)/1-29

 

 先日、国会で鈴木宗男参議院議員(日本維新の会所属=『新党大地』代表)が主宰する「東京大地塾」が、佐藤優氏を講師に招いて月例の講演会をしました。友人からYouTubeを送ってもらったので、見ました。様々な面で教えられるところが多い刺激的な1時間あまりでした。今私は「様々な面で教えられるところが多い」と、述べましたが、この言い回しは実は、2009年(平成21年)の11月18日の衆議院外務委員会で、私が鈴木宗男衆院外務委員長(当時)に対して、同委員会に質問に立った際に最後に付け加えたセリフと重なります◆いわゆる宗男事件で衆院証人喚問に立った際に私は、鈴木氏を揶揄したものでしたが、その誤りを率直に反省し、法廷闘争や外務省との闘いを通じての鈴木、佐藤の「おふたりの例えようもない友情に教えられるところが多い(趣意)」と述べたのです。この顛末については、佐藤優氏の『創価学会と平和主義』(『朝日新書』2014年)の中に詳しく述べられています。私の委員会発言を引用した上で、「こういう発言が出てくるのは、創価学会や公明党の持つ組織の文化だと思う。国家が何か策動をしているときに、一歩引いて状況を観察する。国家権力の論理とは別の価値観で動いているのだ」とのくだりが注目されます◆実は、この私の発言がきっかけとなって、佐藤優氏は公明党に強い関心を寄せるようになったといいます。同志社大学出身者のある懇談の場で、なぜ公明党贔屓になったのかと訊かれて、率直にそれを明言しています。それだけではありません。これまで、潮出版社のWebサイト「創価学会学生部員と『世界宗教の条件とは何か』を語る」の第2回での記述を始め、複数の出版物で、私への論及が散見されるのです◆ここで私は10年ほど前の昔話をしたいのではありません。先日の講演で、ロシアのウクライナ戦争をめぐる日本の対応に大いなる懸念を表明した上で、今の危機を乗り切るためには公明党、創価学会に期待するしかないという意味の注目すべき発言をしていることを考えたいからなのです。(つづく 2023-1-29)

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【87】「明暦の大火」後の保科正之の選択になにを学ぶか/1-20

 先日、お気に入りのテレビ番組『英雄たちの選択』で、江戸時代初期の「明暦の大火」(1657)を観て、大いに考えさせられた。消失した江戸城を再建するかどうかで、幕閣で会津藩主の保科正之は、①中止するか②続行するかの選択を迫られた。当時の江戸の6割が消えてなくなり、10万人を超える人が死んだ。町民大衆の生活再建を先行すべきで、天守閣再建など中止すべきだとの考えと、いや、権力と権威の象徴である天守閣は再建せねば、政権運営が成り立たぬとの考えと二択だった◆保科は、①を選択。町民たちの生活再建に力を注ぎ、防火対策を優先させて、数々の施策を打った。この英断があったればこそ、このあと200年の江戸幕府が続いたのかもしれない。時の将軍は四代目の家綱。17歳と若く、それを補佐する者たちは元老格の井伊直孝(68)、元大老の酒井忠勝(71)、元老中の松平信綱(62)らと重厚だったが、むしろ若手に属した47歳の保科が貴重な役割を果たした。それは、家康の孫、秀忠の子であり、三代将軍家光の異母弟という血筋のなせる業だったかもしれない。ともあれ、それに従った幕閣たちも賢明だったといえよう◆かつて、皇居内を見せていただく機会があって、土台だけで上には何もない江戸城天守閣跡地の側にわたしは立った。凡庸な身には、なぜ天守閣がないのかに考えが及ばなかった。世界文化遺産にまで位置付けられた天下の名城のすぐそばで生まれ育った身には、従来、天守閣がない城はただただ貧相に見えるとの浅薄な考えしかなかったのである。皇居の場合はイコール江戸城とも見えなかったのだから、恥ずかしいどころか始末が悪い◆ここで、私はハコモノ無用論を言いたいのではない。ハードかソフトかの選択は時と場合によって様々な判断を要する。家康の草創期から50年しか経っていない当時に、象徴とお膝元地域を焼失するという致命的な危機にあって、庶民大衆の生活を守りつつ、大災害再発防止の諸政策を優先させた知恵と決断力に学ぶ必要が今の日本にもあると言いたいのである。現在ただいまの日本は、人口減から一人当たり名目GDP費(27位)に至るまで、あらゆる側面で国力の低下が懸念されており、貧富の差に大衆は喘いでいる。そんな状況下に政権の支持率下降は何を意味するか?しかと考えたい。(2023-1-20)

 

 

 

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【86】民衆こそ「歴史創造力」の主役──「池田提言」めぐる対話(下)

A ウクライナを支援する西側がロシアや中国との対話をすなべきだとの主張は正論だと思うけど、果たして相手が応じるかどうか、交渉のテーブルに乗らないのではないかという疑問がありますよね。

B  だからといって、敵視するばかりではもっと危険では?  ロシア、中国も国内政治、とりわけ経済に関心が深いのだから、外相に加え、経済担当の大臣クラスの対話など重層的な話し合いが大事でしょうね。お互いが打ち解け合うことが大事です。

A  確かに、30年前の米ソ交渉は、レーガンとゴルバチョフという開放的な両者の人間性もあって、うまくいったと、昨年末のあるテレビ番組が回顧していました。その点、プーチンはスパイ組織、KGB出身ということもある上、ゴルバチョフのおかげで、ロシアの国力が低下し、世界の中で、辱めを受けた、それを取り戻すとの思いが強いように見えます。

B  その思いが強くあり、「民族の栄光を」、「強いロシアの復活を」との呼びかけに、ロシア国民が今のところ共鳴しているのですね。戦争の実態の情報や世界の反応が真っ当に伝わっていないようです。ただ、やがて必ず情報は浸透すると思います。諦めず、情報閉鎖の壁は打ち破れると確信することでしょうね。ともかく世界はグローバル化しつつ、国家主体はナショナリズムにとらわれているように見えます。

A  そうですね。前大統領のトランプによる、「アメリカ・ファースト」の主張は、強いアメリカの復活待望論を背景にしており、見ようによっては、かつての米ソ両大国が共に落日を迎えているということですね。プーチンの主張に共鳴するアフリカや中南米の国々が少なくないというのは、煎じ詰めれば、「どっちもどっち」との受け止め方が蔓延しているように見えます。

B  その傾向は注目した方がいいですね。どうしても、歴史を振り返ると、かつて、大航海時代の流れを受けて、ポルトガルやスペインが世界を跋扈したあと、イギリスがその首座を奪い、やがてそれはアメリカにとって代わり、今や中国がその位置を奪おうとしているとの見方がポピュラーです。しかし、もはやそういう覇権争いは終わりにしようという考え方も台頭してきています。

A  なるほど、覇権国家ゼロ、つまり、国家は皆同じ価値を持つとの考え方で、左や右、あるいは民主主義や専制主義という二極論ではなく、盟主を決めない、求めないというものですね。考え方としては新鮮で、面白いように思われます。

B  例えば、人口で中国をやがて追い抜く勢いのインドが、NATO、中露のどちらにもつかず、中立的立場をとっているというのは象徴的です。本来なら、日本こそそういう立場をとるべきでしょうが、米国との同盟にどっぷり浸かっていて難しいというのは残念ですね。

A 本当にそう思います。日本は歯痒い限りです。池田先生が既に40回ものSGIの日「記念提言」をされていて、今回の提言にあるような、「核兵器の先制不使用」などを懸命に訴えてきておられるのに、さしたる反応がないのですから。公明党ももっとしっかりしないと。

B  いや、先に政府与党が決めた「安保3文書」にはその姿勢は明確に打ち出されていますよ。他にも公明党が歯止めを色々つけていることは注目されます。大事なことは、国家の枠組みを越えて、市民相互の結集による国際世論の潮流を起こすしかないと思います。ですから、やはり平和の回復に向けて、「歴史創造力の結集」が必要ということなんですね。過去に類例を見ない、未曾有の史上初の動きを創造するということですから。(2023-1-14)

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【85】池田SGI会長の緊急提言をめぐる友人対話(上)

 池田大作創価学会SGI 会長が11日に、ウクライナ危機に対して「緊急提言」をされました。ここではその提言をめぐる問題について、友人との対話を試みました。(あくまで私の主観的見方であることお断りします)

Aこの緊急提言には、『歴史創造力の結集を』とあります。これは耳慣れない言葉ですが、どういう意味があると思います?

B 一番最後に、「核戦争の寸前まで迫った危機を目の当たりにしたからこそ、当時の人々が示したような歴史創造力を、今再び、世界中の国々が協力し合って発揮することが急務」とあります。「キューバ危機」は人類が最初に経験した、文字通り歴史上初めてのことでした。つまり、新たな歴史を「創造」したのです。今回は2度目ですが、初めての時のような〝緊張感と使命感〟を持とうと訴えておられるのだと思います。

A  「結集を」という言葉の持つ意味は、1回目と違って、複数の国家が関係しているからですね。ロシアがウクライナに仕掛けた戦争ですが、NATO諸国が背後でウクライナを支援しています。

B 60年前の時は、「米ソ対決」のニ大国間の狭間で、核戦争の恐怖が高まりました。キューバが戦場とならないうちに、両者の鍔迫り合いのままケネディ、フルシチョフ両首脳の英断で、終わったのです。今回は、ウクライナがNATOへの親近感を示していたこともあり、「ロシア対NATO」の構図になっています。NATOといっても、中心は米国ですが、米国が直接関与すると、全面核戦争になる懸念が強く、間接支援に徹しており、結果的に、戦争が長期に渡って膠着し、一進一退を続けているわけです。まずは、米国、フランス、ドイツ、イギリスなど主要NATO国家の意思が結集される必要があるのです。

A その複数の国家の意思が統一されることが大事ですね。池田先生が、「国連が今一度仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦合意を図る」よう、強く呼びかけているのは、そのためですね。

B それが最大のポイントの一つですね。主要な関係国がどこになるかが、重要ですが、やはり、国連の常任理事国が集まるべきだと思います。でないと、ロシア断罪の場になりますから。通常の意味では、ロシアに非があるのは歴然としていますが、その言い分をしっかり聞くことは大事です。また、比較的その立場に理解を示す国家も加わる方がいいです。その意味で中国の参加がカギを握ります。

A 中国とロシアは、共に専制主義国家というか、非民主主義国家として最近同一グループ視する向きがあるようです。かつて社会主義国家を全面に掲げていた時代はこの両国は歪み合っていたようで、池田先生が双方の和解に向けて動かれたことが知られています。ところで、「民主主義対専制主義」という国際政治の枠組みを設定することに果たして意味があるのでしょうか?

B 新年の新聞各紙の連載やメディアの論調は、そういう枠組みで捉える傾向が歴然としています。しかし、それはかえって危険ですね。冷戦時代に「ソ連脅威論」が西側世界に強かったのですが、むしろ「米ソ対決脅威論」、つまり一方だけを脅威の的にせず、双方が歪み合うことそのものに、脅威の因があるという考え方でした。公明党はその立場に終始しました。

A その背景には、池田先生のソ連、中国という社会主義国家ともパイプを持ち対話をすべし、との率先した「民間外交推進」姿勢があったと思います。戸田城聖会長以来の「地球民族主義」の精神の影響であり、公明党が立党以来堅持している立場ですね。今こそ、その精神の発揮が大事と思いますが。

B 公明党の山口那津男代表が、様々な批判を浴びながらも、中国やロシアを「脅威」と決めつけず、対話を重視すべし、との姿勢に立っているのはそれだと思います。もう一歩進めて、積極的に対中、対露との協調姿勢を打ち出し、「NATO対中露」「民主主義対専制主義」といった枠組み対決の構図にはまらない事が重要だと思います。(2023-1-13  つづく)

 

 

 

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【84】新たな指標と新しい分布図──新年の全国紙連載読み比べ(下)/1-5

 つぎに日経。「New World  分断の先に」と題して、ウクライナ戦争で、停滞を余儀なくされる世界のグローバル化に的を絞る。初回は、世界を繋ぐのは、イデオロギー対立を超えたフェアネス(公正さ)だとの視点が目を惹く。日経独自に学者と組んで新たに「フェアネス指標」なるものを作った。①政治と法の安定②人権や環境への配慮③経済の自由度など10の指標を用いて算出した評価をもとに、今ある国家の位置を複眼で見極めようとする。この指数は概ね民主主義国家が高く、専制国家は低い。だが、それが低い中国との貿易が盛んな国の「経済的リスク」は高くなる。日本もサプライチェーン(供給網)の依存度を適度にしないといけないとの指摘である。これを自公の親中派はどう受け止めるか◆「産経」は、「民主主義の形」。中露の専制主義勢力の横暴な振る舞いの前に、民主主義の価値が問われている。「世界の自由民主主義は大きく衰退した」との世界地図(V-Dem研究所の「デモクラシー・レポート2022」を基に産経が作成)によると、世界179ヵ国・地域は、権威主義国90対民主主義国89の真っ二つ。世界人口で見ると、権威主義国家は現在70%54億人を抱えるという。一回目のスタートは、「米議会襲撃で警官が得た『教訓』」から始まり、「政治を覆う諦念」で終わる。さまよう民意の前に、ネット時代の模索がこれから始まるとの方向性は興味深い。扱い方如何で、世界は大混乱に陥るかもしれないと危惧される◇さて、このように追ってくると、全国紙5紙のうち、「朝日」を除く四紙はいずれもウクライナ戦争に端を発した国際社会の枠組みの変化をテーマにしている。欧米主導の民主主義国家群」対「中露主軸の専制主義国家群」へと、その世界認識は、切り口、力点の置き方、材料の工夫は違えど、ほぼ同じことが分かる。しかし、かつてのイデオロギー対立から、政治体制の対決に移ったというのでは、まるで歴史は〝先祖返り〟したかのようだ。人類の混迷は深い。この闇を晴らせる手立てやいかに。解題の補助線は、やはり〝第3の選択〟にしかないように私には思われる。「第三の77年」のゴールは、2099年。そこまでの道筋に思いをめぐらす一年にしていきたい。(2023-1-5)

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【83】変貌する世界の枠組み──2023年の新聞各紙の連載から(上)1-4

 一昨年末に私は『77年の興亡』を出版し、2022年が歴史的大転換期の始まりになろうことを予測した。それは、明治維新からの77年目の昭和の敗戦に続く、二つ目の77年の区切りになる2022年が転機となるとの自らの〝仮説〟を確信したからだ。この見立ては、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻という出来事で不幸にも裏付けられてしまった。いらい10ヶ月。未だこの攻防は続く。新年の日本の全国紙5紙は、それぞれ、日本社会の変化や国際社会の枠組みの変貌について、連載で取り上げている。ここでは、2回に分け、元旦号(「読売」は2日付け)の内容を概観する◆「朝日」は、「灯(ともしび)  私のよりどころ」と題するインタビュー構成の連載である。最初はベラルーシのノーベル賞作家アレクシェービッチ。彼女の『戦争は女の顔をしていない』は強いインパクトを持つ。ウクライナ侵攻について、「人間から獣がはい出している」と表現。「私たちが生きているのは孤独の時代。私たちの誰もが、とても孤独です。人間性を失わないためのよりどころを探さなくてはなりません」と述べ、そのよりどころは、「日常そのものだけ」で、「人間らしいことによって救われる」という。いかにもこの作家らしい結論は、私には物足りさが残る◆「毎日」は、「『平和国家』はどこへ」。安保3文書の改定は、「『盾』だけでなく、『矛』を持つ方向に、かじを切った」として、水面下での日台の軍事連携を追う。台湾有事に向けて意思疎通の道を探ろうとすると、自ずと中国の反発を招くリスクを当然伴うことに。初回は、台湾在留邦人の退避計画が始動したところを描く。「平和国家」日本に危うさはないのかを問う。日台中関係の現実を暴く深い奥行きを持つ連載になるかどうか。ここに私は注目したい◆「読売」は、「世界秩序の行方」。ウクライナ戦争で崩壊したポスト冷戦構造はどうなるのか──米国主導の後は?日本の戦略はどうあるべきか?がテーマ。第1部は、経済をめぐる攻防で、初回は、バイオ分野をめぐる米中覇権での激突。世界中のゲノムデータや先端技術を中国が強引に蓄積しているとの日米共通の懸念に迫る。世界秩序は米国一極集中から、米中二極化を経て、中国主導となるのか?いや、むしろ人口で中国を抜く勢いのインドが主軸との見方が私には気になる。(2023-1-4)

 

 

 

 

 

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