安倍晋三元首相が選挙最終盤で奈良県の街頭演説先で射殺されて5ヶ月あまり。犯人が旧統一教会信者の家族であり、その供述から同協会を支援してきた安倍氏に対する逆恨みが犯行の原因だった。臨時国会では、悪質な寄付の勧誘を強要する行為を規制する法案が閉幕日に成立した。この法案成立の直接の背景は、言うまでもなく旧統一協会による被害者の救済にある。法律の成立過程には被害者、家族及びその弁護士団の意見陳述が重要な要素を占めている。しかし、出来上がった法律に対してのその人びとの率直な評価は、極めて低い。涙を浮かべながら「私たち被害者を忘れないで欲しい」と言った被害者家族の象徴的コメントを始め、ないよりはましとの意見が専ら。東大の河上正二教授は「100点満点で60点。最初の一歩に過ぎず見直しが必要」という◆国会論議や与野党協議を振り返る報道をメディアで追うと、野党が被害者家族の側に立っていたのに、与党が当初積極的でなく後半になって成立に前向きになったとの論評が多い。また、宗教団体を支援母体に持つ公明党への配慮が足枷になったとも伝えられる。これらの報道をめぐっては真偽のほどは不明である。ためにする見方や、最初からバイアスのかかった思い込みの観点で見る向きが多いことは否めない。この辺りは、報道関係各社の真摯な姿勢に期待する一方、関係政党の党利党略にこだわらないフラットな情報公開を求めたい◆思い起こせば、この問題は今日まで日本社会の中で広く知られていたにもかかわらず、報道機関は生ぬるい対応だった。今頃になって、高みから批判する態度には問題なしとはしない。旧統一協会との接点を持つ政党、政治家も、自民党は勿論、立憲民主党始め野党にも数の差はあれ存在していた。それゆえ、当たり前といえようが、国会で追及してきた議員はほんの僅か。殆ど放置されてきていたのが実態。その責任は大きいと言わざるを得ない◆法案成立の最終段階で、配慮義務に「十分な」という言葉を加えることが与野党協議の決め手になったという点が話題になった。先日のフジテレビのプライムニュースでも、その効力をめぐって論議が交わされていた。これは誰が考えても政治的意味合いはあれども実効力は疑問視せざるを得ない。「言葉遊び」か「ダメ押し」か、などといったことで野党間で議論の応酬をしていると、政治不信が高まるだけだろう。法案が成立したので終わりではなく、より真っ当なものを目指して修正を加えていく必要がある。同時に同協会への「質問権」行使の施行を徹底することで、闇の部分を明らかにすべきである。(2022-12-14)