Author Archives: ad-akamatsu

【86】民衆こそ「歴史創造力」の主役──「池田提言」めぐる対話(下)

A ウクライナを支援する西側がロシアや中国との対話をすなべきだとの主張は正論だと思うけど、果たして相手が応じるかどうか、交渉のテーブルに乗らないのではないかという疑問がありますよね。

B  だからといって、敵視するばかりではもっと危険では?  ロシア、中国も国内政治、とりわけ経済に関心が深いのだから、外相に加え、経済担当の大臣クラスの対話など重層的な話し合いが大事でしょうね。お互いが打ち解け合うことが大事です。

A  確かに、30年前の米ソ交渉は、レーガンとゴルバチョフという開放的な両者の人間性もあって、うまくいったと、昨年末のあるテレビ番組が回顧していました。その点、プーチンはスパイ組織、KGB出身ということもある上、ゴルバチョフのおかげで、ロシアの国力が低下し、世界の中で、辱めを受けた、それを取り戻すとの思いが強いように見えます。

B  その思いが強くあり、「民族の栄光を」、「強いロシアの復活を」との呼びかけに、ロシア国民が今のところ共鳴しているのですね。戦争の実態の情報や世界の反応が真っ当に伝わっていないようです。ただ、やがて必ず情報は浸透すると思います。諦めず、情報閉鎖の壁は打ち破れると確信することでしょうね。ともかく世界はグローバル化しつつ、国家主体はナショナリズムにとらわれているように見えます。

A  そうですね。前大統領のトランプによる、「アメリカ・ファースト」の主張は、強いアメリカの復活待望論を背景にしており、見ようによっては、かつての米ソ両大国が共に落日を迎えているということですね。プーチンの主張に共鳴するアフリカや中南米の国々が少なくないというのは、煎じ詰めれば、「どっちもどっち」との受け止め方が蔓延しているように見えます。

B  その傾向は注目した方がいいですね。どうしても、歴史を振り返ると、かつて、大航海時代の流れを受けて、ポルトガルやスペインが世界を跋扈したあと、イギリスがその首座を奪い、やがてそれはアメリカにとって代わり、今や中国がその位置を奪おうとしているとの見方がポピュラーです。しかし、もはやそういう覇権争いは終わりにしようという考え方も台頭してきています。

A  なるほど、覇権国家ゼロ、つまり、国家は皆同じ価値を持つとの考え方で、左や右、あるいは民主主義や専制主義という二極論ではなく、盟主を決めない、求めないというものですね。考え方としては新鮮で、面白いように思われます。

B  例えば、人口で中国をやがて追い抜く勢いのインドが、NATO、中露のどちらにもつかず、中立的立場をとっているというのは象徴的です。本来なら、日本こそそういう立場をとるべきでしょうが、米国との同盟にどっぷり浸かっていて難しいというのは残念ですね。

A 本当にそう思います。日本は歯痒い限りです。池田先生が既に40回ものSGIの日「記念提言」をされていて、今回の提言にあるような、「核兵器の先制不使用」などを懸命に訴えてきておられるのに、さしたる反応がないのですから。公明党ももっとしっかりしないと。

B  いや、先に政府与党が決めた「安保3文書」にはその姿勢は明確に打ち出されていますよ。他にも公明党が歯止めを色々つけていることは注目されます。大事なことは、国家の枠組みを越えて、市民相互の結集による国際世論の潮流を起こすしかないと思います。ですから、やはり平和の回復に向けて、「歴史創造力の結集」が必要ということなんですね。過去に類例を見ない、未曾有の史上初の動きを創造するということですから。(2023-1-14)

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【85】池田SGI会長の緊急提言をめぐる友人対話(上)

 池田大作創価学会SGI 会長が11日に、ウクライナ危機に対して「緊急提言」をされました。ここではその提言をめぐる問題について、友人との対話を試みました。(あくまで私の主観的見方であることお断りします)

Aこの緊急提言には、『歴史創造力の結集を』とあります。これは耳慣れない言葉ですが、どういう意味があると思います?

B 一番最後に、「核戦争の寸前まで迫った危機を目の当たりにしたからこそ、当時の人々が示したような歴史創造力を、今再び、世界中の国々が協力し合って発揮することが急務」とあります。「キューバ危機」は人類が最初に経験した、文字通り歴史上初めてのことでした。つまり、新たな歴史を「創造」したのです。今回は2度目ですが、初めての時のような〝緊張感と使命感〟を持とうと訴えておられるのだと思います。

A  「結集を」という言葉の持つ意味は、1回目と違って、複数の国家が関係しているからですね。ロシアがウクライナに仕掛けた戦争ですが、NATO諸国が背後でウクライナを支援しています。

B 60年前の時は、「米ソ対決」のニ大国間の狭間で、核戦争の恐怖が高まりました。キューバが戦場とならないうちに、両者の鍔迫り合いのままケネディ、フルシチョフ両首脳の英断で、終わったのです。今回は、ウクライナがNATOへの親近感を示していたこともあり、「ロシア対NATO」の構図になっています。NATOといっても、中心は米国ですが、米国が直接関与すると、全面核戦争になる懸念が強く、間接支援に徹しており、結果的に、戦争が長期に渡って膠着し、一進一退を続けているわけです。まずは、米国、フランス、ドイツ、イギリスなど主要NATO国家の意思が結集される必要があるのです。

A その複数の国家の意思が統一されることが大事ですね。池田先生が、「国連が今一度仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦合意を図る」よう、強く呼びかけているのは、そのためですね。

B それが最大のポイントの一つですね。主要な関係国がどこになるかが、重要ですが、やはり、国連の常任理事国が集まるべきだと思います。でないと、ロシア断罪の場になりますから。通常の意味では、ロシアに非があるのは歴然としていますが、その言い分をしっかり聞くことは大事です。また、比較的その立場に理解を示す国家も加わる方がいいです。その意味で中国の参加がカギを握ります。

A 中国とロシアは、共に専制主義国家というか、非民主主義国家として最近同一グループ視する向きがあるようです。かつて社会主義国家を全面に掲げていた時代はこの両国は歪み合っていたようで、池田先生が双方の和解に向けて動かれたことが知られています。ところで、「民主主義対専制主義」という国際政治の枠組みを設定することに果たして意味があるのでしょうか?

B 新年の新聞各紙の連載やメディアの論調は、そういう枠組みで捉える傾向が歴然としています。しかし、それはかえって危険ですね。冷戦時代に「ソ連脅威論」が西側世界に強かったのですが、むしろ「米ソ対決脅威論」、つまり一方だけを脅威の的にせず、双方が歪み合うことそのものに、脅威の因があるという考え方でした。公明党はその立場に終始しました。

A その背景には、池田先生のソ連、中国という社会主義国家ともパイプを持ち対話をすべし、との率先した「民間外交推進」姿勢があったと思います。戸田城聖会長以来の「地球民族主義」の精神の影響であり、公明党が立党以来堅持している立場ですね。今こそ、その精神の発揮が大事と思いますが。

B 公明党の山口那津男代表が、様々な批判を浴びながらも、中国やロシアを「脅威」と決めつけず、対話を重視すべし、との姿勢に立っているのはそれだと思います。もう一歩進めて、積極的に対中、対露との協調姿勢を打ち出し、「NATO対中露」「民主主義対専制主義」といった枠組み対決の構図にはまらない事が重要だと思います。(2023-1-13  つづく)

 

 

 

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【84】新たな指標と新しい分布図──新年の全国紙連載読み比べ(下)/1-5

 つぎに日経。「New World  分断の先に」と題して、ウクライナ戦争で、停滞を余儀なくされる世界のグローバル化に的を絞る。初回は、世界を繋ぐのは、イデオロギー対立を超えたフェアネス(公正さ)だとの視点が目を惹く。日経独自に学者と組んで新たに「フェアネス指標」なるものを作った。①政治と法の安定②人権や環境への配慮③経済の自由度など10の指標を用いて算出した評価をもとに、今ある国家の位置を複眼で見極めようとする。この指数は概ね民主主義国家が高く、専制国家は低い。だが、それが低い中国との貿易が盛んな国の「経済的リスク」は高くなる。日本もサプライチェーン(供給網)の依存度を適度にしないといけないとの指摘である。これを自公の親中派はどう受け止めるか◆「産経」は、「民主主義の形」。中露の専制主義勢力の横暴な振る舞いの前に、民主主義の価値が問われている。「世界の自由民主主義は大きく衰退した」との世界地図(V-Dem研究所の「デモクラシー・レポート2022」を基に産経が作成)によると、世界179ヵ国・地域は、権威主義国90対民主主義国89の真っ二つ。世界人口で見ると、権威主義国家は現在70%54億人を抱えるという。一回目のスタートは、「米議会襲撃で警官が得た『教訓』」から始まり、「政治を覆う諦念」で終わる。さまよう民意の前に、ネット時代の模索がこれから始まるとの方向性は興味深い。扱い方如何で、世界は大混乱に陥るかもしれないと危惧される◇さて、このように追ってくると、全国紙5紙のうち、「朝日」を除く四紙はいずれもウクライナ戦争に端を発した国際社会の枠組みの変化をテーマにしている。欧米主導の民主主義国家群」対「中露主軸の専制主義国家群」へと、その世界認識は、切り口、力点の置き方、材料の工夫は違えど、ほぼ同じことが分かる。しかし、かつてのイデオロギー対立から、政治体制の対決に移ったというのでは、まるで歴史は〝先祖返り〟したかのようだ。人類の混迷は深い。この闇を晴らせる手立てやいかに。解題の補助線は、やはり〝第3の選択〟にしかないように私には思われる。「第三の77年」のゴールは、2099年。そこまでの道筋に思いをめぐらす一年にしていきたい。(2023-1-5)

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【83】変貌する世界の枠組み──2023年の新聞各紙の連載から(上)1-4

 一昨年末に私は『77年の興亡』を出版し、2022年が歴史的大転換期の始まりになろうことを予測した。それは、明治維新からの77年目の昭和の敗戦に続く、二つ目の77年の区切りになる2022年が転機となるとの自らの〝仮説〟を確信したからだ。この見立ては、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻という出来事で不幸にも裏付けられてしまった。いらい10ヶ月。未だこの攻防は続く。新年の日本の全国紙5紙は、それぞれ、日本社会の変化や国際社会の枠組みの変貌について、連載で取り上げている。ここでは、2回に分け、元旦号(「読売」は2日付け)の内容を概観する◆「朝日」は、「灯(ともしび)  私のよりどころ」と題するインタビュー構成の連載である。最初はベラルーシのノーベル賞作家アレクシェービッチ。彼女の『戦争は女の顔をしていない』は強いインパクトを持つ。ウクライナ侵攻について、「人間から獣がはい出している」と表現。「私たちが生きているのは孤独の時代。私たちの誰もが、とても孤独です。人間性を失わないためのよりどころを探さなくてはなりません」と述べ、そのよりどころは、「日常そのものだけ」で、「人間らしいことによって救われる」という。いかにもこの作家らしい結論は、私には物足りさが残る◆「毎日」は、「『平和国家』はどこへ」。安保3文書の改定は、「『盾』だけでなく、『矛』を持つ方向に、かじを切った」として、水面下での日台の軍事連携を追う。台湾有事に向けて意思疎通の道を探ろうとすると、自ずと中国の反発を招くリスクを当然伴うことに。初回は、台湾在留邦人の退避計画が始動したところを描く。「平和国家」日本に危うさはないのかを問う。日台中関係の現実を暴く深い奥行きを持つ連載になるかどうか。ここに私は注目したい◆「読売」は、「世界秩序の行方」。ウクライナ戦争で崩壊したポスト冷戦構造はどうなるのか──米国主導の後は?日本の戦略はどうあるべきか?がテーマ。第1部は、経済をめぐる攻防で、初回は、バイオ分野をめぐる米中覇権での激突。世界中のゲノムデータや先端技術を中国が強引に蓄積しているとの日米共通の懸念に迫る。世界秩序は米国一極集中から、米中二極化を経て、中国主導となるのか?いや、むしろ人口で中国を抜く勢いのインドが主軸との見方が私には気になる。(2023-1-4)

 

 

 

 

 

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【82】米国と共同対処や43兆円の防衛費で対応(下)/12-28

●「中国脅威」をわざわざ持ち出さずとも

   前回までに見た基本的な戦略に基づいて、具体的戦略の構え方が提示されているのが、第二文書「国家防衛戦略」である。骨格は、米国を始め同盟国との連携によって、周辺国からの力による現状変更の試みを阻止することだ。その戦略の鍵に「反撃能力」がなるとした上で、重視する能力の具体例を列挙していく。①地上発射型および艦艇発射型を含めたスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する②無人機による情報収集、警戒監視のみならず戦闘支援など幅広い任務に活用する③防衛省・自衛隊で能動的サイバー防御を含め政府全体の取り組みと連携する④島しょなどわが国に侵攻する部隊の接近、上陸を阻止するため、自衛隊の海上輸送力・航空輸送力を強化する⑤27年度までに、弾薬、誘導弾の必要数量の不足を解消する──などといった具合に。

 さらに、第三分書「防衛力整備計画」では、具体的に装備を整備する手順について事細かに挙げている。そして、それを実現するために、「23年度から5年間の計画実施に必要な防衛力整備費用は43兆円程度とする」と、締め括っている。

 以上の3文書策定に対して、与党内で批判が集中したと報じられたのが、43兆円もの費用をどう捻出するのかとの「財源論」についてである。防衛国債から始まり、法人税、たばこ税、震災税の転用などと、議論百出の末に、結論は先送りされたのは周知の通りである。迫り来る外敵の「挑戦・脅威・懸念」の〝恐怖3点セット〟を前に、お金の算段で揉めるとはいかにも「民主国家」らしい、などと皮肉はいわない。結局は、国民の財布に頼るしかないのだから、大いに議論をして、国民的大論争を展開すべきだと思う。

 今回の問題の中で、一部メディアが日本が中国に対して弱腰なのは公明党が原因だとの誤謬を犯している。直接的なきっかけは、中国の昨今の動きを「脅威」とせずに「挑戦」との表現にゆるめさせたことが挙げられている。直接その場にいた身ではないゆえ、ことの真偽は闇の中だ。背景には山口那津男代表の対中姿勢があろう。同氏は常日頃から、いたずらに敵視せず、慎重で丁寧な外交を主張しているからだ。

 ここ10年余の習近平・中国の「一帯一路」構想の展開や、南シナ海、尖閣列島付近での我がもの顔の動きが気にならぬ日本人はいない。そんな中国に手ごころを加えるとはとんでもないというわけである。その気持ちは分かるものの、「中国脅威」論をここで持ち出すのは得策とはいえない。大事なものはのちのちに取っておくというのはこの世の通り相場でないか。お隣さんとの付き合いに差異化があっても悪くないと私は思う。(12-28   この項終わり)

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【81】これまでとどこがどう違うのか(中)/12-26

●「反撃能力」の保持を明記

    これまでとどこが違うのか。「防衛に徹する姿勢」を逸脱しようとしているとの批判もある。しかし、この文書を読む限り、それは余計な心配に過ぎない。まず、第一文書の「安全保障戦略」の基本原則には「平和国家として専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」とある。従来と同様に、「専守防衛」「非核三原則の堅持」が掲げられている。わが国の領土、領海、領空の領域を徹して守り、他国の領域で戦闘行為はしないし、核についても、「持たず、作らず、持ち込ませず」の3原則の堅持をすることに変化はない。

 では、どこが違うのか。まず、冒頭に「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と述べた上で、具体的に3つの隣国の動向への受け止め方を明記している。中国については、「対外的な姿勢や軍事動向は、わが国と国際社会の深刻な懸念事項だ。法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の総合的な国力と同盟国や同志国との連携で対応すべきだ」としている。

 北朝鮮については、弾道ミサイルの繰り返し発射や核戦力の質的量的向上という「軍事動向はわが国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている」と、厳しく警鐘を鳴らす。また、ロシアの軍事動向は「中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念だ」と表明している。ここで、3カ国を名指して、それぞれの軍事動向を「挑戦」「脅威」「懸念」と、相手国ごとに言葉を使い分けられていることが注目される。

     その上で、どう日本が対応するのかの明記が、従来との最も大きな相違点である。一言でいえば、「過去に政策判断として、保有してこなかった『反撃能力』を持つと決断した」のである。「反撃能力」とは何か。「相手からミサイル攻撃がなされた場合、ミサイル防衛により飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からのさらなる武力攻撃を防ぐため、わが国から有効な反撃を加える能力」であって、「わが国に対する武力攻撃が発生した場合、武力行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域で反撃を加えることを可能とする」と位置付けている。これに加えて、「憲法および国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではない」「武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されない」と、幾重にも条件をつけているのである。

 かつて、公明党は日本を攻撃しようとする国に思い止まらせるために、「ハリネズミ国家」に例えたことがある。その表現が適切かどうかは別にして、触ると痛い目に合うぞとのイメージはわかりやすい。(12-26   以下つづく)

 

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【80】安全保障関連3文書とはなにか(上)/12-24

 さる16日に閣議決定された「安全保障関連3文書」について考えたい。これをどう評価するかは、もちろんその人間の立場、国際情勢認識によって異なるが、同じグループに属するものであっても捉え方はかなり違うように思われる。ここでは、3文書をどう見るか、日本の防衛を政府与党はどう変えようとしているかを、公明党に寄せられている疑問への考え方も含め、3回にわたって触れてみたい。

 ●歴史的なパワーバランスの変化への対応

 まず、この3文書なるものは、①国家安全保障戦略②国家防衛戦略③防衛力整備計画の3つをさす。これらのうち、①は、従来「国防の基本方針」と言っていたもので、2013年に既に改めている。②と③は、これまで「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」と言っていたものをそれぞれ衣替えしたのである。いずれも概ね10年をめどに見直すとしている。公明党のほぼ60年の歴史のうち、前半3分の2の40年ほどは野党として、これらの防衛の基本原則を批判的に監視するスタンスであった。後半の20年は与党であったため(民主党政権下の3年は除く)、監視するというより厳しく見守る態度だったといえようか。シビリアンコントロールの精神のまっとうな展開を目指した。

 そんな役割の変化の中で、今回の改定は約10年ぶりの基本的な安保戦略の見直しと共に、その戦略の展開及びそれに基づく具体的な装備を始めとする防衛力の整備計画を定める作業であった。なぜ今かを、一言で表現すると、「歴史的なパワーバランスの変化が生じた」からである。「ロシアによるウクライナ侵略で、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた」し、「同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアで発生する可能性は排除されない」との現状認識によるものだといえよう。

 結党以来、初めて国家の統治の根幹に公明党が関わったのは、6年前の「安保法制」の時だったとされる。政策的判断からしてこなかった「集団的自衛権」行使に、踏み切ったからである。「憲法9条違反」との批判を受けたが、公明党的には、「憲法のギリギリ枠内」との判断であった。その枠組みにそって、新たな事態に対応しようと、従来からの「3点セット」を書き直したのが今回の試みである。その意味では、憲法の枠内での第2弾の展開といえよう。(2022-12-24  つづく)

 

 

 

 

 

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【79】防衛費増と日本の安全保障をどう考えるか/12-21

 先日フジテレビで、読売、朝日、産経の三新聞社の政治部長が集まって、防衛三文書、防衛費増などをめぐる政府与党の動きについて議論している番組があった。ここで興味深かったのは、最後に紹介された視聴者の意見だった。それは3人の議論が、政策というより政治的動きに偏りすぎている、この国の防衛をどう展開するのかの議論がもっと聞きたかったと疑問が示されていたことであった。これは鋭い意見で、司会も3人の政治部長も、その非を認めてはいたが、果たしてどこまで分かっていたか疑問だと私は思う◆というのは、国会でも与党内の議論でもあまり本格的な安全保障をめぐる議論はなされない傾向があるからだ。政策よりも、政局好きなのはメディアも政治家も同じという気がしてならない。それはそれで大事なのだが。例えば、防衛費増については、当初、初めに防衛費枠最初にありきではなく、積み上げが大事──人件費や砲弾にまで含めて何が足りていないか──だとの議論が、国会討論会の場などでもなされていた。しかし、与党内の議論が終わってみると、積み上げ部分についてはあっさり吹っ飛んで、GNP 2%枠やら総額43兆円などの数字だけが飛び交っている。これでは、この金額が高いとか、財源がどうだとかの議論にばかりに国民の関心が向かうのも無理はないように思われる◆今回の防衛費増については、ロシアのウクライナ侵略戦争や、中国の台湾併合への懸念、そして北朝鮮の日本海に向けての度重なるミサイル発射などの三隣国の動きが背景にあることはいうまでもない。これまで、自衛隊が動こうにも動けないほど、実戦で役立たない防衛力しかないことは取り沙汰されてきている。ようやく、隣国の動きが風雲急を告げてきて、腰をあげるように見えるのは嘆かわしい。ここら辺りについて、常日頃から議論がなされ、国民も共有していることが大事なのだが、依然として、安全保障になると、〝非武装的平和論〟が幅を利かせるばかりである◆オールオアナッシング(全てか無か)ではなく、必要な防衛力はきちっと持つことが大事だとの考えに立った議論が望ましい。かつての防衛論議は、野党第一党が非武装平和主義であったため、一歩も進まなかった。今は、そうではない。共産党や令和新撰組が、外交力を強調し、防衛力増には否定的(共産党は政権をとると自衛軍を持つ懸念は否定できないが)であるだけ。立憲も維新も野党の中核が一定の防衛力を持つことに肯定的なのだから、今こそもっとオープンに必要な防衛力論議を進めるべきだ。通常国会での議論に期待したい。公明党については、中国やロシアと政治スタンスが近いなどといった風評があるが、これも商業週刊誌の〝ためにする〟噂話の域を出ない。公明党ももっと自らの立場がいわゆる「対中脅威論」ではないのはなぜかを積極的に語らないと、誤解が広まるだけだと思う。今こそ与党内の議論だけでなく、与野党も、国民も安全保障の大議論を起こすことが大事ではないか。(2022-12-21)

 

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【78】「旧統一協会」問題と臨時国会論議/12-14

 安倍晋三元首相が選挙最終盤で奈良県の街頭演説先で射殺されて5ヶ月あまり。犯人が旧統一教会信者の家族であり、その供述から同協会を支援してきた安倍氏に対する逆恨みが犯行の原因だった。臨時国会では、悪質な寄付の勧誘を強要する行為を規制する法案が閉幕日に成立した。この法案成立の直接の背景は、言うまでもなく旧統一協会による被害者の救済にある。法律の成立過程には被害者、家族及びその弁護士団の意見陳述が重要な要素を占めている。しかし、出来上がった法律に対してのその人びとの率直な評価は、極めて低い。涙を浮かべながら「私たち被害者を忘れないで欲しい」と言った被害者家族の象徴的コメントを始め、ないよりはましとの意見が専ら。東大の河上正二教授は「100点満点で60点。最初の一歩に過ぎず見直しが必要」という◆国会論議や与野党協議を振り返る報道をメディアで追うと、野党が被害者家族の側に立っていたのに、与党が当初積極的でなく後半になって成立に前向きになったとの論評が多い。また、宗教団体を支援母体に持つ公明党への配慮が足枷になったとも伝えられる。これらの報道をめぐっては真偽のほどは不明である。ためにする見方や、最初からバイアスのかかった思い込みの観点で見る向きが多いことは否めない。この辺りは、報道関係各社の真摯な姿勢に期待する一方、関係政党の党利党略にこだわらないフラットな情報公開を求めたい◆思い起こせば、この問題は今日まで日本社会の中で広く知られていたにもかかわらず、報道機関は生ぬるい対応だった。今頃になって、高みから批判する態度には問題なしとはしない。旧統一協会との接点を持つ政党、政治家も、自民党は勿論、立憲民主党始め野党にも数の差はあれ存在していた。それゆえ、当たり前といえようが、国会で追及してきた議員はほんの僅か。殆ど放置されてきていたのが実態。その責任は大きいと言わざるを得ない◆法案成立の最終段階で、配慮義務に「十分な」という言葉を加えることが与野党協議の決め手になったという点が話題になった。先日のフジテレビのプライムニュースでも、その効力をめぐって論議が交わされていた。これは誰が考えても政治的意味合いはあれども実効力は疑問視せざるを得ない。「言葉遊び」か「ダメ押し」か、などといったことで野党間で議論の応酬をしていると、政治不信が高まるだけだろう。法案が成立したので終わりではなく、より真っ当なものを目指して修正を加えていく必要がある。同時に同協会への「質問権」行使の施行を徹底することで、闇の部分を明らかにすべきである。(2022-12-14)

 

 

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【77】師走の日曜日、西宮から神戸へと、動き・聞き・語る/12-5

 昨4日、朝9時から夜10時まで、絶え間なく人に会い、聞き、語り合う楽しい懇談で充実した日を過ごしました。まず、朝は西宮江上町にある、公益財団法人『奥山保全トラスト』の本部での理事会。自然環境保護に長年取り組んでこられた大学教授、大学経営に携わられる元衆議院議員らの理事の皆さんと共に私も参加しました。お昼まで、この一年の事業展開を総括したり、内閣府に提出する文書などの点検に勤しみました。全国各地で「再生エネルギー確保」名の下に、森林破壊など乱開発が進められている現状に、早急な対応をせねばとの認識を共有したのです。静岡県浜松市の佐久間トラスト地近傍の開発計画にストップをかけるべく、今月半ばに動くとの報告があり、それを受けての国会陳情に私も協力することにしました◆その後は、一年の納めでもあることから、皆で場所を移し、昼食懇親会を阪神西宮駅そばで。そこでは新たに理事候補になった台湾出身の青年や、事務局の若者たちと卓を囲み、〝男女混在・老青一体〟の有意義なひとときになりました。この法人は『日本熊森協会』と姉妹団体。両法人ともにトップは女性で、子育て真っ最中。片や弁護士、もう一方は高校英語教諭ですが、おふたりとも幼子を連れての参加もしばしば。この日も、〝未来からの使者〟ひとりが卓の周りを這い回っていました。昭和戦前生まれを筆頭に、団塊の世代から、その第二世代まで幅広い人たちが集まったわけで、相互に刺激し合う会話が飛び交いました。若い男女青年との語らいは私にとって何よりものパワー源です◆3時からは、神戸市脇が浜海岸住宅に阪神電車で移動。春日野道駅から歩いて10分。元神戸新聞編集委員の武田良彦さんの4LDKの全ての部屋はどこもかしこも骨董品だらけ。仏像やら陶磁器などありとあらゆる珍品が所狭しと陳列されていました。実はこの人、そのむかし東京支社勤務時代に国会担当で親しくした友人。このほど『骨董病は治りません』という〝超面白本〟を出版したばかり。贈呈していただき、今読んでる最中です。たまたまこの日は、彼の自宅で年に一回開かれる芋煮会ということを知り、押しかけました。彼は山形県生まれ。珍しい同県の食材をいただきながら、集まった彼の職場の後輩たち4人の現役記者と懇談したのです。骨董については全くの門外漢ですが、この20数年彼が買い込んだ品々を背にし、横にしての〝骨董談義〟は笑いと感動の連続でした。日本文化の奥深き粋は骨董品にあり、を実感したしだいです◆夜は西明石駅で小説家の高嶋哲夫さんと6時前に待ち合わせ、川崎町の我がマンションに向かい(私は帰り)ました。我妻の姫路在住の友だちたちとの〝女子会〟のゲストとして今回彼を招いたものです。高嶋さんは、『首都感染』『メルトダウン』など現代社会をめぐる、ありとあらゆるテーマで小説を書き続ける気鋭の作家です。最近は『EV』で近未来の自動車産業の展開を追い、『落葉』でパーキンソン病患者の甦りの姿をあつく描いています。お好み焼きと焼きそばをいただきながらの、読書好きお喋り好きの女性たち3人との語らいは、あっという間の4時間でした。この夜の主たる話題は、近未来に襲ってくるはずの大地震やら、混迷続く日本政治の行方でした。別れ際に、女性たちは、1999年にサントリーミステリー大賞を受賞した『イントゥルーダー』を、高嶋さんから頂いていました。サインには「夢を叶える」と。〝13時間の連続行〟の1日を終えた私はそそくさとベッドイン、〝夢の中の人〟になりました。(2022-12-5)

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