●国際平和を築く確たるビジョンを
次に安全保障について。「戦争巻き込まれ論」と「日本平和ボケ論」といった常套句に代表される左右の確執が、日本の戦後77年の防衛論議の実態でした。
そこへロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵攻が勃発しました。〝ウクライナ支援〟に当たる欧米各国と、ロシアの側に立つ中国などとの深刻な対立を生み出しているのです。国際秩序は、米ソ対決の冷戦、米国一極化の新冷戦時代を経て、米欧・中露対決、つまり民主主義国家群と専制主義国家グループとの対決の様相を強めてきています。
そうした国際情勢の中で、日本はどう振る舞うか。日米安保条約体制の強化において、自公与党間の意志は堅固であっても、中国をめぐるスタンスは〝微妙に〟違います。本来、公明党は、軍事力でなく、話し合いによる外交の展開で平和を勝ち取ることが基本姿勢です。「地球民族主義」に依拠してきた公明党の国際認識は〝善隣友好〟であり、どの国であれ、敵視しないことが基本です。「中国」更に「台湾」をめぐって、自公両党内にも様々な立場があります。これらを調整し、これからの世界をどう作り上げていくか。さらに、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保持についても、防衛費のありようについても、いささかの違いがあるように見受けられます。この辺りも、しっかりと議論がなされる必要があります。
ともあれ、日本が分断から破綻へと向かわぬように、国際平和を築く確たるビジョン形成に自公両党が協調することです。元内閣官房副長官補(国家安全保障局次長兼務)の兼原信克氏が、これまで『現実主義者のための安全保障のリアル』(2021)などの一連の著作で、アンリアルな〝政治家の安全保障観〟を嘆き、〝目覚め〟をけしかけてきています。そろそろ議員の皆さんも答えを出さねば、〝政官知的格差〟が恥ずかしいとおうものです。
●「原発」をめぐる複雑な様相
更にエネルギーについても。ウクライナ情勢で、電力の逼迫が急を告げ、石油、天然ガス価格の急上昇が庶民生活を直撃。エネルギー保障の問題が一段と切迫を強めてきています。東日本大震災での「福島第一原発」事故以来、水力、太陽光、風力などの自然エネルギーへの期待が、温暖化防止へのカーボンニュートラルの動きと共に高まってきていますが、それぞれ課題は山積していて、ことは深刻です。
解決は難しくないという向きは、「原発再稼動」を主張します。安全に留意して稼働させ、大震災以前の姿に戻せばことは解決するというのです。一方、伝統的なこの考え方はもはや許されず、自然エネルギーに重点を移す新しい行き方にチェンジするしかないとの主張があります。両党内にも種々の考え方の違いがあり、これはまた、世界の経済発展にまつわる国家間対立とも絡み合った複雑な様相を呈してきているのです。
日本原子力研究所を経て、留学後に作家になり、小説『首都汚染』(2020)で、今日のコロナ禍を予測した高嶋哲夫氏は、今『EV』(2021)で、近未来の世界をリアルに描いてみせています。更に一連の論考での、多彩な原子力の活用やら、水素社会への示唆も注目されます。こうした民間の知恵も生かして、両党は、エネルギー保障の未来像作成に総力をあげて取り組むべきでしょう。そこから生まれるビジョンを待望する声は極めて大きいのです。
今、三つのテーマを軸に、日本のビジョンを作る場を与党内で持って、検討して欲しい旨を述べてきました。そこで重大な忘れ物があるとのご指摘を受けそうです。そう、憲法です。これはあえて外しました。ここから始めると、まとまるものもまとまらなくなる可能性があります。このテーマではある意味で、両党間での論点は整理され、違いも明瞭になっていると私は思います。
衆議院憲法調査会、同審査会に長く籍をおいてきた私は、自民党議員の皆さんと議論をしてきました。その一つの結果として、「自衛隊の憲法上明記」ということが、自民党の「改憲4項目」に挙げられてきたと、私は理解しています。この辺りは、無念極まりない死を遂げられた安倍晋三元首相の胸中深くに思いを致す程度にしておきましょう。(2022-8-8 つづく)
※この原稿は毎日新聞Webサイト『政治プレミア』(8-1付け)欄に寄稿したものを転載しました。