【123】「人間性社会主義」の体現━━小説『新・人間革命』第30巻下「誓願」の章から考える❶/6-14

●東西冷戦の終結への決断

 1982年(昭和57年)の創価学会は、全国各地での平和文化祭と、本格的な平和運動の展開を、二つの軸として活動を展開していきました。前者は、関西での青年平和文化祭(3月)を先駆けに、中部から全国へと広がり、後者は、国連本部での「現代世界の核の脅威展」(6月)の開催をピークに全国各地での「平和講座」開催や、「アジアの難民」救援募金の実施など、大きなうねりを示していきました。この章では、冒頭にこうした動きがまとめられています。そして、1983年(昭和58年)5月にSGIが国連経済社会理事会(ECOSOC)の、協議資格を持つNGOとして登録され、同年8月には、伸一に「国連平和賞」が贈られるのです。(209-239頁)

   ここから、記述のテンポが早まり、1984年から2001年までの17年間の歩みが凝縮して語られていきます。その中では、84年2月のブラジル、ペルー訪問、87年2月のドミニカ共和国、パナマ訪問などと共に、各国首脳との対話が進められていきます。ここで、ひときわ注目されるのが、第五次訪ソ(1990年7月)でのゴルバチョフ大統領との会談、同年10月のアフリカ民族会議のマンデラ副議長との会見です。

 ゴルバチョフ大統領と伸一との出会いは、のちに対談本『20世紀の精神の教訓』へと結実していきますが、その冒頭を飾るシーンは感動的です。(254-256頁)

 「会長は、ヒューマニズムの価値観と理想を高く掲げて、人類に大きな貢献をしておられる。私は深い敬意をいだいております。会長の理念は、私にとって、大変に親密なものです。会長の哲学的側面に深い関心を寄せています。ペレストロイカ(改革)の『新思考』も、会長の哲学の樹の一つの枝のようなものです」

「私もペレストロイカと新思考の支持者です。私の考えと多大な共通性があります。また、あるのが当然なんです。私も大統領も、ともに『人間』を見つめているからです。人間は人間です、共通なんです。私は哲人政治家の大統領に大きな期待を寄せています」

 伸一は東西冷戦の終結に果たしたゴルバチョフの役割について、【彼の決断と行動は、ソ連東欧に、自由と民主の新風を送り、人類史の転換点をつくった】と高く評価しています。そして、【新しき時代の地平を開くには、平和と民主と自由を希求してきた人びとの心を覆う、絶望を、シニシズム(冷笑主義)を、不信を拭い去らねばならない】(276-284頁)と強く戒めています。

 ゴルバチョフ氏の運命は波乱に富んだものでした。ソ連の最初の大統領を務めながらも、志半ばでその座を追われてしまいます。21世紀最初の20年は〝プーチンの逆襲〟による「歴史の逆転」に晒され、昨年、ウクライナ戦争の勃発の後に、深い憂いの中に死を迎えました。かつて伸一は「人間性社会主義」の理念を提唱しましたが、ゴルバチョフ氏こそその体現者だったように思われてなりません。

●宗門問題の決着

 第1次宗門事件の際に、会長を辞任した伸一は、〝もう一度、広宣流布の使命に生き抜く師弟の絆で結ばれた、強靭な創価学会を創ろう〟と行動します。「その中で後継の青年たちも見事に育ち、いかなる烈風にも微動だにしない、金剛不壊の師弟の絆で結ばれた、大創価城が築かれていった」のです。そして、その後も、伸一は一貫して、「僧俗和合への最大の努力を払い、宗門の外護に全面的に取り組んで」いきました。その結果、世界広布の潮流が広がっていくのですが、またも第2次宗門事件が起こります。そのピークとも言うべき出来事は、宗門からの創価学会への「解散勧告書」であり、「破門通告書」(11月28日付け)の送付でした。

 これに対して、「創価ルネサンス大勝利記念幹部会」の席上、伸一は「11月28日は、歴史の日となった。『十一月』は学会創立の月であり、『二十八日』は、ご承知の通り、法華経二十八品の『二十八』に通じる。期せずして、魂の〝独立記念日〟にふさわしい日付になったといえようか」と述べ(330頁)、以下のように結論づけています。

【振り返ってみれば、91年(平成3年)は、まさに激動の一年であったが、学会の「魂の独立」の年となり、新生・創価学会の誕生の年となった。そして、世界宗教への大いなる飛翔の年となったのである。今、人類の平和と幸福を創造しゆく大創価城は、厳とそそり立ったのだ。世界広宣流布の時代を迎え、「悪鬼入其身」と化した宗門は、魔性の正体を現し、自ら学会から離れていった。不思議なる時の到来であった。すべては御仏意であった】(335頁)

この年は、国際政治の上で、東西冷戦の決着となったソ連崩壊の年でもありました。東西冷戦の終結と宗門問題の経緯を対比させながらの約百頁の記述には、激動の時代を偉大な師と共に生き抜けた喜びを感じざるを得ません。(2023-6-14)

 

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